治癒
病室には、大きなベットが一つだけ置いてあり、その上ではぴくりとも動かない燈凛がたくさんの管に繋がれて、横たわっていた。その傍らでは、朋恵がぼさぼさの髪のまま、疲れ切って眠っていた。
―ごめんなさい。燈凛ちゃん。苦しい思いをさせてごめんなさい。ごめんなさい叔母さん。悲しい思いをさせてごめんなさい。僕のせいなんです。全部僕のせいなんです。ごめんなさいごめんなさい……。
ボロボロと涙が出てくるのを、嗚咽がで出そうになるのを、海斗は必死で抑えた。鼻水でも啜ろうものなら、存在を悟られてしまう。声に出して、今にでも縋り付いてしまいたい衝動を抑え、海斗は心の中だけで何度も謝った。
燈凛の口につけられた呼吸器からは、しゅこおしゅこおという呼吸器の音がして、つながれた管や線の先にある機械からは、ぴこんぴこんと心電図の音だけが響いていた。
海斗はポケットから、エスカがくれた小瓶を取り出した。栓を抜くと、ほのかに甘い香りがした。
呼吸器をそっと外し、口を指で押し広げて、海斗は小瓶の中身を燈凛に、一気に注いだ。
燈凛の喉がこくりと動き、その瞬間に真っ白だった頬に赤みが射す。その瞬間。呼吸器がピーピーと警告音を発した。海斗はすぐに病室を飛び出した。後方で看護師やら医者やらがすれ違いのように病室に入っていくのが分かったが、足を止める余裕はなかった。
曲がり角まで走り切って柱の陰から、海斗は後の様子を伺った。
「ああ!燈凛!!よかった!!よかった!!」
歓喜に満ちた叔母の声と泣き声が病棟に響き渡った。
海斗はその声に、燈凛の回復を確信すると、壁伝いに崩れ落ちた。そして同じように「よかった。よかった」と膝を抱えて泣いた。
息を整えてから、海斗は晴れやかな気持ちで立ち上がった。
「さよなら燈凛ちゃん」
呟いて、彼はまた走り出した。もう戻らない世界に別れを告げた。
愛する妖精の元に帰るため。