第24話 すぐには直さない
翌朝、村はいつもと変わらない様子だった。
人々は畑に出て、鍛冶場からは金属音が聞こえる。夜に何かが起きた形跡はなく、恐怖も不安も表に出ていない。
それでも、アリアは結界の縁に残る、わずかな癖を感じ取っていた。
(急ぎではありませんが……残っていますね)
均してしまえば、それで終わる。
けれど、昨日はあえて触らなかった。そして今朝も、まだ触らない。
巡回を終えたアリアは、集会所には向かわず、宿の裏で静かに時間を過ごしていた。
昼前、リーナが一人で村の外れに立っているのが見えた。
結界点からは、きちんと距離を取っている。
ただ、じっと見ている。
アリアは声をかけなかった。
しばらくして、リーナは村の中央へ戻り、村人に声をかけ始めた。
「昨日……少し、動かしすぎました」
唐突な告白だった。
「だから、今日はここを……元に戻してもいいですか」
焚き火の位置、作業の集まり方。
提案は控えめで、断られても引くつもりの距離感だった。
「いいよ」
「元の方が楽かもな」
誰も責めなかった。
それが、リーナには少し意外だったようだ。
配置が戻るにつれて、結界の縁の滞留が、ゆっくりと薄れていく。
完全ではないが、夜に残るほどではなくなった。
夕方、リーナはアリアのもとへ来た。
「……触らなくても、戻ることがあるんですね」
「あります」
「でも、全部は戻らない」
「ええ」
アリアは、はっきりと言った。
「だから、最後に触ります」
その言葉を聞いて、リーナは小さく息を吐いた。
「……最初から触っていたら、気づかなかった」
「はい」
それ以上の説明はなかった。
夜、アリアは結界点に手を当てた。
ほんの少しだけ、残った癖を均す。
それで十分だった。
結界は、再び均一さを取り戻す。
強くも、弱くもない、いつもの状態だ。
村の灯りが消えていく中、リーナがぽつりと言った。
「……独りで決めない、ですね」
アリアは答えなかった。
その言葉が、すでに自分の中で形になり始めていると感じたからだ。
静かな夜が、村を包む。
すぐに直さなかった時間も含めて、今日の支援だった。
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