LOG.9 — よかったね。ー Good for you.
——実話。
俺と、現役モデルと、不倫と…。
こんな人生で、マトモは無理。
たった一度の出会いで、人生が壊れた。
これは、その記録。
————
ミカ
「ここに寝て。」
ベットの真ん中を
ポフポフと叩くミカ。
言われたとおりに
俺は仰向けになって寝転んだ。
ミカは俺の上に寝そべり、
身体全身を預けてくる。
ミカが"掛け布団"みたいで可愛い。
ミカ
「体貸して~」
「アタシここでYouTube見るね」
そう言ってミカは
俺の体の上でスマホタイムが始まった。
ゼロ距離で、
"ミカの香り"を浴びている。
あまりにも気持ちよすぎて、
白目向きそうになった。
いきなり、
首元にふわりと唇を近づけてくる。
触れてるか触れてないかのギリギリ。
シン
「んぎゃ!」
全身が跳ねた。
ミカ
「弱いんだ?そこ。ふふ」
バスローブの胸元はゆるく、
”見えてはいけない先端部”
がミカが動くたびに、
見えそうで......見えない。
そのたびに心臓が死ぬ。
終わらない地獄の焦らしが3時間続く。
あと1時間生き残れば...!
このデスゲームも終わって...!
ミカと永遠に会える...!
ミカはスマホを見ながら、
抱きついて、
そのついでに、
首や耳をほんの少し噛んできたり。
ミカ
「……フフ♡」
痺れるな、ミカ。
やっぱりお前は、
全てが、俺のツボだ。
ーーー
あと30分。
ミカは、
チラッと残り時間を確認した後、
YouTubeに飽きたのか、
突然スマホをポイッと遠くへ投げた。
そしてミカは
四つん這いになり、俺の上に跨った。
俺の目をゼロ距離で 真っ直ぐ見つめる。
ミカ
「ねぇ、今からアタシが言うこと…」
「 "全部ウソ" ね。」
「シン、大好きよ。」
「アタシをめちゃくちゃにして…?」
そう言ってミカは
唇が触れるギリギリで、
ピタッと寸止めした。
シン
「..........っ!」
もう無理だ。
そして、
最後の一線が折れた。
ミカのほっぺを掴み、
力任せにキスしまくった。
その瞬間、
ミカの目が変わった。
猫のように可愛かった目が、
一気に感情を消し、
冷たいガラスみたいな目になる。
ミカ
「あーあ。」
「さよなら。」
小さく、ミカの、舌打ちが、聞こえた。
ミカは立ち上がり、
バスローブを落とし、
全裸になった。
ミカ
「もう会わないから好きにして。」
「ほら。早く。」
無駄な肉のない、彫刻のような、
完璧な体が目の前にあって、
我慢なんてできるわけがなかった。
俺は何も言わず飛びかかった。
けれどミカは…
人形のようだった。
声を出さない。
喜ばない。
怒らない。
求めない。
ただ遠くを見るような目をしたまま、
天井を眺め、
俺に合わせて、
揺れる、
だけ。
涙が、
目尻に少し浮かんでいた。
その涙は、快楽のそれじゃない。
きっと、失望だった。
ここで我慢出来るか出来ないかが
ミカにとって"踏み絵"のような
ものだったんだと思う。
ーーー
そして俺は、
ミカに飲み込まれたまま、果てた。
世界が、急に止まった。
無音の時間が流れる。
ミカ
「……どいてくれる?」
「重いんだけど」
シン
「ご…!ごめ…!」
俺は急いで賢者タイムの体を
ガバッと起こした。
俺は肩で息をしていた。
理性は崩壊したままだった。
俺だけが肩で息をしていた。
ミカは、
まったく違う世界にいた。
ミカはベッドに座り直し、
ローブの紐をゆっくり結び直した。
そこからミカは
勢いよくスクッと立ち上がり、
足早に
バッグからメイクポーチを取り出す。
…思えば、
さっきまでミカは、
化粧なんてほとんどしていなかった。
ただのキャミ姿、
髪も自然に垂らして、
それでも
“完成されてる”
みたいな美しさで。
ミカは鏡の前に座り、
淡々と、機械のように化粧を始めた。
ファンデ。ライン。
ハイライト。リップ。
ひとつ塗るたびに、
ミカの顔が“別の誰か”になっていく。
最後に香水を手に取り、
シュッ。シュッ。シュッ。
あたりに広がる強烈な甘い香り。
ホテルの空気が
全部その匂いで塗り潰された。
"ミカの香り" は完全に消えた。
ミカは鏡越しに俺を見る。
暗い。
冷たい。
底がない。
ミカは立ち上がり、
ワンピの裾を整えて、
鏡を見たまま目も合わせず、
こう言った。
「よかったね。モデル抱けて。」
声が平坦すぎて、逆に刺さる。
ミカはスマホを取り出し、
淡々とホーム画面を開いた。
ミカ
「じゃ、LINE消しとくね。」
シン
「ま、待って、」
ミカ
「送迎はして?
早く“ミカを元の場所に戻して”。」
“アタシ”じゃなかった。
語尾もテンションも違う。
もう完全に、
俺の知ってるミカじゃなかった。
バッグを肩にかけ、
香水の匂いをまとったミカが
ドアの前に立つ。
ミカ
「行こ。ここに長くいたくない。」
「さっさと来てくれる?」
冷たすぎて、震えた。
廊下を歩くミカの背中は、
まるで“知らない他人”だった。
エレベーターに乗り込んでも話さない。
車に乗っても、
視線はずっと外に向いたまま。
行きと違って、
足は、一切パタパタしていない。
ーーー
パーキングに到着し、
ミカはすぐに車から降りた。
そして、ぽつりと言った。
ミカ
「……じゃ。」
それだけ。
そしてミカは
パーキングの暗闇に消えた。
残された香水だけが座席に漂っていた。
俺はハンドルに額を押しつけて、
そのまましばらく動けなかった。
あの日、俺は完全に壊れた。
だが この絶望の後、
意外にもミカのほうからLINEが届く。




