第11話:夜闇の東屋で紡がれる真実と、揺れる心
夜半の鐘が響き渡り、後宮は漆黒の闇に包まれていた。
玲玲は薄手の緋色の袍を身に纏い、静かに東屋へ向かった。
懐中の薬草袋を軽く握りしめる。あの書簡の差出人が誰なのか、警戒心は消えなかった。だが、知りたい――真実を。
東屋に近づくにつれ、冷気が肌を刺す。月明かりが木々の葉を淡く照らし、影絵のように揺れている。
屋根の下に、ひっそりと人影があった。
「あなたが、玲玲か」
低く響く声。振り返ると、見知らぬ男が立っていた。
「誰ですか? なぜ私に連絡を?」
男は一瞬だけ目を伏せ、静かに言った。
「私は、あなたの父上と縁のあった者だ。後宮の毒について、隠された事実を知っている」
玲玲の心臓が早鐘のように打ち始める。
「父が教えてくれたこと、あの鸚鵡嘴の毒だけではない。他にも、秘薬の陰に隠された毒が存在する」
男は小さな箱を差し出した。開けると、中には緑褐色の粉末が詰まっている。
「これは『玉露の秘薬』の偽造品。解毒薬として知られているが、実は強い毒性を持ち、多くの人を苦しめてきた」
玲玲は眉をひそめ、父の教えを思い出した。
――「薬は真実の姿を見抜け。善悪は紙一重だ」
「後宮で何が起きているのか……」
男は続けた。
「真実を暴けば、多くの者が動揺し、あなたも危険に晒されるだろう」
玲玲は決意を固めた。
「それでも、隠された真実を明かします」
翌朝、玲玲は宮中の薬局へと足を運んだ。
偽造された玉露の秘薬の成分を分析し、解毒剤の調合に取り掛かる。
「毒性成分は硫酸銅……これは長期的に摂取すると、肝臓と腎臓に致命的な損傷を与える」
薬草の知識と現代の分析法を駆使し、玲玲は慎重に処方を練る。
「これで、後宮に広がる毒の根を少しでも断てれば……」
しかし、後宮の闇は深い。
玲玲の動きを警戒する者たちが陰で糸を引いている。
夜、玲玲の小部屋に忍び込もうとする影があったが、彼女はその気配を察し、身を潜めた。
「まだ始まったばかりだ」
玲玲は強く心に刻み、薬草の香りの中で静かに目を閉じた。