企業面接、行ってきます!
リクルートスーツに身を包んだ春海は、通された部屋でガチガチに緊張していた。
面接は就活生ごとに割り振られた時間があり、待合室にいる人間は多くない。誰もが黒いスーツに身を包み、落ち着いた表情で座っているか、本を読んでいる。
面接の形式は集団面接。五人程度の就活生に対して、三名の面接官が着くということで、一次面接であっても一人一人をしっかり見て行こうという企業の姿勢が伝わって来る。
(うー、やっぱりお守り貰っといてよかった。心なしか、握ってるとちょっと落ち着くかも……)
ポケットの中に入れた空人のお守りを服の上から軽く握る。冷房の効いた部屋の中で汗ばんだ手が、スーツにぴったりと吸い付くのがわかった。
「――――では、次の面接を行いますので、呼ばれた方はBと書かれた部屋にお入りください」
前方の扉から女性が就活生の名前を呼び始める。五人の中の四番目に春海の名前があった。
「はひっ!」
呼ばれた瞬間に返事をして立ち上がるが、声が途中で裏返る。
顔が真っ赤になるのを感じながら、春海は逃げるように部屋の出口へと向かった。廊下を出るとすぐに白い紙に矢印とBが書かれたものが目に入る。
既に一人目から入室を始めているようで、春海も遅れないように一礼して入室した。
「えー、では、面接を始めさせていただきます。そちらの方から順番に自分の名前と志望動機、自己PRをお願いします」
面接官は三名。左から年齢順に並んでいるようで、中央の人物が進行を務めるようであった。
眼鏡の位置を指でずらし、わずかに光を反射する。それを見た瞬間に、春海の心臓が跳ねあがった。
(まただ……また、あの目……!)
人を人と思わぬような視線。それは就活生を一通り見回した司会の男のものであった。
だが、次の瞬間、男の目は真ん丸に見開かれ、急に両隣の面接官たちを交互に見始める。
「あ、あの、続けても、よろしいですか?」
「あぁ、失礼。ちょっと耳元に虫が――――」
司会の男は最初の就活生に謝罪しながら、耳元を手で払う素振りを見せた。しかし、その表情にはまだ驚愕の二文字が深く刻まれているように見える。
一人目が志望動機を話している間も、手元の資料を見ながら、何度も就活生や他の面接官に忙しなく視線を移しているようであった。
「――――次の方、お願いします」
話が一人終わるにつれて、恐怖を押し殺したような強張った表情に変化していく司会の男。流石に異変を感じ取ったのか、最も若い面接官が、彼を心配そうに見始めた。
美晴の番が来たようだが、一瞬、このまま続けても大丈夫か不安になる。しかし、それを判断するのは企業側だと判断し、一言だけ確認の言葉を投げかけた。
「あの、続けても大丈夫ですか? 少し顔色が――――」
「そうですね。少し蒼褪めているようですが、エアコンを切りましょうか?」
若い面接官が顔を覗き込むようにして確認すると、司会の男はペンを握った手を軽く振った。
「いや、それには及ばない。少し眩暈がしただけだ。老眼が進んで眼鏡の度が合っていないのかもしれんな。ははは……」
「そ、そうですか。では、続けてください」
戸惑いながらも続きを促された春海は、大きく深呼吸して三人の面接官を見た。司会の男は眼鏡をはずし、幾分かほっとした表情をしている。
「四方路春海です。本日はよろしくお願いします。御社を志望した理由ですが、『未来に向けて、皆様と共に歩む幸せの実現』という経営理念に共感したからです。私は自分を育ててくれた地域に恩返しがしたい、安心できる生活を提供したいと考えていました。そこで地域密着型の――――」
――――バレない程度の嘘はアクセサリー。
その言葉は意外にも、この場において絶大な効力を発揮してくれていた。
自分が育った街をよりよくしたい。その想いは嘘ではない。だが、それを保険会社を通してやりたいとは心の底から思ってはいなかった。
だから、表面を取り繕い、志望動機と就職後に何がしたいのかを言えるように一日で話を組み立て直した。就活の面接を手助けしてくれる大学の支援室の方々にも確認をしてもらい、何とか及第点を貰うこともできた。
既に履歴書で志望動機などは企業側へと送られていて、大筋を変えることはできない。だが、それを補足して話を広げるのならば、むしろ相手に好印象を与える可能性もある。
「はい。では、次の方、お願いします」
最後の一人の自己紹介に移り、春海は小さく息を吐く。気付けば、自分の手が真っ白になるほど強く握り込んでいたらしい。掌を見てみると、僅かに爪の後がいくつか残っていた。
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