一次面接合格しました!
春海が事務所に飛び込んで来たのは、金曜日の夕方だった。
「空人さん!」
「何だ、そんな慌てて。就活面接にでも受かったか?」
「はい! 受かりました! 次は個人面接で、ここを抜ければ内定です!」
前回の集団面接は討論も兼ねたものだったが、今度ばかりは毛色が違う。何せ一人の就活生に対して最低三人。多い時には五人を超える面接官が一斉に並ぶのだ。そこで感じるプレッシャーは、今までの比ではないだろう。
「――――っていうか、何でそんなの驚かないんですか!?」
「まぁ、受かると思ってたからな。個人面接はどうなるか知らんが」
空人のきっぱりと言い放つ様子に、春海は唖然とした。
自分で言うのもなんだが、面接の練習はそんなにしていなかったし、婚活相談所での行いはそこまで良い物とは言えなかった。それで空人が太鼓判を押す理由が春海には見つからない。
「えっ? えっ!? 何でですか? 何でそんな風に思ったんですか!?」
「何だ!? 褒めたら褒めたで騒がしくなりやがって。君はアレか? 自己肯定感がそんなにないタイプか!?」
「そうは思いませんが、褒められる理由が見当たらないのも事実です。後学のために教えてください」
「殊勝な心掛けなのか、はたまた嘘を言うのが上手くなったのか……。まぁ、いい。それくらいだったら話してやるよ。まずはそこに座って待ってろ。祝杯を挙げるには役不足だが、良い茶がある」
そう告げた空人は冷蔵庫からボトルを取り出すと、普段使うコップではなく、お酒を飲むのに使うようなショットグラスを持ち出した。
トレーに乗せて運んできた空人は、テーブルの上に置くと自分の分のグラスを持って、春海にも持つよう促した。
「じゃあ、一次面接突破を祝して乾杯」
「か、乾杯」
グラスを軽く合わせて、空人はそれを一気に口の中に放り込んだ。しかし、春海は目の前のグラスを一口飲むと、即座にグラスの中の茶色味がかった液体を見たまま動かない。
「何だ。毒なんて混ぜてないぞ」
「いえ、唐突に嫌な予感がしてきただけです。それが何かはわからないんですけど……これ緑茶ですよね? 凄い味が濃いんですけど」
「あぁ、普通のお茶よりは高いからな。でも上には上がいるぞ。いつか金を稼げるようになったら一度は飲んでみるといい。酒と違って、体にいいことばかりだからな」
空人はボトルを持って、グラスの中へと注ぐ。
「もしかして、お高いです?」
「これで数千円。上物は数万円だ。一度くらいは、経験しておく価値があるぞ」
「合格した時に、知りたかった……」
「……まぁ、その時の良い物は用意しておいてやるから、安心して飲め」
チビチビと飲む春海を前に、空人は一度自分の机の方に戻り、タブレットを起動する。
「それで、次の面接はいつなんだ?」
「一週間後の土曜日です。多分、お二人のお見合いには行けそうにないですね」
「安心しろ。いつも俺一人でやってることだ。そっちは面接のことだけに集中しておけ」
「そうじゃないんです。凛さんのお見合いの様子が見たいだけなんです」
「もはや仕事ではなく、私情が入っていることを隠さなくなったな?」
呆れを通り越して逆に笑みを浮かべる空人は、タブレット越しに春海を見る。
そこには清々しいくらいの笑みを返す彼女がいた。間違いなく、その笑顔はお茶のおいしさから来たものではない。
「当然です。私、面接で学んだことがあります。それは開き直ることの大切さです」
「また、変なことを学んで来たな……。まぁ、君にはそれくらいの大胆さが必要なことは否定しないが」
それを発揮しなくてもいい場面でやるのはやめてくれ、と空人は呟く。ただ、せっかくの一次面接の初通過に水を差すのも野暮だと思ったのだろう。更に何かを告げようとした空人であったが、開きかけた口を閉じて、お茶のボトルを指差した。
「それ、開けたら飲み切らなきゃいけないんだ。カウンター裏にショットグラスがあるから、どうせなら凛さんと飲んでくると良い」
「えっ!? 良いんですか? これ高いんですよね?」
「別に構わない。俺は充分に味合わせてもらったからな。それよりも、その味を広めて、色々な人に知ってもらう方が大事だ。凛さんも、働いてこの味をもう一度楽しみたいとか、将来の旦那に飲ませたいとか、何かしらの基準にもなるかもしれないからな」
さっさと行けと言わんばかりに、空人は手で払う動作を春海にする。
「あ、後で、代金を請求されたりしませんよね?」
「そんな悪徳業者みたいなことするほど落ちぶれてないわ。ほら、さっさと行った行った」
それならば、と春海は空人の厚意に甘えることにしてボトルとグラスを持っていく。肘でドアを上手く開けて出ていくと、空人だけが残った部屋に虚しくドアベルの金属音が木霊した。
「さて、一週間後はなかなかハードな一日になりそうだ……まったく、バカなことをやる奴が出てくるとは思っていたけど、ここまで早いとはね。とりあえず、ゴミはさっさと処分しておかないとな」
そう告げた空人のタブレットの影に置かれたスマホには、春海の受ける企業の面接官の写真が表示されていた。
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