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第23話

「なぁなぁ。フォニア・シンフォニィ、昨日も配信してなかったけど、そんなに体調悪いのか?」


「さぁ……。テレビ出演も断るくらいだからよっぽどなんじゃない?」


「寂しいよねー。あっ、遊佐くん!!」


「おはよう。体調、大丈夫?」

クラスメイト達がフォニアの話題で盛り上がる中、俺は久々に学校に登校していた。


倒れてから一週間、俺は熱が下がらずに学校を休んでいたのだ。


医師の診断では風邪ということらしいが、一週間も寝こむとは思っていなかった俺はクラスメイトの言う様に、配信も休んでいた。


その間も真響は俺の事務所に来ては俺と姉の晩御飯を作っては奏として配信をこなしていた。


その結果、俺のリスナーが彼女の配信に流れ、リスナーが増えてきたのだ。


その数字も俺が3年かけて築きあげた100万人に並ぶほどで、彼女の底知れない実力が窺える。


しかも、現状ではまだ研修生という立場なのにこれだから本当の立ち絵を手に入れたらどうなる事か想像しただけで恐ろしい。


そんな中でも、彼女は元気で活き活きしている。


「あ、真響!!おはよー!!」

クラスメイトの一人が登校してきた真響を視界にとらえたのか、声をかける。


その声の方向に俺が目をやると、彼女は教室に入るところだった。


だが、いつもの様な元気の良さはなく、どこかオドオドとした様子でクラスメイトに「おはよう」と挨拶を返し、クラス内をキョロキョロと見回す。


そんな様子の真響と目が合うと、彼女は不意に俺から目を逸らし、自分の席へと足早に向かう。


普段の彼女であれば、カバンを置くといの一番にこちらに駆け寄ると、元気な挨拶をしてくれるのに、どうして?と、不思議に思っていると、すぐそばに足音が聞こえてくる。


「おはよ、一彩」


「ああ、おはよう」

近づいてきたのは湧水ルイだったらしく、ルイは俺に挨拶をしてくる。


その挨拶に俺は風邪で掠れた声で挨拶を返すと、ルイは真響を指差す。


「真響、どうしたの?」


「さぁ?」


「さぁって、あんたね。喧嘩でもしたの?」


「まさか。風邪の間、ずっと晩御飯を作ってくれてたのに、喧嘩するわけないじゃん」

俺がそう話すと、ルイは驚いたかの様な表情を浮かべると、そっぽを向き涙を流し始める。


「……いつの間にそんな関係になってたんだ」


「そんな関係って、配信をしにきたついでにお粥とか作ってくれただけだよ。ほら、お姉って料理がやばいから」


「マジ?」

若干引き気味な表情で尋ねてくるルイに俺が「マジ」と言ってうなづくと、彼女ははぁ……っとため息をつく。


「……報われないわね。真響も、私も」


「は?何いってんだ?報われるってなんだよ」

俺がそう聞くと、ルイはしかめっつらでこちらを見ると、再びはぁ……と、ため息をつく。


「あんたには一生わからないと思うわ。いや、分からないでいて」


「はぁ?」

ルイの発言の意図が全く読めない俺が首を捻っている中、藤浪が生気のない表情でふらふらと歩いてくる。


「おはよう、藤浪!!なんて顔してるのよ?」


「……湧水か。俺はもう、ダメかもしれん」


「「はぁ?」」

今にも死にそうな表情で語る藤浪に俺とルイは呆れ顔をすると、藤浪は俺の机に突っ伏して泣き始める。


「フォニアたんの配信が一週間以上ないんだぞ?」


「「はぁ」」


「はぁじゃない!!俺はフォニア成分が足りなくなると、元気がでなくなるんだ!!あぁ、フォニアたんは大丈夫なんだろうか。心配だ……」


「ああ、あんたってそんな奴だったわよね」

虚な目で落ち着かない藤浪に呆れたルイはそう言うと、チラッとこちらを見る。


俺の秘密を知る数少ない人物なだけに何をしでかすのかハラハラしていると、ルイは一回こほんと咳払いをする。


「藤浪くん、元気をだして!!フォニアはここにいるから!!」

突然フォニアの声がルイの口から放たれる。


彼女お得意の声帯模写だ。

この声のおかげで俺がフォニアだと言うことがルイにバレ、真響にバレずに済んだ因縁のある俺の真似に背筋が凍る。


その様子を見てルイは面白くなったのか、ニヤニヤと笑いながらフォニアのモノマネを続ける。


「心配しないで!!フォニアはただ、風邪をひいてるだけだから、すぐに元気になるよ」

冷や汗ダラダラの俺をよそに楽しそうに話すルイのモノマネを聞いて、シンフォニアであるクラスメイト達が俺たちの元に集ってくる。


「すげぇ!!湧水さんってフォニアの真似が上手いんだね」


「いや、まさかとは思うけど、本物のフォニアだったりする?」


「あはは、まさか!!本物な訳ないじゃん。ねー、一彩」

自分に注目が集まっているのがよほど嬉しかったのか、いまだに楽しそうに真似を続けるルイが俺に同意を求めてくる。


……わざとか?

もはやそうとしか思えないルイを苦々しく思っていると、先ほどまでの涙はどこえやら、ルイの顔をじっと見ている。


その視線に気がついたルイが、「……なによ」と尋ねると、藤浪はカッと目を見開く。


「……フォニアたんはそんなキャッキャとした言葉は使わないぞ!!可愛い声を出しながらも、どこか恥ずかしそうな話し方をするのが魅力なのだ!!」


「「うわぁ……」」

藤浪の熱弁に俺とルイは声を揃えてドン引きしていると、藤浪はキョロキョロと何かを探す。


「なぁ、八坂……って、あれ?」

ようやく真響が自分の席に座っていることに気がついた藤浪は頭を掻く。


「フォニアたんの話をしている時は絶対にくるのに、今日はどうしたんだ?


「「さぁ?」」

藤浪はそう言うと、俺たちは揃って真響の背中を見る。


どこか俯き気味で元気のない彼女が気になって仕方がない。


「あっ。まさか、俺の風邪が移ったとか?」


「それはあるかもね」

自分の風邪が移ったかもという不安に苛まれていると、藤浪は真剣な表情で真響の背中を見つめる。


「……なぁ、遊佐よ。ショックかも知れないけど、冷静に聞いてほしい」


「……なんだよ?」

真剣な口調に少し身構えていると、藤浪は俺の方に顔を寄せ、小さな声で語り始める。


「一昨日のことなんだが、八坂がスーツを着た男といるところを見たんだ」


「……一昨日?」

その言葉を聞いて俺は一昨日のことを思い出す。


一昨日といえば奏の配信は休みで、体調もマシになった俺は真響に夕食の支度をしなくてもいいと断りを入れた日だ。


そんな日にスーツを着た男性と一緒にいた。


「……お父さんとかじゃないか?」


「いや、まだ若そうだったから親父ではないだろう。彼氏かも知れない」

その言葉を聞いて俺の心臓がずんと重くなるのを感じる。


彼女の美貌を考えたら無くもない話だ。

顔に傷があるとは言え、そのアイドルの様なスタイルに可愛らしさに彼氏の一人や二人居てもおかしくはない。


……なら、俺が彼女のそばにいるのはまずいんじゃないか?


そんな考えが頭を巡るなか、俺の様子を見たルイがふーっと小さく息を吐く。


「真響に限ってそんなことはないんじゃない?今は一つの事にしか目が行ってないみたいだし」


「そ、そうだよな。あはは」


ルイの言う通りだ。

今の真響にはVtuberになると言う夢以外、頭にない。


でなければ毎日うちの事務所に来るはずがないのだ。


そう納得していたが、藤浪は「そうかな?」と、どこか釈然としない様子を見せる。


「多分道を聞かれたとかそんな事だと思うけど……。あっ、先生が来た」

あれやこれやクラスメイトと話しているうちに担任が教室に現れ、授業が始まる。


そんな中、俺はどこか不安を覚える。

考えれば考えるほどに真響の背中が遠く思えてしまう。


その日一日、真響は俺のところに来ることはなく、休憩時間はそそくさとどこかへ行ってしまい、会話をすることなく学校が終わってしまった。


……何があったのだろう。

ここ半年、八坂真響という人間が近くにいたということに気付かされた一彩だった。

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