表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 朝比奈ミナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

第23話 小さな独断

 昼過ぎ、空気が少しだけ重くなった。


 雲が低いわけでも、風が荒れているわけでもない。ただ、結界の縁で、音と気配が溜まりやすくなっている。季節の境目に時々起きる、微妙な偏りだ。


 アリアは宿の裏で作業をしていた。

 巡回は朝に終えている。大きな歪みはない。だから、今日は様子を見る日にしていた。


 一方で、リーナは村の外れにいた。


 北側の畑で、人が集まっている。

 移ってきた世帯の手伝いで、作業が重なっていた。声が増え、道具の音が連なり、気配が結界の縁に寄っていく。


(……このままだと、夜に残る)


 リーナは立ち止まった。

 触らない。触らないと、決めている。


 けれど――。


(場所を動かすだけ、なら……)


 彼女は結界点に近づかなかった。

 代わりに、畑の端で作業していた人に声をかける。


「すみません……道具、少し内側に置いてもらえますか」


「内側?」


「風が、こっちに流れているので」


 理由は曖昧だったが、拒まれなかった。

 数人が動き、音の溜まり方が変わる。


 確かに、楽になった。

 結界の縁のざわつきは、少し和らいだ。


(……よし)


 そこで、止めておけばよかった。


 夕方、別の畑でも同じような状況を見つけた。

 今度は、焚き火の位置だ。


(同じことを、すれば……)


 リーナは、同じ判断を繰り返した。

 誰かに相談はしなかった。急ぐほどではないし、自分でできる範囲だと思ったからだ。


 結果は、半分だけ正しかった。


 夜、結界の縁に、わずかな滞留が残った。

 壊れない。危険でもない。だが、均一さが崩れている。


 アリアは、巡回の途中でそれに気づいた。


(……少し、癖が残っていますね)


 結界点に手を当てる前に、周囲を見る。

 作業の配置、焚き火の位置、音の流れ。


 理由は、すぐに分かった。


 直すのは簡単だ。

 触れて、均せばいい。


 けれど、アリアは触らなかった。


 翌朝、集会所の前でリーナと向き合う。


「昨日、何かしましたか」


 責める口調ではない。

 確認だけだ。


 リーナは、少し迷ってから頷いた。


「……場所を、動かしました」


「二か所、ですね」


 リーナの肩が、小さく揺れる。


「良かれと思って……」


「ええ」


 否定はしなかった。


「結果は、半分正解です」


 その言葉に、リーナは顔を上げる。


「でも……半分、ですね」


「はい」


 アリアは、結界の縁を指さした。


「一か所ずつ見れば、問題はありません。でも、重なると癖になります」


 説明は、それだけだった。


「触らなかったのは、良い判断です」


「……でも」


「でも、独りで決めました」


 リーナは、黙って頷いた。


「次は、どうしますか」


 答えを与えない問いだった。


 少しの沈黙のあと、リーナは言った。


「……一度、止まります」


 アリアは、それを否定しなかった。


 その夜、結界はアリアの手で均された。

 時間はかかったが、跡は残らない。


 村は、静かだった。

 何も起きていない夜だ。


 けれど、リーナは眠りにつく前、天井を見つめていた。


 触らなかったこと。

 動かしたこと。

 独りで決めたこと。


 どれが間違いで、どれが足りなかったのか。


 答えは、まだ出ていない。


 結界は今日も、薄く村を包んでいる。

 小さな独断の余韻を、残したまま。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ