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結果、教えてください!

 面接から数日後、事務所に来た春海は開口一番に空人へと告げた。


「凛さん、どうなりましたか?」

「来るなり、それか。まぁ、ここで働く以上、それは別にいいことなんだが、あまり相手に感情移入しすぎると、上手くいかなかったときに辛くなるぞ」

「そんなことは良いんですよ。教えてください」


 団扇を片手にタブレットを操作していた空人は、あまりにもグイグイ来る春海に目を丸くしつつも口を開く。


「別に大きな進展はない。休日に公園でのランニングを二人とも希望してきたから、それを承諾しただけだ。凛さんはしっかり自制して速度を抑えていたし、佑介さんは普段からランニングしていたのは本当で、良い感じに一緒に走ってたよ。一時間以上な」

「お、おしゃべりしながら、ですか?」

「あぁ、凛さんはともかく、佑介さんの方は流石と言ったところだな。あの様子だと、最近は夕方とかも走ってたんじゃないか? 確か、ハーフマラソンに出るつもりだって話してただろ」


 一般人がハーフマラソンを走る場合、二時間前後のタイムが出る。それを考えると一時間程度をおしゃべりしながら軽く走るくらいは、身体能力が高ければ可能だろう。

 筋トレにもはまり、体型的にはマラソンランナーに見えない佑介だが、運動に真剣に取り組む姿勢を見れば、その体力の多さも納得がいく。


「因みに、どんな会話してたんですか?」

「食事の話や旅行に行くなら山と海どっちか、とか。そういう他愛のない話だ。さっきも言った通り、楽しそうに会話をしていた、という点からすれば成功だったと思いたいな」


 空人の言葉に両手を机について迫っていた春海は、ようやく前傾姿勢を解除した。小さく息を吐き、胸を撫でおろす彼女であったが、次の瞬間、ふとあることに気付く。


「……二人は一緒に走ってたんですよね?」

「そうだが?」

「ランニングマシーンじゃないですよね」

「……そうだが?」


 そこまで聞いて、春海の脳裏に第二回のお見合いという名のランニングが行われている様子が浮かんで来る。

 笑顔で凛に話しかける佑介に、淡々としながらも時折、表情をほころばせる凛。そして、その後ろを会話を聞き逃すまいと付かず離れずの距離でストーカーする空人。不審者以外の何者でもない。


「よく、通報されずに済みましたね」

「……君が何を想像しているかは、よくわかった」


 流石にそんなことはしていない、と空人は手を振って反論する。そういった離れている状況でも会話を聞く魔法なり道具があるのだ、と説明を受け、春海は訝しみながらも納得はした。


「魔法って、何でもありですね。やろうと思えば、盗撮や盗聴やり放題じゃないですか?」

「君は俺を何だと思ってるんだ。ちゃんと、本人たちの許可を得た上で使用している。確かに、悪用すればできなくはないが、天性の才能があるか、よほどの実力者じゃなければ、その域には達せないぞ」

「因みに空人さんの場合は?」

「悪魔の証明だ。できない、と言っても、それを信じさせる証拠が提示できない」


 春海はわざとらしく自分の体を抱くようにして数歩下がる。それを見た空人は流石に機嫌を損ねたようで、引き攣った笑みを浮かべた。


「悪いが俺は既婚者だ。君には一切の興味がないから安心してくれ」


 そう言って掲げた左手の薬指には銀色の光が反射していた。


「ええええええっ!?」


 再び、両手を机に叩きつけんばかりの勢いで春海は空人に詰め寄る。マジマジと薬指の指輪を観察し始めた春海に、空人は呆れた様子で掌を何度か反転させながら頬杖を着く。


「一般的な婚活のアドバイザーとかが、どうしてるかは知らないけどな。異世界側の人間から言わせれば、結婚してない婚活相談所の職員が『他の世界の人と結婚しませんか』なんて言ったところで怪しくなるだけだ。そもそも誘い文句だけでも充分怪しいんだけどな。まぁ、歯がボロボロの歯医者並みに信用がないってことさ」

「ど、どんな人ですか? 年上? 年下? 可愛い系? 美人系?」

「何で、俺の個人情報を君に教えなきゃいけないんだ」


 空人が追い払うように手を動かすが、春海は退く様子を見せない。むしろ、興味があると目を輝かせている。


「恋バナが好きなのは分かったが、それは友人たちとやってくれ。俺の話を君に話したところで、俺には何の得にもならん」

「私の得にはなります」


 ああ言えば、こう言う。

 そんな様子に空人は、指輪を見せたことを後悔したのか、団扇で顔を覆って天井を見上げてしまった。その時、入口から心地の良い金属音が響く。


「――――あら、お取込み中?」

「あ、こんにちは。どうでしたか? 佑介さんとのランニング」


 入口のドアを開け、顔だけ覗き込ませた凛が困惑した表情を浮かべていた。春海の質問を受け、安心した表情に変わった凛が中へと入って来る。


「なかなかだった。魔法も使っていないのに、あれだけ走れるなんて少し驚いた」


 口の端を持ち上げた凛は佑介を賞賛する。

 しかし、すぐにその目は鋭くなり、春海を射抜くことになった。


「それより、春海はどうなの? お仕事の面接試験に行って来たんでしょ?」

「うっ、そ、それはですね……」


 頬を引き攣らせて春海は目を泳がせる。

 面接試験の合否は約一週間後に送られてくると説明を受けていた。だから、その結果は春海も当然知らない。


「でも、試験を受けた感触はどうだったかくらいは、わかるはず。さっさと白状しなさい」


 春海が勇輝に詰め寄ったように、凛も両手を腰に当てて春海を下から覗き込むように上半身を傾けた。

 一歩退けば、一歩詰め寄る。そうして、追い詰められた春海はソファへと追い詰められる。


「人のことを根掘り葉掘り聞こうとするなあ、自分も同じことをされるだけの覚悟が必要だ。いい勉強になったな」

「くっ、自分は逃げれたと思って……」


 そう言いながらも春海は凛の圧力に屈して、面接の様子を話すことにした。


「別に好感触も何もないです。言うべきことを言って、面接官が『そうですか』って言って終わりですから」

「何か、質問を追い打ちされるとか、答えるのに戸惑ったとかは無かったのか?」

「別になかったです。あぁ、でも、最初に面接官の一人が体調悪そうにしてたので、それは心配して声をかけました」


 急に挙動不審になった司会の面接官を思い出して、春海は首を傾げた。まるで幽霊でも見えるようになってしまい、居ても立っても居られない。そんなホラー映画のワンシーンでも見ているかのようだった。


「ほう……。その面接官、体調を悪くする前に慌てたり、驚いたりする素振りが無かったか?」

「よくわかりましたね。私たち就活生や両隣の面接官を見て、目を真ん丸にしてましたよ。エアコンも効いてる部屋なのに、顔を蒼褪めさせて、汗をかいていた気もします」

「そうか。まぁ、良い印象を与えられたなら良かったんじゃないか?」


 背もたれに体重を預けた空人は笑みを浮かべる。それが何か含みがあるように感じて、春海は批難めいた眼差しを送った。


「でも、悪い感触はなかったんだから、良しとするべき。とりあえずはお疲れ様、お互いね」

「はい、ありがとうございます。因みに佑介さんと会うのはいつくらいになりそうですか?」

「相手の仕事のこともあるからね。一応、公務員らしいから、休日は二日あるみたいだけど、一人の時間も欲しいでしょうから、次は二週間後とかになりそう。相手の希望があれば、私は一向に構わないけど」


 凛は、その辺どうなのか、と空人に問いかける。


「相手さんからの次の予定に関する連絡はまだなし。ただ、今回のお礼と次も前向きに考えている旨は伝えられているから、次もあるだろう。ただ二週間後となると、また彼女の面接と被る可能性があるな」


 二次面接は一次面接の合格から一、二週間後に行われることが多い。その場合、再び日程が被ることも考えられる。


「大学卒業見込みの学生の為に土曜日に試験をするだなんて、ブラックなのか学生想いなのかわからないな。まぁ、振り替えで人事部には休日が与えられていると思いたいところだ」


 肩を竦める空人の言葉に、ソファへと崩れ落ちる春海。その理由は言うまでもなく、凛のお見合いを見届けられないことにあった。


「私、いつから春海の娘になったの?」

「そうじゃないんですけど、気になるじゃないですか。私が初めて部屋の案内とかそれらしい仕事をした依頼人第一号さんなんですよ。最初から最後までを見届けたいじゃないですか」


 ソファの手すり部分を軽く叩く春海。相当、悔しい思いが強いのか、割と大きな音が部屋の中に響いた。


「――――と、こんな面倒な研修生ですが、気にしなくて大丈夫です。お互いに人間である以上、多少の想いが生まれるのは仕方がないことですが、深入りしすぎるとお互いの為になりませんから」

「それはそう。でも、春海みたいな子。嫌いじゃないから」


 そう言って、凛が春海の頭を撫でる。


「凛さん……!」

「ただ勘違いしないで欲しい。私の方が年上。こちらの世界で助けられているのは確かだけど、お母さんみたいに接されるのは、少し不愉快」

「うっ……!?」


 思い当たる節があり、春海は申し訳なさそうに頭を下げた。


「まぁ、こっちもそっちも、やることは当分ない。その間に、二次面接や他の企業への就活の準備も進めておけばいい。大学の授業だって、まだあるだろうしな」

「あ゛ー、現実を突きつけないでください。レポートがまだ半分しか終わってないんですから!」

「そりゃ、自業自得というやつだ。さっさと終わらせろ。やるべきことをやってから遊べって、小学校の時に言われなかったか?」


 正論をぶつけられて、完全にソファに倒れ伏した春海であった。この後、泣く泣く家に帰り、レポートを書くことになったのは、また別のお話。

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