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いろいろとありますが、どうします?

 翌日、昨夜のレースの余韻が消えていない春海は、朝早くから事務所に押し掛けていた。


「何だ、また朝早くから。休日なんだから、たまに息抜きに遊びに言ったらどうだ?」

「こんな状態で、遊びに行けるわけないじゃないですか! それに空人さんに伝えておかなければいけないことがあったんですよ!」

「あぁ、はいはい。今の俺は大きな仕事をやり終えて広い心をもっているから、何でも聞いてやるよ。お願い事を聞いたり、質問に必ず答えるとは約束しないがな」


 机に両手を置いて、前のめりになる春海。もう見慣れたとでも言うように空人はタブレットを弄って、適当な返事を返す。

 何人も契約をしてきた手前、絶対の約束をしない辺りは、流石、魔法使いと言ったところか。


「私が受けた会社の面接官。亜人の存在を知ってたんですよ。しかも、そういう人たちを面接でわざと落としてたんです」

「あぁ、よくあることだな」

「……よくある、ことなんですか?」


 春海の呆然とした呟きに、空人はタブレットを置いて、春海を正面から見返した。


「あぁ、人間じゃない存在が、人間社会に紛れ込む。そこに軋轢が生じないと本気で思ってるのか?」

「でも、空人さんはそれを仕事に……」

「もちろん、その軋轢を極力減らし、日本の少子化と女性の二倍近くある未婚率を解消しようと尽力している。だけど、それは俺の考えであって、そうではない者もいる。それだけの話だ」


 空人は立ち上がると片手を机の上に置き、春海と同じように前傾姿勢を取る。春海を覗き込むようにしながら、口を開いた。


「尤も、それで亜人の存在がバレて、問題になるというのは避けたい。それはこの事業を了承している政府も同じだ。近々、亜人を見分ける道具を回収しにお偉いさんが動き出す予定だ。当然、口止めも含めてな。もし、亜人がいれば、君のような存在は心強いだろうから、その会社に今後いて、手助けをしてみるというのも、この職を経験した君ならばできることかもしれない」

「なる、ほど?」


 春海はそういう考え方もあるか、と考える。

 しかし、どこかから指導が入るとはいえ、それまでは平気で亜人を排除していた会社に就職したいかと問われれば、甚だ疑問だ。

 来週中には合否の連絡が来る予定になっている。仮に合格通知が届いたとして、自分ならば就職したいかどうか。何度も自分に問いかけてみるが、答えは出ない。


「誰だって自分と違う者には恐怖をする。そこは俺も否定はしない。だから、こちらは身辺調査とか面倒なものをいろいろとやって、こちらの世界で上手くやって行けるかを見定めた上で、亜人たちを送り出すようにしている」

「イレギュラーを年に二、三回起こしているのに?」

「随分と口が達者になったな。まぁ、そのイレギュラーは半分わざと起こしている部分もある。本当に、その種族が紛れ込むと面倒な事件を起こすかどうかってな」


 ――――じゃあ、起こさなかった場合はどうするのか。


 春海が批難の眼差しを向けるが、空人は平手で首を斬り落とす動作を見せた。


「魔物はどこまで行っても魔物だ。人間素体で作り出された魔物ならともかく、純粋に魔物として生まれてしまった奴らは、どう足掻いても人を襲う。そういう決まりだ。それに当てはまらないのは本当にごくごく一部の限られた存在だが、どうにもそれを偉い奴らは理解できないらしい」


 だから事件を起こすのを待って処理をしたことを伝えるのだ、と空人は言う。


「でも、亜人は事件を起こしても捕まるだけ、なんですよね?」

「人と同じ扱いだからな。一応、言っておくが、魔物は人間を襲うのが当たり前の存在だ。変に同情しない方が良いぞ。いくら形が似ていて、同じ言葉を使うとしても、だ」


 どこか納得がいかない表情を読み取ったのだろう。即座に空人が釘を刺した。


「わかりましたよ。因みに、もう一つの本題ですけど、凛さんたちはどうなったんですか?」

「とりあえず、明後日に役所に婚姻届けを出しに行く。そして、それぞれの御両親と顔合わせだ」

「え、御家族と会うんですか?」


 驚愕の声を挙げる春海。

 それもそうだろう。亜人であることを受け入れたのは、結婚相手である佑介のみ。その両親に知らせて認められなかった場合、いろいろと問題になるのが容易に予想できる。


「言いたいことはわかる。だが、その秘密を墓場まで持って行くのは流石に難しい。凛さんも義父母を騙したまま生活するのは、流石に辛いだろう」


 親戚全員とまではいかなくても、そこだけには必ず知らせる。それが空人が二人とレース前にあらかじめ話して決めたことだった。

 家族を全員集めて顔合わせをするのは、例の喫茶店らしく、明後日の朝には凛の良心が到着する予定なのだとか。


「えっと、因みに私は?」

「流石に最後の大詰めだ。悪いけど、ここは俺一人で対応する。やりたかったら、もう少し亜人の対応になれてからだ。もし、佑介さんの両親が激怒した時に、落ち着いて対処できる自信があるか?」

「な、無いです」

「ま、そこら辺は、今後の君に期待だ。もし続ける気があるのならば、だけどな」


 空人はそう言うと、にこやかに笑って手で払う仕草をする。


「ほら、今日は涼しくて街に繰り出すにはいい感じだ。ランニングとまではいかないが、少しは自分のことに時間を使ったらどうだ?」

「何か誤魔化された気がしますけど、わかりました。また、結果教えてくださいね?」

「あぁ、その時には、個人面接の結果も教えてくれ」


 春海はスマホを操作すると、友人の香織と美月に連絡を入れる。最近は婚活の手伝いに、就活にと忙しくて休む暇がなかった。

 空人の言う通り、たまには三人で遊ぶのも良いだろう。幸い、二人とも急な連絡でも遊びに行けるような関係だ。

 文字を打ち込んで十数秒、すぐに二人から了承の返事が飛んでくる。スマホを鞄に仕舞うと、いつもの待ち合わせ場所に向けて歩き出した。

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