第26話 少し遠い視線
その日の朝、村に小さな変化があった。
人の集まり方が、少しだけ違う。
焚き火の周りに自然と間隔ができ、作業の時間も重なりすぎない。誰かが決めたわけではない。ただ、昨日までの感覚が、静かに残っている。
アリアは巡回をしながら、その様子を眺めていた。
(もう、触る必要はありませんね)
結界は安定している。
癖は消え、流れは均一だ。
昼前、リまではなく、少し年上の村人がリーナに声をかけているのが見えた。
「ここ、どう思う?」
結界点ではない。
人の動きの話だ。
リーナは、すぐには答えなかった。
周囲を見渡し、風向きと音の流れを確かめる。
「……今は、大丈夫だと思います」
断定ではなく、判断だった。
「じゃあ、いつも通りでいいな」
それで会話は終わる。
アリアは、少し離れた場所からそれを見ていた。
声をかけるつもりはない。
(視線が……外に向いていますね)
リーナは、結界そのものを見る時間よりも、人の動きを見る時間が増えている。
結界を見る“目”から、生活を見る“目”へ。
午後、村の入口で、見慣れない旅人が立ち止まった。
一人だ。荷は軽く、長居するつもりはなさそうだ。
「泊まれるか?」
村人が応じる前に、リーナが一歩前に出た。
「はい。ただ……夜は静かです」
それだけを伝える。
「それでいい」
旅人は、深くは聞かなかった。
夜、結界は静かだった。
外からの圧もない。灯りは内に寄り、気配は散らない。
アリアは結界点に触れ、最後の確認をする。
問題はない。
宿に戻る途中、リーナが小さく声をかけてきた。
「……今日は、何も起きませんでした」
「ええ」
「それが……少し、嬉しいです」
アリアは、答えなかった。
その感情が、自然に芽生えたものだと感じたからだ。
結界は今日も、薄く村を包んでいる。
少し遠い視線を、内側に抱えながら。
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