面接官が不審です!
時が過ぎるのは早いもので、春海は清々保険の個人面接に来ていた。ここに来るまでの間に、一社の筆記試験を受けてはいるが、その結果が出るよりも早くの最終試験となっており、未だに面接の緊張はなかなか慣れない。
(またお守りを握って深呼吸するくらいしかできないかな……一応、トイレだけ行っておこうかな……)
「次の方をお呼びします。四方路春海さん」
「――――っ! はい!」
急に呼ばれてしまって慌てそうになる春海だったが、前回と違って声は裏返らずに済んだ。堂々と胸を張って、案内されるがままに入室する。
中にいたのは五人の面接官。その誰もが一次面接の顔ぶれとは異なっていた。やはり、ここでも面接官は年齢順に並んでいるらしい。ただし、進行は最も若い面接官が担当しているようだった。
「どうぞ、お掛けください」
「失礼します」
礼をして着席した春海は、まっすぐにそれぞれの試験官の顔を見た。その中で一人、またしても顔色が変化した面接官がいたのを発見する。かけていた眼鏡をしきりに拭いてはかけ直し、また外して目を擦るという謎の行動に、思わず春海は注目してしまった。
「では、自己紹介と志望動機、PRできることをお話しください」
「はい、私の名前は四方路春海です。御社を――――」
集団面接でも話したことを、そのまま伝える。ここまでは緊張こそしたが、想定内であった。面接官も手元の資料を見ながら、何度か頷く姿も見られ、雰囲気も一人以外は悪くない。
「当社で活かせる経験は何かありますか?」
「はい。私はアルバイトで婚活相談所のスタッフをしていました。依頼者のプロフィールや希望を受け、そのニーズに合ったお相手を紹介したり、お見合いの中で出た会話を元に次のアドバイスを上司と共に考えて提供したりするのが主な業務です。保険会社の業務においても、お客様のニーズに適したものを提案することが必要に思われます。私のアルバイトで培った経験が、そこで活かせるのではないかと考えております」
「なるほど、若い内からなかなか良い経験されていますね。しかし、それならば、そこで就職をするというのも一つの手だったのでは?」
思わぬ切り返しに、一瞬、春海の思考が止まる。いや、性格には想定したこともあったが、実際の場で言われるのと友人や就職支援室の見慣れた人に言われるのでは、精神的ダメージが違う。
視線を面接官のネクタイの結び目に合わせて、小さく、しかし落ち着いて呼吸をした春海は、ゆっくりと口を開いた。
「私が勤めていた婚活相談所は、規模が小さく、半分は社長が趣味で始めたもので、いずれ事業を畳む予定であるとおっしゃっていました。社長もこの就職活動は応援していてくださり、そこで学んだ人と人とを繋げる際の真心を忘れずに、お客様に安心をお届けしたいと思っております」
嘘は言っていない。事実、今日の面接に至るまでに、婚活相談所は今度も続けていくかどうかを尋ねたことがあった。
そして、その答えは意外にもすぐにではないが、いずれ終わらせる予定であると空人は告げたのだ。曰く、「今の婚活事業は建前で、政府が異世界人がこちらに馴染むことができるか。こちら側の人間があちら側に行ったとして、友好関係を築くことができるかのデータ集めがしたいんだ」と。
もちろん、日本の男性未婚率や出生率の低下を少しでも回復させたいというのも本音なのだろう。ただ、日本政府は更にその先を見据えているようだ。
国からの支援があるというのも、恐らくは空人以外を通して、異世界へとアクセスする方法がないと見ることもできる。
「わかりました。次の質問ですが――――」
面接官が何問か質問し終えると、別の面接官が質問をし始める。それを繰り返して、最終的に面接を終えることができた。
チラリと見た時計から、およそ二十数分が経過していた。体感では一時間弱、質問に受け答えしていた気分だが、実際はそれほど時間は経っていなかったらしい。
もちろん、春海の心臓はマラソンでもしていたかのように脈打ち、今にも破裂しそうであった。
「――――以上で面接を終わります。お気をつけてお帰りください。合否については二週間以内に、メールでお知らせをする予定です」
「ありがとうございました」
椅子から立ち上がった春海は、口から心臓が飛び出そうになりながらも、礼をすることで、何とか堪えることに成功した。最後まで姿勢を崩すことなく、退室をして、ドアを完全に閉めた春海は、一呼吸おいて小さくガッツポーズした。
(よし、何とか乗り切った!)
危うい場面は何度かあったが、上手く切り抜けられたと感じられた。後は、もうなるようにしかならない。人事を尽くした春海に出来ることは天命を待つことのみ。
ふっと気が抜けたところで、部屋の中の声が聞えて来る。
「失礼。少しトイレに行ってもよろしいですか?」
「では、僕も。後、何人くらいやったら昼食ですかね?」
「できて二人か三人だろうね。まぁ、急がず行ってきなさい」
慌ててドアから離れる春海だったが、唐突に自分も面接前にトイレに行こうとしていたことを思い出す。幸いにも、トイレはすぐ近くにあり、歩いて数メートルのため、慌てることなく向かうことができた。
「しかし、困ったものだ。最近は人間擬きが紛れ込むようになったからね」
「あぁ、例の亜人の件ですか?」
ドクンッ、と春海の心臓が跳ねる。ちょうど、彼女がいるのは女子トイレに入った所で、面接会場から出て来た彼らからは見えない位置だ。
少しずつ近付いて来る声に息を潜めて耳を澄ましていると、更に彼らの口から信じられない言葉が紡がれる。
「私が使ってた眼鏡で変装を見破れるということだったが、不良品だな。さっきの彼女の面接では君たちの頭の上に耳が見えたり、尻尾が生えていたりと役に立たなくなった。前も山本君が、悪魔が見えただの何だのって騒いでいただろう?」
「あぁ、あれは大変でしたね。発行元に連絡しても駄目だったんですか?」
「さあな。社長が唐突に持って来たものだから、私にもよくわからん。ただ、妖怪も就活する時代とは恐れ入ったよ」
カツカツと革靴の音を響かせて、隣のトイレへと二人が入って行く。
(亜人の存在が――――バレてる!?)
耳朶に叩きつけるような心臓の鼓動に、脳みそが揺さぶられている気分になった。膝から崩れ落ちそうになるのを必死に耐え、春海はトイレの奥へと何とか進む。個室へと入った春海は、そこから十数分、外に出ることができなかった。
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