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婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 朝比奈ミナ


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第2話 辺境への道

 王都を発つ朝は、思っていたよりもあっさりしていた。


 荷物は小さな鞄一つ。衣服と、最低限の生活道具、それから結界調整用の簡素な器具。王城の部屋に残したものは多いが、持っていきたいと思うものは、驚くほど少なかった。


 城門を抜けると、石畳は土の道に変わる。

 背後にそびえる城壁を、アリアは振り返らなかった。


 辺境行きの馬車は、商人と旅人を乗せた混乗だった。豪華さはないが、屋根と座席はしっかりしている。御者に目的地を告げると、少しだけ驚いた顔をされた。


「開拓村、ですか。珍しい」


「……ええ。仕事があって」


 それ以上は聞かれなかった。その距離感が、ありがたい。


 馬車が動き出すと、王都の結界を離れた空気が肌に触れる。守られていた場所から外へ出たのだと、今さら実感が湧いた。けれど、不思議と不安は少ない。


 道中、アリアは窓の外を眺めながら、結界の流れを感じ取っていた。王都の外縁は、やはり粗い。ところどころに歪みがあり、魔力の巡りが滞っている。だが、それは異常というほどではない。


(放置されている、というだけ)


 誰かが直せば、良くなる。

 ただ、それを担う人がいないだけだ。


 昼過ぎ、馬車は小さな休憩地に停まった。簡素な茶屋と、馬のための水場。アリアは降りて、伸びをする。そこで、近くに立つ男と目が合った。


 革鎧を身につけた冒険者らしき青年だ。鋭さはあるが、威圧感はない。


「長旅ですか」


「ええ、少し」


 それだけのやり取りで、互いに深入りはしなかった。けれど、出発前に彼が御者へ声をかけるのを聞いた。


「この先、夜道は気をつけて。最近、魔物が増えてる」


 胸の奥が、わずかにざわつく。

 結界が弱い土地なのだろう。


 日が傾く頃、目的の開拓村が見えてきた。

 柵はあるが低く、見張り台も簡素だ。村というより、集落に近い。それでも、畑には人影があり、煙突からは煙が上がっている。


 馬車を降りると、年配の男性が近づいてきた。


「お客さんかい?」


「いえ……こちらで、結界の調整をさせていただけないかと思って」


 そう告げると、男は目を瞬かせた。


「結界? そんなもん、うちにあったかね」


 アリアは頷き、村の周囲に視線を走らせる。


「あります。弱いですが、ちゃんと。少し手を入れれば、夜はもっと静かになります」


 男はしばらく黙り込み、それからゆっくりと息を吐いた。


「……村長を呼んでくる」


 連れてこられた村長は、噂に聞いていた通りの朴訥とした人物だった。話を聞き終えると、短く頷く。


「試すだけなら、構わん。金は……成果を見てからでいい」


「ありがとうございます」


 その夜、アリアは村の外れで、結界点を探した。

 壊れてはいない。ただ、長い間、誰にも触れられていなかっただけだ。


 指先で歪みを確かめ、呼吸を合わせる。

 少しずつ、丁寧に。


 作業を終えた頃、夜風が変わった。

 冷たさが和らぎ、ざわついていた気配が遠のいていく。


 村に戻ると、宿屋の娘が不思議そうに空を見上げていた。


「あれ……今日、静か」


 その一言に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


(よかった)


 それだけで、十分だった。


 この場所なら。

 ここなら、役に立てるかもしれない。


 アリアは、初めて王都の外で、少しだけ安らかな眠りについた。


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