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内定ゲットしました!

 件名:【選考結果に関するご案内】清々保険株式会社


 四方路春海 様

 清々保険会社人事部の羽生野譲二と申します。

 先日は弊社の採用最終選考にお越しいただき誠にありがとうございました。

 厳正な選考の結果、四方路春海様は最終選考に合格されましたのでお知らせいたします。

 つきましては、ご入社にあたり当社にご提出いただく書類を本日発送させていただきました。二週間以内に、必要な書類をご用意のうえ、同封の返信用封筒でご返送くださいますようお願いいたします。

 ご入社日・採用日は来年の4月1日付の予定でございます。

 ご不明な点などございましたら、当社人事採用担当代表または私までお問い合わせください。

 選考にあたりましては、たびたびお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。改めて御礼申し上げます。今後もご一緒できますことを職員一同、心待ちにしております。

 まずはメールで恐縮ですが、ご連絡申し上げます。

 今度ともどうぞよろしくお願いいたします。


 スマホに届いた懸命にまず目を擦り、震える手で開いた本文に体が強張った。

 夢にまで見た合格通知。それが今、目の前にあった。約一年間、ずっと求め続けたそれをスクショにして、春海はガッツポーズをする。


「何? どうしたの急に」


 香織が不思議そうに見上げてくるので、春海はそのスマホの画面を目の前に突き出した。


「うわっ、清々保険の合格通知? 倍率高いよね、ここ」

「うん。でも受かった」


 ピースサインをする春海に、美月が拍手を送る。


「良かったよ。これで安心して、三人で卒業できるね」

「いやいや、まだ卒論終わってないでしょ。安心するのはまだ早いって。ここで単位落としたら、何もかもがアウト、水の泡、骨折り損のくたびれ儲けってね」


 香織は喜ぶ美月の頬を人差し指で軽く押す。

 ムニン、と弾力のある頬が心地よかったのか、二度、三度と香織は繰り返した。


「でも、一番大変なところは乗り越えたわけでしょう? 今くらい、ハルミンも喜んで遊んでも、誰も文句言わないって」

「それもそうか。どうする? 今日は晩御飯、パーっと景気よくどっかに食べに行く?」


 ようやく満足したのか、香織は美月から指を離して、春海に問いかけた。しかし、春海は申し訳なさそうに両手を合わせる。


「ごめん、例の職場にも挨拶しに行きたいから、この後はちょっと」

「あぁ、滑り止めの婚活相談所ね。アレ、私も気になったから教授にチラシが残ってないか聞いたんだけど、無くなっちゃったみたいなんだよね。他にうちの大学からバイトに来ている子はいる?」

「ううん、私だけ」


 席に座りながら春海が首を横に振ると、美月が今度は香織の肩を指で押す。


「カオリンみたいに興味本位でチラシを貰おうと思った人がいたんじゃないの? それでなくなっちゃったとか」

「あり得るかも。あの教授の授業、一年から三年まで必修科目が入ってるから、顔が広すぎなのよね。噂を聞き付けた三年が、とりあえず持ってくとか絶対ありそう」


 美月の指を払いつつ、香織は大きく頷く。

 温厚で授業もわかりやすく人望もあるのだが、唯一の欠点はテストが難しいということ。おかげで、学生のレベルは底上げされている部分はあるのだが、毎回、期末テストの次期になると胃が痛くなる生徒が多数出現する。


「あはは、正直なところ、最初はあの研究室に所属する勇気はなかったかも」

「でも抽選で漏れちゃったんだから仕方ないわ。三人仲良く行く覚悟も決まるってものでしょ」


 香織は大きくため息をつく。幸い、ゼミでの活動は支障なく進んでおり、卒業論文の作成も始まっている。既に中間発表が十一月の頭に予定されているので、それに合わせてある程度完成をさせなければいけない。


「最終締め切りは一月だけど、まずは中間を乗り越えないとね。ハルミンはしっかりやって――――なさそうな顔だね」

「まぁ、あと一月以上あるんだし、就活関係は内定式に出るくらいでしょ? 全然間に合うって」


 香織の励ましの言葉に春海は、僅かに言葉を詰まらせる。それに何か引っかかるものを感じたのか、香織が笑顔を引っ込めた。


「何か、あったの?」

「うん。あまり大きな声じゃ言えないんだけどね。その、内定先の会社の面接官が――――差別的な発言をしているのを聞いちゃって、本当に勤めても大丈夫なのかなって」

「うわっ、それ面倒なやつじゃない。知っちゃったからには忘れることもできないし」


 香織は苦虫を嚙み潰したような表情で天井を見上げる。

 これが末端の社員ならば、春海もその人だけが問題なのだろうと聞き流すことができた。しかし、その本丸は社長だというのだから手に負えない。


「最終的に就職するのはハルミンだから、自分の気持ちに従うのが一番じゃない? 私たちの立場でアドバイスすることはできるけど、責任はとれないから」


 これから先、何年、何十年と働く中で、自分が納得して働き続けられる職場かどうか。それを見定めるのは本人しかできない。

 美月は春海にそう言葉を伝えた上で、自分ならば就職しないと告げた。


「うーん。転職することもできるし、寿退社をするっていう手段もある。言い方は悪いけど、一部の馬鹿な発言を気にして、将来を棒に振る可能性があるなら就職して見るのもありかなとは思う。まぁ、私の場合は辞めても、次の会社を探して入る自信があるからだけど」


 自信満々に言い放った香織に、春海も美月も反論しない。実際、香織ならば本当にそれをやってのけるだけの実力があると二人とも思っているからだ。


「うん、二人ともありがとう。ちょっと、考えて見る。じゃあ、バイト先に顔出して来るね」


 そう言って春海は席を立った。

 その後ろ姿が見えなくなった後、美月が心配そうに呟く。


「ハルミン、大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ。もう結論も出てるっぽいし」

「えぇっ!? そうなの?」


 香織の発言に、美月は目を丸くする。そんな彼女の姿を見て、香織はスマホを片手に淡々と言い放った。


「だって、春海の性格を考えたら――――ねぇ?」

「あー、なるほど。じゃあ、私もわかったかも……。一応、答え合わせしてみる?」

「いいよ。じゃあ、せーので、ね?」


 美月の言葉に香織は苦笑しながら、スマホを仕舞う。

 数秒後、どちらからともなく、せーの、の合図で二人はそれぞれ予想した答えを口にした。

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 今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

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