24話 Cube Stress Sink
楽羅達の作戦会議があった1週間前。
金星区域
・「おい、聞いたかよ?」
・「何がだよ?」
・「この金星区域に不審者が現れるらしいぜ。」
・「不審者?」
そう聞き返したのは、乱雑なオモチャ箱 元幹部のパニーだった。
パニーは仲間と共に酒場でたむろしていた。
金星区域の街外れにあるこの酒場は、薄暗い店内で客の出入りも少ない、まさにチンピラ達が好きそうな雰囲気だ。
・「ああ。俺らの仲間も絡まれてるらしいぞ。」
・「絡まれてる?やられたのか?」
パニーは少し心配した様子を見せる。
・「いや、そうじゃない。パニーお前を探してるみたいだ。」
・「はぁ?俺を?いったい誰だよそいつら。」
・「分からん。ただそいつらの特徴は皆お揃いの気持ち悪いピエロの仮面をしてるみたいだ。」
・「なんだそれ?それにそいつらってことは複数人ってことか?コスプレ集団か?」
そんな話をしていると、
カランコロン……
店内の扉が開く音が聞こえてきた。
パニーがそちらに視線を送ると、
深くフードを被った黒ずくめの人物が5人入ってきた。
5人はソファーに座るパニーの元にやって来てフードをめくる。
・「はーん。噂をすればってやつだな。」
そこにはピエロの仮面を付けた人物が立っていた。
ピエロ仮面は、
・「貴方がパニーさんですね?」
変声機を通して喋った。
・「だったらなんだ?」
・「探しましたよ。今日は貴方にプレゼントを持ってきたのです。」
・「プレゼント?俺は誕生日でもなんでもないんだが。」
・「そうでしたか。ならばおめでとうございます。今日が新しい貴方になる日、つまり生まれ変わる日となるでしょう。」
・「生まれ変わる?」
・「ええ。こちらをどうぞ。」
そう言いながらピエロ仮面はパニーの前に箱に入れられた何かを差し出した。
・「なんだこれ?」
それは注射器であった。
注射器には赤黒い液体が入っている。
その液体の中を細胞のような微生物のような何か得体の知れないものが動いていた。
・「気持ち悪ぃな。」
パニーは顔をしかめる。
・「これは「Cube Stress Sink」(キューブ ストレス シンク)と言います。」
・「きゅーぶすとれすしんく?なんだそのシュールストレミングみたいな名前は。」
パニーは半笑いで言った。
・「我々はこれをCSSと呼んでいます。」
・「ふーん。CSSねぇ。んで?」
・「簡単に言うと、覚醒剤になります。」
・「はっはっはっ!覚醒剤って隠す気もねぇんかよっ!」
・「ええ。隠す必要もありませんからね。」
・「まぁ、この国は薬やろうがお咎めなしだからな。……だがなぁ、そんなもん要らねぇよ!!!」
パニーはピエロ仮面を一蹴した。
・「そうですか残念です。」
ピエロ仮面は意外とあっさりと引き下がった。
・「ああ。どうせ俺らを使ってそのCSSとかいうやつを蔓延させたいんだろうが……。他を当たってくれ。」
・「分かりました。貴方達は自由を求めてここまで来たと聞いておりましたが、ただの負け犬だったのですね。」
・「あぁん?」
ゴトンッ…
パニーは立ち上がりピエロ仮面の胸ぐらを掴む。
・「てめぇ今なんっつった?」
・「いえ。さすがこんな静かな僻地まで逃げて来ただけの事はありますね。と言っただけですよ。」
・「ははっ、殺す。」
パニーは拳を振り上げる。
しかし……
・「痛っ!」
パニーは痛みで拳を下ろした。
何故ならピエロ仮面が胸ぐらを掴んでいるパニーの腕を握っていたからだ。
グッと力強く握られミシミシと軋む腕。
パニーは顔を歪ませながら、
・「はっ……離せ……、」
ピエロ仮面はパッとすんなりと手を離した。
・「はぁはぁ……お前らいったい何が目的だ。」
パニーはソファーに座り直し、呼吸を荒くしながらピエロ仮面を睨んだ。
・「先程も言ったでは有りませんか。ただプレゼントを渡しに来ただけだと。これは先導者様のお導きなのです。貴方が気にするようなことでは有りません。」
・「先導者ぁ?」
・「はい。我々は死屍累々の偏愛!!先導者様の手となり足となり、目となり臓器となり!!先導者様の全てを肯定する!!!!これが全信徒の喜びです!!!!」
ピエロ仮面はいきなり声を荒らげた。
その姿から、仮面越しにも関わらず悦に浸っているのが伝わってくる。
・「ははっ、死屍累々の偏愛…………。イカれた奴らに絡まれたもんだな……。」
・「この薬は、一時的にCUBEエネルギーに似た力を扱えるようになります。これは一般人も例外なくです。ほら、私のようにね。「焦燥のCUBE」保持者のパニーさんならもっとより良い効果を得られるでしょう。」
・「おいおいおい。マジで覚醒剤じゃねえーか。しかもCUBEエネルギーって……。」
パニーは驚いた顔をする。
・「これが有ればあらゆることが可能になるでしょう。それを決めるのは貴方次第ですがね。」
ピエロ仮面はそう言いながらパニーを見下ろす。
・「…………………………。」
パニーはピエロ仮面を無言で睨みつける。
・「では、今日のところはこの辺で。……ここにCSSを20個置いていきますね。使うも良し捨てるも良し。好きなようにしてください。」
ピエロ仮面達はパニーの前から去ろうとした。
そして去り際に、
・「貴方は何のために乱雑なオモチャ箱を抜けたのですか?自由を追い求めてですよね?……10日後。金星区域外れにある廃ビルで待っています。また欲しくなったら来てくださいね。」
そう言ってピエロ仮面達はその場を後にした。
・「おい、大丈夫かパニー。」
一部始終を見ていたパニーの仲間が言った。
・「ああ。…………なんなんだあいつら。」
・「どうするよこれ?こんなにいっぱい置いていきやがったけど。」
パニー達はテーブルに置かれたCSSを見つめる。
・「使って見るか。」
パニーがボソッと言った。
・「おい!正気か!!見ただろ?あの死屍累々の偏愛だぞ!!あのイカれた集団が持ってきたものなんて危険過ぎるぞ!!!」
・「落ち着け。……お前も見ただろ?あの力。あれさえ有れば俺らはこんな隅っこで惨めな思いをしなくて済むんだ。」
パニーの頭の中でピエロ仮面の最後の言葉がチラついた。
・「でもよぉ、」
・「それにアイツら自身も使っていたんだ。ならきっと心配ねぇよ。」
そう言ってパニーはCSSを手に取った。
・「おいおい、マジかよ。」
・「大マジだよ。俺が実験台になってやる。安全が確認できたらお前らもやればいい。」
パニーの手は震えていた。
そして……
グサッ!!
パニーは自分の腕の血管に注射器の針を刺した。
ドロドロと液体が体内へと入り込む。
・「おい、大丈夫か?」
心配する仲間達。
・「うっ、」
パニーが頭を抱えて床に倒れ込む。
・「パニー!!!!!」
仲間がパニーに駆け寄る。
・「あっ、熱い……。体が、頭が、熱い…………。」
パニーはピクピクと体を震わせる。
・「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……、」
呼吸が荒くなるパニーに1人の仲間が近づく。
・「だっ、大丈夫か?」
・「うるせー!!!!」
パニーはそう言うと自分の手を振り払った。
手は仲間の体に当たり、
ドゴンッ!!!
なんと仲間の体は吹き飛び店内の壁に激突した。
ガラガラ……。
・「痛って、」
パニーは立ち上がり、飛ばされた仲間に近づいて、
・「ははっ、すまねぇ。すまねぇ。力加減が難しくてよぉ。」
手を差し出した。
・「痛てーよ。」
仲間はその手を掴みながら、
・「大丈夫なのか?」
そう聞いた。
・「ああ!!!すこぶるな!!今は気持ちが良いよ!!力がみなぎってくる!!今ならなんでもできそうだ!!ほらっ!お前らもやってみろ!!」
ハイテンションのパニー。
まるで薬物中毒者の典型である。
仲間達はCSSを手に取る。
皆分かっていた、この先の末路を。
だが頼ってしまった。
縋ってしまった。
そして、
CSSを自らに打ち込んだ。
この日からである。
金星区域は荒れに荒れた。
強奪、強姦、あらゆる悪事が横行した。
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