21話 本気の遊び
・「よぉ、零。」
楽羅の目線の先には零がいた。
零はまた浜辺で夕日を眺めている。
・「ちゃんと来たんだな。」
・「うん。君が来てって言ったから。」
・「まぁそうなんだけどな。」
・「いったい何をするの?」
・「昨日言ったじゃねぇか、おもろい遊び教えてやるって。」
・「うん。」
・「じゃあ準備できてっか?」
・「準備?」
・「発表しまーす!今からやる遊びはー!どぅるどぅるどぅるどぅるどぅる………………」
楽羅は口でドラムロールの真似をする。
・「その名もー!ドキッ!耐えられるかな?腹パン我慢対決ー!!!イェーイ!!!」
楽羅はテンション高く発表した。
・「……………………。」
零は真顔で楽羅の顔を見る。
ガシッ!
楽羅は零に肩を組みながら、
・「おいおい!しけた面してんなー!もっとテンション上げてけよー!」
・「それって面白いの?」
・「はぁ?ばかっ、おまっ、男が2人でやる遊びっつったら腹パンしかねぇーだろ?古代ローマから伝わる伝統的な遊びだぞ!!」
・「そうなの?」
・「ローマはテキトーだけど。」
・「テキトーじゃん。」
・「まあまあまあまあまあ。お前が先行でいいからさっ!ほれ、殴ってみろっ。ここ。」
楽羅は自分の腹を指さした。
・「………………大丈夫?」
・「あったりめぇーだろ!!お前のパンチなんて効きやしねぇから!」
・「わかった。」
零は拳を握り、
・「すぅー……んっ、」
楽羅は腹筋に力を込めた。
・「じゃあいくよ。」
ズンッ!!!!!
零の拳が楽羅の腹部に突き刺さる。
・「うっ!!!!!」
楽羅の腹に激痛が走った。
楽羅はお腹を抑えながら少し後ずさる。
何か変な汗も滲み出てきた。
楽羅は俯きながらぷるぷると震えていた。
・「(痛ってー!!マジかコイツ……。想像の10倍効いたわ。すました顔してっから大したことないと思ってたのに…………。)」
・「大丈夫?」
零が心配そうに楽羅に声をかける。
楽羅は顔を上げて、
・「ぜっっっぜんっ!効かねぇわ!!」
最大限強がった。
・「そうなんだ。楽羅は頑丈なんだね。」
・「ああそうだ!(頑丈なんだね。っじゃねーよ!!)よーし!!次は俺の番だ!!!!ちゃんと歯ぁー食いしばれよー。」
楽羅は少しだけ助走をつけて、
・「おらぁ!!!!!」
思いっきり力を込めて殴った。
ズンッ!!!
・「うっ、」
零は少し顔をしかめる。
・「ははっ!!!どうだ!俺のパンチは!!痛ぇだろー!!」
零はお腹をさすりながら言った。
・「うん。痛いよ。」
・「そうだろ、そうだろ。うんうん。」
楽羅は誇らしそうに頷く。
・「じゃあ次はまた僕の番?」
・「えっ?」
・「えっ?」
楽羅は焦った顔をして、
・「ああ!そうだ!もう1発来い!!!(マジかコイツ!!続けるのか?これをまだ??だが俺から誘った手前負ける訳にはいかない……。)」
・「これはどうやったら終わりなの?」
・「そらぁ……地面に這いつくばったらだなっ!」
・「わかった。頑張るよ。」
・「(おいおいおいおい!!頑張るなよ!!)」
零が拳を構える。
・「いくよ!!!」
・「(ちょっ、まだ心の準備がっ、)」
ズンッ!!!!
・「ううっ!!!!!」
楽羅のうめき声。
ピクピクと体を震わせる楽羅。だが何とか踏ん張り堪えた。
・「次は君の番だね。はい、準備できてるよ。」
それを聞いた楽羅は手のひらを前に出しながら、
・「はぁはぁはぁ……まっ、待て。」
・「どうしたの?」
・「勝負は終わりだ。はぁはぁ……、」
・「終わり?」
・「ああ、お前の力量はだいたいわかった。だから今回は引き分けということにしといてやる。」
・「引き分け?」
・「そうだ。これ以上やるのはお前が可哀想だ。」
・「僕はまだ、」
・「いや!終わりだ。俺には見える、お前が苦しみながら這いつくばる姿がな。俺も鬼じゃない。素人相手にそんないじめるような事はせんよ。それに俺は2回耐えた。お前は1回だ。だが引き分けで良いと言ってるんだ。何も文句はないだろ?」
楽羅はまくし立てるように早口で言った。
・「そっか。わかった。」
零は何故か納得した様子だった。
・「わっ、わかればいいんだ。わかれば。」
2人は海の方を向いて夕日を眺める。
・「楽羅はいつもこんなことしてるの?」
・「んー、たまにかな。茜っていうムカつく奴がいるんだけど、そいつとは10勝9敗で俺が勝ち越している。」
・「仲が良いんだね。」
・「どうだかなー。腐れ縁だよ。」
ザー……
心地よい波の音が聞こえる。
2人は少しの間、静かに景色を眺めていた。
・「よし今日のところはこれで終わりだ。どうだ?おもろかっただろー?」
・「…………まだ分からないかな。」
・「そうか?お前の痛がってた顔おもろかったけどなー。」
・「そう?」
・「まーいい。また明日だ。明日勝負だ。」
・「勝負?」
・「遊びっつーのは、勝負事が1番おもしれぇーんだ。」
・「そうなんだ。」
・「ああ。じゃあまた明日な。」
・「うん。」
そうして零は楽羅の背中を見送った。
楽羅は零の姿が見えなくなったのを確認してから走り出した。
・「(くそっ!完全に俺の負けだったな。…………だが次は負けねぇ。次は完全勝利だ!)」
砂浜を駆け抜ける。
楽羅は素直に負けを認められなかった自分がちょっぴり恥ずかしかった。
そして、
次の日もまたその次の日も楽羅は零と遊んだ。
50メートル走。
魚釣り対決。
水切り対決。
ロッククライミング。
勝ったり負けたり。
お互いの勝率は拮抗していた。
初日以来、楽羅は決してズルをすることも手を抜くこともしなかった。
本気で。本気で遊びをしていたのだった。
楽羅は楽しくなっていた。
幼少期からこんな風に心を許して遊べる相手がいなかったのもその理由なのかもしれない。
とにかく楽しかった。
だが……
楽羅はひとつだけ気がかりなことがあった。
それは、零が一度も笑ったことがないことだ。
驚いたり、痛がったり、疲れを見せたりと表情を変える事はあるが笑うことだけは決して無かった。
楽羅は零に聞いたことがあった。
俺と遊ぶのは嫌かと。
零は答えた。
嫌と思ったことは一度も無いと。
それなら零を笑わせたい。楽しいと思って貰いたい。
いつしかそんな想いが楽羅の中で芽生えていた。
・「今日の遊びはとっておきだぁ!!!」
楽羅の声が響く。
いつもの時間。
いつもの場所で……………………。
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