第12話 任せるという選択
村の朝は、相変わらず静かだった。
昨日の件が嘘だったかのように、結界は安定し、人々はいつもの仕事に戻っている。善意の手が触れた痕跡も、もう感じ取れない。
アリアは巡回を終え、集会所の前で足を止めた。
結界に関する決まりが共有されたとはいえ、これからも同じことは起きるだろう。人が増え、生活が広がれば、その分、関わる手も増える。
(全部、私が見るのは……)
考えかけて、首を振る。
それは、王都でやっていたやり方だ。
昼前、村長のグスタフと短い打ち合わせをした。
「結界の点は、全部で七つあります」
「そんなにあったか」
「ええ。今は私が見ていますが……見回りだけなら、手伝ってもらえる人がいた方がいいです」
グスタフは腕を組み、少し考えた。
「壊れたかどうか、だけを見る役か」
「はい。触らず、異変だけを知らせてもらえれば」
できることと、できないことを分ける。
その提案に、反対はなかった。
午後、見張り台の近くで、レオンに声をかける。
「結界点の場所、いくつか覚えてもらえますか」
「俺が?」
「触らなくていいんです。気配が変わったら、教えてほしくて」
レオンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「それなら、できる」
それでいい。
戦う人に、戦わせないための役割だ。
夕方、ミラも興味深そうに集まってきた。
「お姉さん、私も覚えていい?」
「見るだけなら。でも、近づきすぎないでくださいね」
「うん!」
教える、というより、共有する。
結界を“特別なもの”から、“気にかけるもの”へ。
夜、アリアはいつもより早めに巡回を終えた。
すべて自分で確認しなくても、村の中に目が増えている。
(少し、楽ですね)
不安が減ったわけではない。
ただ、背負う重さが分散した。
見張り台から、レオンが声をかけてくる。
「北側、問題なし」
「ありがとうございます」
そのやり取りだけで、状況がわかる。
結界は、まだアリアの仕事だ。
けれど、それを支えるのは、もう一人ではない。
宿に戻る途中、ミラが誇らしげに言った。
「ねえ、今日ね。弟に教えたの。ここは触っちゃだめ、って」
その言葉に、アリアは小さく笑った。
「ありがとうございます」
夜は、変わらず静かだった。
だが、その静けさは、少しだけ形を変えている。
一人で守る夜から、皆で気にかける夜へ。
任せるという選択が、ここでもう一つ、居場所を広げていた。
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