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セクハラ発言ですか!?

 個人面接から一週間。

 面接官たちの衝撃的な会話を忘れられず、事務所にも顔を出せずに春海は大学に通うことだけしかしていなかった。そして、金曜日の大学の帰りに、そのまま事務所にやっと足を向けることができた。

 凛のお見合いがどうなったかを知りたかったというのもあるし、また土曜日にお見合いがある可能性もあったからだ。


「お、久しぶりに顔を出したな。流石に授業やら何やらで忙しかったか」

「はい。いろいろ、ありまして」

「その様子だと、本当に疲れてるみたいだな。良いんだぞ、無理して来なくても」


 そう言う訳にはいかないと春海は鞄をソファに置く。今の春海にとって唯一と言っていい楽しみが凛の恋の行く末なのだ。尤も、その楽しみさえも、今は考える余裕がない。


「因みに土曜日のお見合いは、どうなりました?」

「うん、それが大問題が発生してな。俺も頭を抱えていたところだ」


 言葉とは裏腹に空人は満面の笑みで言い放つ。その余りにも乖離した言動に、春海の頭の中も真っ白になった。


 ――――まさか、縁談が御破算に!?


 そんな想いが頭の中どころか足の先まで駆け巡り、代わりに血の巡りがストップしそうになる。


「落ち着け。多分、君が考えていることは違う」

「え、じゃあ、お二人ともお付き合いは問題なく進んでいる感じですか?」


 春海が勢いよく立ち上がると、何とも微妙な顔で空人はスマホを弄る。


「問題なく進んでしまったのが問題、ってところかな?」


 そう言って空人が見せたのは動物園が上げている動画だった。狐が二匹、追いかけっこをしている様子だ。


「可愛いですね。遊んでるんですか?」

「求愛行動だ」

「え?」

「求愛行動だ」


 戸惑う春海に淡々と空人は告げながらスマホをポケットにしまう。


「狐の求愛行動は追いかけっこや力比べなど色々あるらしいが、前に言ったことを覚えているか? 狐の亜人の結婚相手の決め方は『追いかけっこ』だ、と」

「もしかして……」

「あぁ、二人の仲が進展しすぎて、今度のデートがその『追いかけっこ』になってしまったんだ」


 大きくため息をついた空人だったが、逆に春海は頬を紅潮させて目を輝かせる。まさか二人の仲がそんなに進んでいたとは思いもしなかった。しかも、ゴール寸前、秒読み段階と来れば、それはもう興奮しないわけがない。


「因みに、佑介さんが勝った場合は、もちろん結婚ですよね?」

「いや、子作りだ」

「え?」

「子作りだ」


 部屋の中に沈黙が訪れた。突然、電源が切れたパソコンのようになった春海だったが、数秒後、今度は別の意味で顔を真っ赤にしながら大声を上げる。


「何、いきなり言ってるんですか!? セクハラですよ!」

「事実を言ったまでだ。狐の亜人は最後まで追いかけっこに残り、追い付いた男を(つがい)として、真っ先に性行為を行う。その理由はわかっていないが、どこかの偉い教授は極度の興奮状態をそのまま性的興奮に繋げるためだとか言っていた」

「えっと、じゃあ、空人さんが悩んでいたことって?」

「その追いかけっこがどうなるかわからん。その直後のフォローが非常に難しいんだよ!」


 空人が言わんとしていることを春海は何とか理解した。

 追いかけっこが終わると、すぐに凛は佑介と性的関係を迫る可能性が高い。その点において、佑介が拒否した場合のフォローと受け入れてくれた場合のフォローがどちらであっても大変だということ。

 前者の場合は、凛の感情と発情状態を宥める必要がある。ただ、これは空人が魔法で強制的に鎮静化させることができるので、比較的、楽な部類ではあるという。


「まぁ、それで佑介さんを諦められるかは、また別の問題だ。一度、(つがい)と認めたのに、それを拒否されたとなると、最悪、ストーカーになりかねない」

「うわぁ……」


 あまりにもリアルな空人の推測に、春海は思わず変な声が漏れた。そんな凛の姿など見たくもない。

 対して、後者は後者で面倒である。仮に佑介が受け入れたとして、その場で関係を深められては困る。二人そろって立派な犯罪者だ。それを回避するには、世間と隔絶した二人だけになれて、かつ、迷惑がかからない場所でなければならない。

 つまり、それ専用の宿泊ないし休憩用施設が近くにあることが条件だ。


「えっと、どうするんですか?」

「既に凛さんとは相談をさせてもらって、付近の専用のホテルがわかる地図を渡してある。追いかけっこの終着点は、可能な限りその近くにしてもらう」


 そして、次に空人の口から出て来た対処法は、春海にとって信じがたい発言であった。


「佑介さん側には、秘密保持の契約を新たに交わしてもらった上で、凛さんの正体をバラした。そして、追いかけっこの意味についても説明してある」

「……だ、大丈夫なんですか? それ」

「元々、お見合いが進むにつれて契約自体の縛りを緩めるものとキツくするものがあると言っただろう。流石に亜人であること黙って結婚させるのはマズイ」


 ただ今回は、進展があまりにも早すぎたと空人は言う。本来ならば、付き合うかどうかを考え始める段階でその契約を結ぶはずなのだが、空人がそのタイミングを見誤ったというのが原因らしい。


「まったく、獣人系の亜人は、こういうことがあるから大変なんだ。まぁ、上手く行った時にはその分だけ安心感も強いけどな」


 そう言って、空人はタブレットを春海に見えるように裏返した。


「場所は信号のない海岸線沿い。万条地区と諸浜地区に連なった全長約五キロの二つの公園。ここが明日の晩、あの二人の戦場になる」

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