タイトル未定2025/05/14 00:13
「はい。それじゃあ、進路調査票を回収します!!」
そう言って担任が調査票を回収していく。
12月。文化祭も終わり、クラメイトがそれぞれの進路に向けて切磋琢磨する中、俺はどうしていくか未だに悩んでいた。
順当にいけばフォニア卒業後もファイブハーフに残り、姉の手伝いをしながら大学に通う方が一番いい。
が、心の底でそれを認められない自分がいた。
ルイのファイブハーフ所属が決定した今、ファイブハーフはプリンセスに奏、そして水見澄という3枚看板で運営をしていく事になる。
そこに俺がいていいのかという疑問が生じてしまっているのだ。
姉の手伝いはできるし、二人のサポートもできる。
その上、真響の近くにいる事ができるのだから一石二鳥……、いや、一石三鳥だ。
が、そこに個人的な感情は含まれないか?
そう感じてしまうのだ。
人間である以上、好き嫌いが生じるのは仕方ないが、今後加入してきたメンバーが俺たちの関係をどの様に感じるのか。
そのせいで姉が作り上げてきたモノが壊れてしまはないか……。そんな思いが頭から抜けないのだ。
小さくため息をつく。
だが、そんな悩みを知らない真響はホームルームが終わると、慌てて俺の方へ駆け寄って来る。
「ねえねえ、一彩くん。これ見て見て!!」
「ん?どした?」
そう言って真響が差し出してきたスマホを受け取ると、動画の再生ボタンを押す。
『やっふぉにー!!フォニア・シンフォニィでーす!!』
画面に映し出された動画は先日フォニアが配信したお知らせ動画だった。
そのキャピキャピした声に悪寒を感じながら、俺はその動画を見ていると、真響は一瞬動画を止める。
「ここからが大ニュースなんだよ!!なんだと思う?」
「フォニアが参加するライブが3月にあるんだろ?」
「えっ?知ってたの!?」
驚きを見せる真響に俺はクラスメイトに気づかれる事なく小さく頷く。
フォニア本人だとは言えない俺は他人事の様に話す真響を呆れながら眺める。
「知ってたんなら教えてよ〜。うわぁー、楽しみだなぁ〜。チケット、取れたりしないかな?」
「えっ?」
「えっ?」
「湊音奏もでるんだよ?」
何も知らない真響に湊音奏が出る事を伝えると、真響は「えーっ!!!!」と、驚きの声を上げる。
その声にクラスメイトにが振り向く。
俺はその視線にたまらず、しーっと口に人差し指を当てる。
その様子を見た真響は慌てて口を閉じると、クラスメイトににへらと愛想笑いを振り撒く。
「わたし、それ聞いてないんですけど!!」
「そうなのか?まぁ、お姉の事だからそんな事だろうと思ってだけど」
真響と俺ははぁ……っと揃ってため息を吐く。
俺の前座として歌うにしても、前もって事前に話をしておくものだろう。
「……二人揃ってため息をついて、どうしたのよ」
「あ、ルイちゃん。今度フォニアちゃんのライブがあるのって知ってる?」
「えっ?ええ。前に一彩から聞いたから知ってる」
「えっ?」
ルイの言葉に真響がジト目で俺の方を睨みつけて来る。
「あ、いや、それは守秘義務があったから。あはは」
誤魔化す様に笑って誤魔化すと、真響は両頬をリスの様に膨らませる。
その表情に胸をときめかせていると、ルイがこほんとわざと咳払いをする。
「で、それがどうしたの?」
「あっ、でね、そのライブに奏も参加するんだって。それを聞いてないって話をしてたの」
「えっ?よかったじゃない。本採用前提で考えられてるって事だし」
「……そうだけど」
複雑そうな表情の真響に他人事のように言うルイに対して俺は最後の爆弾を投下する。
「あ、お姉がそのライブには澄も出す予定だから、よろしくーだって」
「えっ?ちょっと待ってよ!!私も出るの?持ち歌なんて全然ないのに!?」
「ああ。二人はとりあえずフォニアの前座で一曲デュエットで歌ってもらう予定なんだ。ファイブハーフ所属の新人として」
「「えっ!?」」
俺の話を聞いた真響はうれしそうな顔をし、ルイは複雑な表情をする。
文化祭の後に姉から打診されたファイブハーフ所属の誘いに最近ようやくルイもうなづいたのだ。
その事を初めて知った真響はルイに抱きつくとルイに頬擦りをはじめる。
「やったー!!ルイちゃんが同期なんて嬉しい!!」
「ああもう、離れなさい!!それより、歌はどうするのよ?私達に持ち歌なんてないわよ?」
「それなら、ファイブハーフから入所記念に二、三曲提供するって話になってるから」
「マジ?」
「やった!!」
提供するとは言っても、uncall……、俺が書いた歌だからファイブハーフが負担する金額はないに等しい。
感情豊かに喜ぶ真響に嬉しそうにしながらも感情を露わにしないルイの姿を見て、二人の明るい未来が羨ましくなる。
「……そう言えば、藤浪は?フォニアの話をしてたらすぐにでも飛んできそうなのに」
「ああ、あいつならプロ野球のドラフトに選ばれたらしくて、大変らしいよ」
「そうなの?藤浪くんすごいね!!有名人だ!!」
俺の質問にルイが答えると、真響は目を輝かせる。
親友を自称する藤浪を邪険に扱っていたが、ここまですごいやつだとは思わなかった。
藤浪にルイ、そして真響……。
それぞれが未来に向かって歩もうとしている中、俺はどうだ?
フォニアを卒業してしまうと、途端にただの一般人、遊佐一彩になってしまうのだ。
一彩という男にはこれという特技もなければやりたいこともない。先を進むことも、過去に戻ることもできないのだ。
そんな悔しさに唇を噛んでいると、真響は俺の方を向く。
「そう言えば、一彩くんは私達と同じ大学を受験するんだよね?」
「えっ?あ、ああ……。そのつもりだけど」
「じゃあ、大学でも一緒に過ごせるね」
「……そうだな」
俺は真響の純粋な言葉に苦笑いを浮かべる。
何もなくなった俺が真響に釣り合うのだろうか?
真響の言葉に焦りは増す一方だった。
だけどそんな思いはつゆ知らず真響は楽しい未来を思い描いているのだろう。
「まずは今年のクリスマスだね!!」
子供の様に目を輝かせる真響を見て、ルイはため息をつくと、「はいはい。じゃあ、私は帰るわ」と言って席を立ち上がる。
おそらく俺たちの間に居づらくなったのであろう。
が、俺はルイを呼び止める。
「今年のクリスマス・イブなんだけど、時間はあるか?」
「「えっ」」
俺の質問に場の空気が凍る。
二人からしたら彼女を前に他の女にクリスマスの予定を聞いている様なものだ。怪訝な顔をするのも無理はない。
「今年のクリスマスはファイブハーフ総出のクリスマス配信をしようかと思ってるんだ」
「「なんだ……」」
俺の言葉に真響はほっとした表情を浮かべ、ルイはどこか残念そうな表情をする。
「クリスマスなんて、俺みたいな陰キャぼっちリスナーが挙って配信を観に来ると思うから、その日にバーチャルライブでもしようかという話になってるんだ」
「……もう。一彩くんは陰キャぼっちじゃないでしょ。けど、楽しみ!!」
俺の言葉に真響は注意をしながらも、ライブと聞いてわくわくとした表情を浮かべる。
一方のルイはえーっと言った表情を浮かべている。
「そんな顔をするなよ。3月のライブに向けて少しは慣れておかないといけないし、二人の歌のお披露目を兼ねてやるんだから」
「はい、先生!!質問があります!!」
「はい真響くん、何かね?」
「その日、フォニアちゃんは来るのでしょうか?」
ファイブハーフ総出と聞いてフォニアの大ファンである真響がその事に触れない訳がない。
「うーん、どうだろ?体調次第なんじゃないかな?」
「……そうなんだ」
俺の話を聞いて真響は残念そうな表情を浮かべていると、ルイも小さく手を上げる。
「あと一ヶ月も無いのに歌はどうするの?」
「それはもちろん覚えてもらいます。言っただろ?二人には二、三曲提供するって」
そう言うと、俺はスマホを取り出すと二人がそれぞれ歌う曲のデータを送り、その曲を二人にそれぞれイヤホンを付けて聞いてもらう。
「うわぁー!!」
その曲を聞いた真響は自分の曲を得た事に喜びを見せる。
「すごくいい曲!!この曲、uncallさんの曲調に似てない?」
「お、さすがは真響。よく分かったな」
「それはもちろん!!何回フォニアちゃんの歌を鬼リピしたと思ってるの?」
初見で作曲者を当てた事を褒めると、真響はどこか得意気な表情を浮かべる。
「けどこの歌、どこか一彩くんのテイストも入ってる気がするんだよね」
……鋭い!!
真響の耳の良さと言うか、感の鋭さに恐れを抱いてしまう。
そんな中、ルイはまだ不安気な表情を崩さない。
「いい曲なんだけど、少し私には荷が重い気がするんだけど……」
「そんな事はないさ。ルイが歌いやすいようにアレンジしてもらってるから。それに……」
「「それに??」」
「二人には今から、ボイストレーニングを受けてもらいます!!」」
「「えーーー!!」」
俺の言葉に真響は嬉しそうに声を上げ、ルイは落胆した声を上げる。
「すごい!!ボイストレーニングなんて受けていいの?」
「ああ。真響はうちの研修生だからな。頑張ってもらわないと」
「やった!!」
何にでも前向きな真響が両手を握りしめ喜んでいる中、ルイはこっそりと音楽準備室から逃げようとする。
「ルーイー」
「いや、私、ほら、今日は用事があるから……」
「残念だなぁ〜。この日の為にお姉が心を込めて澄の新しい立ち絵を描いてると言うのに、ルイは参加しないのか。残念だなぁ……」
逃げようとするルイを餌で釣るかの如く煽ると、ルイはぴたりと足を止める。
お姉が水見澄の新しい立ち絵を描いているのは本当の事だ。
「新しい立ち絵があるんだったら早く言ってよ!!姫ママに免じて頑張ってみる!!」
……現金なやつだ。
とはいえ、姉にイラストを依頼しようと思うと何十、何百と言う金額がかかってしまうのだ。
その価値を知っているルイであればその餌に食いつかない訳がない。
「いーなー!!私は?私の立ち絵はまだなのかな?」
ルイの立ち絵の話を聞いた真響は羨ましそうに俺を見る。
だが、俺はその目から顔を逸らす。
「真響はもう少し待ってくれってよ。何かお姉にも考えがあるらしいから」
「えーっ。そうなの?」
どこか不満気な表情を見せる彼女。
考えがあるのは事実である。
が、それは姉の考えではなく、俺の考えだ。
だが、まだそれは言えない。
「じゃあ、早くボイトレに行きましょう♪」
「あっ、ちょっと待て!!」
新しい立ち絵を得られると聞いてルイは俺と真響の腕を引くが、俺は二人を制止する。
「先に言っておくけど、その先生、キャラが濃いから驚かない様に!!」
「「えっ?」」
俺の言葉に真響とルイは不思議そうな表情を浮かべるが、その答えはボイストレーニングの教室に着いた時にすぐに理解をしたらしい。
「あんら、いらっしゃーい!!」
そう言って俺たちを迎え入れたボイストレーニングの講師はオネエと言われる人種の人間だった。
強烈なキャラではあるが俺がフォニアだと言う事を知る数少ない人間の一人で腕は確かだ。
その講師の部下に腕を引かれながら二人は防音室に入っていくのを俺とその講師は見送ると、講師が俺の耳うちをする。
「プリンちゃんに聞いたわよ。あなた、辞めるんですって?」
「……はい」
「で、あの子が……」
そう言う講師の視線の先には真響の後ろ姿があった。
その言葉と視線を肯定するかの様に、俺は黙ってうなづいた。




