表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 朝比奈ミナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/28

第1話 静かに告げられた婚約破棄

この物語は、

婚約破棄と追放から始まりますが、

復讐や無双が目的の話ではありません。


戦えない支援職が、

強くするのではなく「整える」ことで、

静かな居場所をつくっていく物語です。


大きな事件は少なめで、

夜が静かになることや、

何も起きない一日を大切に書いています。


ゆっくりした話がお好きな方に、

安心して読んでいただけたら嬉しいです。

 第六結界塔の朝は、いつも静かだった。


 アリア・エルフェルトは、薄く冷えた石床の上に膝をつき、結界盤の歪みを指先でなぞる。魔力を流し込むでも、呪文を唱えるでもない。ほんのわずかなズレを感じ取り、呼吸を合わせるように整える。それだけで、昨日まであった微細な軋みは消えていった。


「……これで、しばらくは大丈夫」


 誰に聞かせるでもなく呟く。結界が正常に機能している限り、ここに人が訪れることはない。異変が起きないということは、仕事が完璧に果たされている証拠でもあり、同時に誰からも評価されないということでもあった。


 それでいい、とアリアは思う。

 問題が起きないのが一番だ。自分の名前が呼ばれなくても、報告書に記されなくても。


 塔を出る頃、空はようやく白み始めていた。


 その日の昼前、城からの使いが来た。

 王太子殿下より、謁見の要請。場所は小広間。形式ばった言い回しに、胸の奥がわずかにざわつく。


 婚約者として呼ばれるなら、通常は執務室か私室だ。

 小広間、という言葉に、理由のわからない冷たさを覚えた。


 扉を開けた先には、王太子と、もう一人。

 白を基調とした法衣に身を包んだ聖女が、そこにいた。


 椅子は二つだけ用意されている。


「来てくれてありがとう」


 王太子は穏やかにそう言った。だが、名前を呼ばれなかったことに、アリアは気づいてしまった。


 形式的な挨拶の後、沈黙が落ちる。

 先に口を開いたのは王太子だった。


「結論から言おう。君との婚約は、ここで解消する」


 声音は冷静で、感情の揺れはない。

 まるで、事務的な報告のように。


 理由はすぐに続いた。

 聖女の存在。国にとって最適な選択。役割の重複。そして――。


「君の支援は、王都には過剰だ。前線で戦える力もない。今後は、より直接的な力が必要になる」


 責める口調ではなかった。

 だからこそ、その言葉は、逃げ場なく胸に落ちてきた。


 アリアは一瞬、言葉を探した。

 反論できる理屈は、たぶんあった。それでも喉が動かなかった。


 結局、彼女が口にしたのは、短い一言だった。


「……承知しました」


 王太子が、ほっとしたように息をつくのがわかった。

 それを見て、胸の奥が少しだけ痛んだ。


 部屋を出た後、足取りは不思議と軽かった。

 泣きたいほど苦しいはずなのに、頭の中は妙に静かで、整っていた。


(やっぱり、私は前に立つ人間じゃなかったんだ)


 支援職は、後ろに立つ仕事だ。

 それがわかっていなかったのは、自分だけだったのかもしれない。


 数日後、アリアは自ら願い出て、辺境行きの許可を得た。

 引き留める者はいなかった。


 出立の前夜、彼女はもう一度、第六結界塔に足を運ぶ。

 誰もいない塔の最上階で、いつものように歪みを確かめ、ほんの少しだけ調整する。


 今日も異常はない。

 明日も、きっと。


 塔を出る前、振り返って空を見上げた。

 王都の結界は、今も静かに輝いている。


「……これで、大丈夫」


 そう呟いて、アリアは歩き出した。

 もう、ここに戻る理由はなかった。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


当面の間は、1日に3話を投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ