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第20話 レガシー

夏休みも終わり、残暑の残る中、俺は学校生活最高のイベント、修学旅行の新幹線の中にいた。


生徒それぞれに行きたい都市を選ぶのだが、何の偶然か俺はチャラを除く藤浪、ルイ、そして真響さんの三人と一緒の都市、東京に行くのだ。


新幹線の中では生徒がそれぞれに行きたい場所の話をしている中、三人も行きたい場所を出し合っていた。


「ねぇ、私、エンジュシティで買い物したい!!」


「俺はもちろんVtuber喫茶のあるライデンタウンに行くって決めてんだ」


「えー、何でそんなとこに行かないといけないのよ?せっかくの修学旅行よ?もっと楽しいとこに行けばいいじゃない!!」

真響さんとルイはどうやら買い物に行きたい様でしきりに東京で有名な買い物スポットを指差す。


それを藤浪は大きく首を振り、断固拒否の姿勢を見せる。そんな会話をよそに、俺はボーっと外の景色を見ていた。


そんな俺を見た藤浪は俺に肩を組み、どこに行きたいかを尋ねてくる?


「なあ、一彩はどこ行きたい?もちろんお前もVtuber喫茶に行ってみたいよな?」


「……ん?ああ。俺は」

上の空で言いかけると、しばらく答えに詰まりながらふと浮かんだ言葉を口にする。


「神社とか行ってみたい……」


「はぁ?」


「何でそんなところに?」

俺の何気ない提案に藤浪と真響は不思議そうに首を捻る。


「えっ?あ、いや、何となくそう言うところも行ってみたいなって思って!!」

二人のポカンとした顔に俺は慌てて言い訳をすると、二人はそれぞれにスマホで自分の行きたいところと他にされた場所を再確認する。


スマホに気を取られた二人の様子にホッとした俺は、先程と同じ様に肘置きに手を置くと、外の眺めを再度ぼーっと眺める。


あいにく、外は雨が降っている曇天の空模様だ。

それでも遮音壁の合間に見える景色を黙って眺めていたが、ふと、真響さんの方に視線を向ける。


真響さん達はどこに行くかを楽しそうに話し合ってい

る。その横顔を眺めてははぁーっと、ため息を吐く。


そんな様子をルイが見ていたのも知らないまま、俺は再び窓に視線を移したのだった。


『次はー、東京。東京でございます……』

気づくと新幹線は目的地にたどり着き、生徒達はそれぞれ自分の荷物を手に取り始める。


それに合わせて荷物を取ると近くにあったルイの荷物も一緒に下ろす。


「ほら、ルイ。荷物」


「あ、ありがとう」

差し出された荷物をルイは慌てて受け取ると、静かに礼を告げてくる。


いつものルイの活発さがない様子に、俺は疑問に思うが、ぞろぞろと降りていく生徒の波に飲まれる様に俺も新幹線を降りる。


そして旅行会社が手配していた観光バス乗り場へと向かい、そのバスに乗ると、最初の目的地であるスカイツリーに向かいはじめる。


「おっ、一彩。見ろよ!!」

東京の景色を見ていた藤浪が俺の肩を叩き、窓の外を指差すと、そこにはフォニアのCDの広告が巨大モニターに映し出されていた。


「さすがフォニアちゃん!!こんなにおっきな広告を出せるなんて!!」

藤浪は感涙を流しながら、その広告をスマホに納めはじめる。


だが、そのシャッター音は藤浪だけではなかった。

バスの至るところでその音が聞こえるのだ。


さすがはフォニア信者の集う学校というべきか……。

狂喜乱舞する生徒達に当の本人は呆れ顔を浮かべる。


……もうすぐ卒業か。

煌びやかな宣伝に目を奪われる藤浪達をよそに、俺はあと半年で終わる学校生活の事を思い浮かべる。


卒業したとて、何もやりたい事はない。

姉の言う通りにそのまま大学に進学し、フォニアを続けていく方がいいのかもしれない。


だが、そこまでの決心がつかない。

やはりフォニアという偽物がいつまでもいるべき世界ではない……。そう思ってしまうのだ。


だから、次を占うために神頼みをしたいという思いがある。だから神社に行きたいと言ったのだが、もう一つの心理に俺は気づかないまま、バスはスカイツリーに到着する。


「うわぁ〜!!たかぁい!!」

到着早々、真響さんは真上に聳え立つスカイツリーを見て声を上げる。


その声に俺たちも上を見上げる。

さすがは日本一の高さを誇る電波塔だ。


上を見上げても、辛うじて頂上が見える程度の高さに舌を巻く。


俺たちは順番にスカイツリーのエレベーターに乗り、頂上へと向かう。


頂上に上がるとそこには一面に広がる関東平野が一望できる。


「うわぁ〜、いい景色だね!!一彩くん」

その景色に目を奪われていると、ヒョイっと真響さんが横に来て感嘆する。


目を輝かせながら眼下の景色を望む彼女を横目に、俺は「そうだね」と言って、同じ景色を見続ける。


……真響さんにはこの景色はどう映っているのであろうか?


俺にとってこの景色は眩暈がするほどに高すぎる。

だが、真響さんにとってはこの景色は美しく見えているのだろう。


そんな事を思っていると、藤浪とルイも俺たちの近くに来て同じ景色を眺める。


「うっひょー!!高えなこりゃ!!」


「う、うん。高すぎて何だか怖いわ……」

正反対な意見の藤浪とルイが俺と真響さんとダブって見える。


俺たちは三者三様の思いでしばらくその景色を眺めると、記念撮影をしてその場を後にする。


「そういえば、あんた。夏の予選、決勝で負けちゃったんだって?」

移動中、ルイが藤浪に高校野球最後の大会の結果を尋ねてくる。


その言葉に藤浪は少し渋い表情を浮かべると「ん?ああ、その事か……」と言って話を続ける。


「あの日、一本俺が打ててれば勝ってたんだけどな……」


「で、でも、今年の甲子園優勝校に1対0で負けたんなら大したものだよ!!」

少し重い空気が漂う中、真響さんが慌てて場を取り繕う。


そんな空気を藤浪はぶち壊す。


「……何でプロ野球みたいに登場曲を使わせてくれないんだよ!!」


「「「へっ?」」」


「あの日、フォニアたんの曲を流してくれたら一本、いや、二本はホームランを打ててたんだ!!」


「「「はっ?」」」

唐突な発言に俺たちは呆れ返る中、藤浪は話を続ける。


「吹奏楽部もなんで俺の応援歌を今までの使い古しのままなんだよ。俺の好きな曲にしてくれたら絶対に勝ってたし」


「んな無茶な……」


「無茶って、環境は大事なんだぞ?」

負けた事を環境のせいにする藤浪に呆れてものが言えなくなっていると、藤浪は話を続ける。


「どんな所で野球をしようと、どんな試合で野球をしようといつもの練習と同じ気持ちで臨めれば緊張なんてしないんだ。なら、それに近い環境で試合に臨めれば結果はついて来てたんだ」

そう力説する藤浪に真響さんが何故かうんうんとうなづきを見せる。


「だから吹奏楽部にフォニアたんの歌を応援歌にする様に頼んだことがあるんだけど、急には無理だって言われたんだ」


「そりゃそうだ。吹奏楽部がいくら練習してもすぐには合わせられないだろ?てか、あんまり悔しそうじゃないな」


「ん?当たり前だろ?いくら負けたからって野球ができなくなる訳じゃないし、俺が撃ち込まれた訳じゃないんだ。なら、大学に向けて練習すればいいだけの話だろ?」

高校最後の大会で敗戦したとは思えないほど、けろっとした藤浪に、真響さんはうなづきながら話に割り込む。


「そうだよ!!今が勝てなくても、次に向けて努力してればいつかはいいことが起こるんだよ!!だって、私もそうだもん」

そう言う二人を見て、自分と彼らの意識の違いがはっきりと分かってしまう。


今は良くても将来を考えられていない俺と、将来のために努力をして来た二人の意識の差異。


そこにはいずれ訪れる、社会人としての生き方の明暗が見えている気がする。


「てか、お前ら。あの日、用事があるからって応援に来てなかったよな?お前らこそ来てくれてたら、もう少し奮起できてたんだけどな」


その言葉に俺たちは乾いた笑いを浮かべる。

Vtuberオタクに収録があったなんて、口が裂けても言えないのだ。


「あはは。わたし、バイトだったし。あ、次に行くのって、東京タワーだよね。早くバスに戻らないと」

話を誤魔化す様に真響さんは旅のしおりを広げ、次の目的地を確認する。


「なんでスカイツリーを見た後に東京タワーなんだろうな。この景色を見た後に東京タワーなんて見劣りするだけだろ?バカと煙はなんとやらってか?」

観光バスに戻り、自分の席に座った藤浪が次の行き先のことをぼやく。


だが、バスは次の目的地である東京タワーに向かって走り、1時間もかからない間で到着する。


そして、バスを降りた俺たちはスカイツリー同様にエレベーターに乗ると展望台へ向けて上がっていくが。何人かの生徒はどこか不満げな様子を見せる。


それはそうだ。


タワーに次ぐタワーの梯子は高校生でなくてもいやだ。しかも、日本一高いタワーからのかつて一番だったタワーの梯子は迫力に欠けてしまうに決まっている。


そう思いながら、俺たちはエレベーターを降りると、スカイツリーに比べると、客足の少ない東京タワーからの眺めを一望する。


だが、やはり眺望的に物足りない。

かつて日本一の高さを誇った建物であったとしても、後からできたスカイツリーと比べると、見劣りして当然だ。


そんな様子に他の生徒たちも不満げだった。


だが、俺は違った。


とある一角に差し掛かった光景がどこか自分の心境とダブったのだ。


それは東京タワーの中から見えるスカイツリーの眺めだった。


かつて栄華を誇った東京タワーの高さをも超えるスカイツリーの高さを展望台から見上げていると、これから幕を閉じようとするフォニアがこれからスターダムに上がっていくであろう奏の後ろ姿を眺めている……、その様に見えたのだ。


それは仕方のない事だと思う。


俺が男であると言う事実は変えられない。

環境や努力と言った面では変えられる現実を受け入れなければならないのだ。


反面、寂しさが募る。


いずれフォニアが忘れられる存在であったとしても、その足跡を湊音奏に残さないといけない。


そう思いながら、俺は横を歩く真響さんを横目に東京タワーを眺める。


その背中をルイが黙って見ていた事をこの時の俺は知る由もなかった。

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