第10話 増えた灯りの分だけ
村の夜が、少しだけ明るくなった。
日が沈んだあとも、いくつかの家の窓に灯りが残っている。以前なら、暗くなると早々に戸を閉めていたはずだ。静かだが、眠りに入るまでの時間が伸びている。
アリアはその変化を、悪いものだとは思わなかった。
むしろ、安心の証だ。
ただ――。
(結界には、負荷になりますね)
巡回しながら、結界の縁に触れる。魔力の流れは安定しているが、夜の後半にわずかな滞留が生まれている。人の活動が増え、音と気配が長く残る分、外側からの反応も増えていた。
崩れるほどではない。
だが、放置すれば、先日のような小さな接触が増えるだろう。
翌朝、村長のグスタフにそのことを伝えた。
「夜が、少し長くなっています」
「……ああ。最近、人が増えた」
開拓村に、隣村から数世帯が移ってきていた。結界が安定しているという噂を聞いてのことだ。
「悪いことではありません。ただ、結界の使い方を少し変えた方がいいかと」
「使い方?」
グスタフは眉を寄せる。
「灯りを一部、内側に寄せてください。外に漏れにくくするだけで、負担は減ります」
結界を強くする話ではない。
生活の側を少し調整する話だ。
「わかった。皆に伝える」
その返事に、余計な反発はなかった。
昼過ぎ、ミラが宿屋の前で声をかけてくる。
「ねえお姉さん。夜、早めに灯り消した方がいい?」
「全部じゃなくて大丈夫です。集まる場所だけ、少し内側に」
「ふーん……じゃあ、食堂の灯りは奥にしようかな」
そう言って、あっさり受け入れる。
誰かに命じられたわけではない。理由がわかれば、自然と動く。
夕方、村の中央にある共有の焚き火が、いつもより少し内側に移された。
それだけで、結界の縁にかかる負荷が軽くなるのがわかる。
(……助かります)
夜、巡回を終えたレオンが声をかけてきた。
「今日は、近づく気配が少ないな」
「灯りの位置を、少し変えました」
「なるほど。戦わずに減るなら、それが一番だ」
その言葉に、アリアは小さく頷く。
結界は、万能の壁ではない。
人の暮らしと噛み合って、初めて意味を持つ。
灯りが増えれば、その分、整える。
人が増えれば、その分、見直す。
特別なことではない。
ただ、生活が続いているだけだ。
夜半、村はまた静けさを取り戻した。
灯りは消え、気配は内に収まっている。
増えた分だけ、調整する。
それが、この場所での支援の形だと、アリアは思った。
結界は今日も、薄く、確かに、村を包んでいる。




