8話 クソガキ
・「麗華様!!」
バルドリックの声が響き渡る。
・「もう!勝手なんだから!……バルドリックさん、勘解由君がごめんなさい。でも麗華ちゃんなら大丈夫と思います。勘解由君がついていますから。……あれ、麗華ちゃん達を狙ってましたよね?」
・「そうですね。すみません、巻き込んでしまった様です。」
フード連中は二手に別れた。ひとつはその場に残り、もうひとつは麗華を担いだ楽羅を追いかける。
・「ちょっと〜!なにこれー?巻き込まれるのはごめんだわ。小春ちゃんもさっさと逃げるのよ。」
そう言って白雪は早々とその場を後にした。
フード連中は逃げる白雪に見向きもしない。狙いはバルドリックの様だ。
・「私の足止めみたいですね。早く麗華様の所に……あなたも逃げてください。」
・「バルドリックさん、私にも手伝わせてください。サポートくらいならできますから。」
・「会ったばかりですのに優しいのですね。……でも大丈夫です。」
そう言うとバルドリックは相手に突っ込む。
ドゴッ!
気づくとバルドリックの拳が相手の顔面を振りぬいていた。
・「(速い……)」
小春はその姿に驚きを見せる。
相手は壁に勢いよく激突しその衝撃で意識を失う。
フード連中は仲間に対して一瞥することもなく遠くから一斉にナイフを投げてきた。
飛んでくるナイフは4本。
ス……
バルドリックは最初に到達したナイフを掴み相手に投げ返す。
シュッ!
そして同様にして次から次へと飛んでくるナイフを瞬時に投げ返す。
シュッ!シュッ!シュッ!
ガッ!……ガッ!ガッ!ガッ!
ナイフは全て相手の眉間に突き刺さった。
ドサッ……ドサッ……
相手は額から血を流し倒れる。
バルドリックの洗練された動きは美しさすら感じた。表情ひとつ変えずにこれらを行なった姿は冷徹さを彷彿とさせる。冴えない見た目からは想像出来ない強者のオーラを放っていた。
・「つ、強い……(この強さまさかバルドリックさんもCUBE持ち?……)
小春は多数の相手を一瞬で倒したバルドリックに驚きを隠せなかった。
・「お嬢さんあの男の方はどちらに向かったかわかりますか?」
バルドリックは急な戦闘に見舞われたにもかかわらず冷静に何事もなかったかのようにそう聞いた。
・「私小春って言います。勘解由くんはどこに行ったんでしょう?すみません私にもわからなくて…………。」
・「そうですか。ありがとうございます、小春さん。私は麗華様を追いかけます。では失礼します。」
バッ!
バルドリックは楽羅達の後を追いかけるようにデッキから下の階へと飛び降りた。
・「あっ、わたしもっ!」
小春はバルドリックについて行こうとデッキから身を乗り出すように下を見たが、既にバルドリックの姿は遠くへと行ってしまっていた。
・「(あの女の子大丈夫かな?勘解由くんも心配。)」
小春は下へ降りる階段へと走り出した。
楽羅は麗華を担ぎながら廊下を走っていた。
・「あっ、そこ右に曲がって。」
麗華は楽羅に指示を出す。
・「あ?なんでっ、」
・「いいから。」
・「ちっ、生意気なガキだな。」
楽羅は麗華の言う通りに右に曲がる。すると曲がる瞬間に、前からフード連中が来ていたのがわかった。
・「次は階段を下へ。」
・「???」
楽羅は不思議に思いながらも麗華の言う通りに動いた。
・「このまま真っ直ぐ行って右の階段を降りて。」
麗華は次々に指示を出してくる。楽羅がその通りに動くと何故だか追っ手をするすると切り抜ける事ができた。
・「…………お前何もんだ?」
・「貴方強い?」
麗華は楽羅の問いには答えず逆に質問を返す。
・「あ?……わかんねぇけど、誰にも負ける気はしねぇわな。」
・「そっ。世間知らずなのね。」
・「はぁあ?!!てめぇ!さっきから俺の事舐めてっ、」
・「でも強気はいいことだと思うの。自分を信じられるって案外できない人が多いもの。」
・「……何が言いてぇんだ?」
・「あの追っ手達を誘導するから倒して。」
・「いいけど……だいたいなんで追われてんだよ?」
・「それは全部終わったら話すよ。物事には順序があるの。貴方のそれは劣後なの。」
・「ちっ!さっきから……だからガキは嫌いなんだ。ああ!いいぜ!お前の言う通りに動いてやるよ!クソガキ!!」
・「作戦があるの。まずは、あそこにボイラー室の扉があるの見える?」
・「ああ。」
・「あそこにわざと追っ手に見つかるように逃げ込んで。」
・「わかった。」
バッ!
楽羅は麗華を抱えて走り出す。
チラッと横を見ると、
・「(よし。)」
その大きく動いた人影にフード連中は気づいたようだ。
連中は見るやいなや追っかけてくる。
そしてダメ押しでわざと大きな音を立てながらボイラー室の扉を開けて楽羅達は中へと入る。
・「おお、」
ボイラー室の中は思ったよりも広かった。室内には不吉な機械音が唸るように響いている。
・「これは好都合ね。……うーんと、ほらあそこっ、あそこの奥に隠れて。」
麗華は言う。
2人は身を隠す。するとフード連中が中へと入って来た。
・「なんて言ってるかわかんねぇが、俺らを探してるみたいだな。」
・「ドイツ語よ。」
・「わかんのか?」
・「当たり前よ。小さい頃からドイツ語と英語は周りの大人達に叩き込まれたの。でも、こんなの経営学に比べたら些細なものなの。」
・「ふーん。……クソガキ。でっ、次はどうすんだ?」
・「クソガキじゃないわ!麗華よ!れ、い、か!」
・「はっ!クソガキはクソガキで十分だろ!」
・「もう!どっちがクソガキよ、ホントに。……貴方お名前は?」
・「あ?俺?俺は勘解由 楽羅だ。」
・「らく、ら。なら、らっくんね!!」
・「はぁ?なんだそれ。友達でもねぇのに馴れ馴れしくしてくんな。」
・「えへへ。でもらっくん、そんなに怒ってばっかだと友達いないでしょ?だから私が友達になってあげる。」
・「ふざけんな!友達ぐらいっ!ともだ、ちくら、い……」
・「あ〜いないんだぁ〜」
麗華は笑いながらからかった。
・「いっ、いるわ!!」
そう言いながら楽羅の頭には茜の顔が思い浮ぶ。
・「(ちっ!なんでアイツの顔が出てくんだよ!!アイツはただの腐れ縁だろ!!)」
楽羅は少し顔を赤くして、心の中で怒りを顕にした。
麗華はそんな楽羅をみながらニヤニヤしていた。
・「いっ、いいから次はどうすんだ?クソガキ!こんなことしてる暇ねぇだろ!」
・「あいつらを驚かせるの!」
・「驚かせる?だから遊んでるひまなんてっ、」
・「らっくん、さっきナイフが飛んできた時に音で落としてたよね?」
・「あ、ああ。音っつーか衝撃波的な?」
・「うんうん。…ここね、この場所。わかる?この雰囲気。」
・「雰囲気?なんだか薄気味悪いけど。」
・「そう。今あいつらの心情はきっとこうよ。ターゲットはどこだ?いつどこから相手の攻撃が来るか分からない。油断出来ないぞ。ドキドキって感じ。」
・「あー、そんな感じか?まあ、そんなとこだろ。」
・「そこで、音嫌悪症よ。」
・「みそ?なんだって?」
・「ミ、ソ、フォ、ニ、ア!!……人ってね、音に敏感なんだよね。生活音とかでも一度気になって嫌だなと思うと、凄い不快に感じるんだって。それが蓄積されていくと、どんどん嫌悪感を覚え、イラつ気に変わり、酷い場合はストレスでパニックや発作を起こす事があるの。」
・「なるほど、このボイラー室がそうさせてるって事か。」
・「そういう事!そんな音嫌悪症のあいつらに大きな音で驚かせてやったらどうなると思う?」
・「ははっ!だから驚かせるか!いいぜ俺が爆音で気絶するほどびっくりさせてやる!楽しい事考えるじゃねぇか!麗華!一緒に遊んでやるよ!」
楽羅はウキウキした声でそう言った。
・「(あっ、今麗華って…………)」
麗華は急に名前を呼ばれたことで少し顔を赤くした。
・「ほらっ、なにしてんだ?ぼーとすんな。さっさとやるぞ。」
・「うっ、うん。…………あいつらの人数は5人よ。場所は私が把握してるから。」
・「把握してる?なんでわかっ、……まぁいい、劣後だっけか?」
・「はいこれ。」
麗華は床に落ちていたスパナを楽羅に渡す。
・「これでそこら辺を叩いてあいつらを1箇所に誘導するの。着いてきて。」
2人はコソコソと移動する。
・「ほら、あそこ。音鳴らして。軽くだよ。」
カンッ……
楽羅が音を鳴らすとフード男がこちらを振り向き、恐る恐る近づいてくる。
・「来た。次はあっちよ。」
麗華は小さな声で話す。
カンッ……
カンッ……
カンッ……
散り散りになって麗華を探している連中を1人ずつ誘き出す。
連中達は各々が音のなる方へと歩いてくる。連中のその表情からとても緊張している様子がわかる。
その時、
カンッ!!!!!!!
大きな音が室内に響き渡る。
フード連中は全員その音の方に走り出した。
・「!!!」
・「???」
走って来たフード連中はその場に意図せずに合流した。
連中は「なんだ仲間か。」とお互い安堵した表情を見せていた。
連中の1人がふと足元を見る。
足元にはスパナが落ちていた。
・「今よ。」
楽羅におんぶされた麗華が小さな声でそう言った。
・「しっかり掴まってろよ!」
スッ……
楽羅は天井から連中の真上に飛び降りる。
そして、
・「(拍衝)」
パァアアアン!!!!!!!
フード連中の真上で轟音が鳴り響いた。
バタバタバタ……
連中は5人全員がその場に倒れた。
連中の最後の記憶は、微かに見えた人影と一瞬聞こえた爆音だった。
緊張感からの安堵、そこに突如訪れた鼓膜を突き破るような音。フード連中の体は耐えきれずに気絶を選んだのだった。
スタッ……
楽羅は華麗に着地を決める。
・「ちょっとお!!!!!!!」
・「うおっ!!」
おぶられた麗華は楽羅の耳元で叫んだ。
・「うっせーな。なんだよ?」
・「何って、音大き過ぎでしょ!!あんな大きな音出したら死んじゃうよ!!」
・「音なんかで死にやしねぇって。ってか耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐなよクソガキ。気絶させたんだからいいだろ?」
・「もう、まったく。早くこの場から離れるよ。警備兵が来ちゃう。」
・「わかったよ。ってかこいつらはこのままでいいのか?」
・「きっと駆けつけた警備兵に捕まると思う。ほら早く走って走って!!」
楽羅は麗華をおぶったまま走り出した。
・「ってかもう降りろよ!!自分で走れ!!」
・「嫌よ!!私疲れたの!らっくんが私を連れ出したんだからちゃんと安全な所まで連れてって!!きっとバルドリックが探してるわ。」
・「……クソガキ。」
楽羅は渋々走った。
・「(嘘。本当は疲れてなんかないの。ただ、おんぶなんて久しぶり……らっくん暖かい。あと少しだけこうしててもいいよね……)」
麗華は顔を火照らせながらギュッと楽羅の首に抱きついた。
・「おい!苦しい。首締まってるって。」
・「いいから!!早く走って!!」
・「ほんっとにこのクソガキ!!」
2人はボイラー室から出る。
廊下には麗華の可愛らしい笑い声が響いていた。
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