光熱費にご注意を!
ドライヤーで凛の髪を乾かした春海は、彼女に紙を触ってみるよう促した。
「な、何だこれ!? 私の髪の毛が髪の毛じゃない! 匂いもいい!」
「魔法もすごいですけど、こちらの技術もすごいでしょう?」
よく動物は自分の匂いが消えることに不安を覚えるということがあるが、凛の場合は、特に問題はなかったようだ。尻尾や髪を触り、その感触に感動をしては触るのを繰り返している。
ただ、ドライヤーを使っている間だけは、その音がうるさかったのと耳にはいる風が気になったのとで、凛が嫌がっていたという現実もあった。
「これなら毎日洗いたいくらいだが……あの苦行を毎日か……」
己の毛の美しさと匂いを取るか、それとも泡とお湯、ドライヤーとの戦いを避けるか。かなり凛の気持ちは揺らいでいるようであった。
慣れですよ、と言いながら、他に説明するべきことを春海は探す。そして、すぐに汗がじんわりと出始めていることに気付いてリモコンを手に取った。
「凛さん。こちらの世界は、元いたところに比べて気温はどうですか?」
「暑いに決まってる。地面は鉄板なんじゃないかと思うくらい、熱気が押し寄せて来る。何だったら、正直、この部屋の中も暑く感じて仕方がない!」
それを聞いて春海はリモコンの電源ボタンを押す。すると、備え付けのエアコンが動き出した。
「わわっ、今度は巨大なドライヤーかっ!? もう乾いたぞ!」
「違いますよ。ほら、ここら辺に手を出してみてください」
春海の言葉に訝しみながらも凛が手を上げると、尻尾がピンと立ち上がった。
「涼しい! 涼しい風が出て来た!」
「えぇ、これも発展した技術。科学のおかげです。ですが、問題もあります」
「何? こんなに便利なのに問題が?」
「はい。お水をお湯にして出したり、涼しい風を出すのに、何も苦労しないのはおかしいと思いませんか?」
春海は異世界の出身である凛にも伝わるように言葉を選んで告げる。無償で便利な出来事が起こるはずがないという説明は、凛も理解できたらしく、真剣な表情でエアコンを見つめた。
「それは確かにそうだな。魔法であっても魔力を消費する。これも何かを使っているということか」
「そもそもお水を出すこと、お湯にすること、冷たい空気や暖かい空気を出すこと。これら全部にお金がかかります。例えば、このエアコンを一日中使うと二百円に届かないくらいの値段になるかと」
「む、これだけでか。じゃあ、お風呂やドライヤーを使えば、もっと金が必要になると?」
えぇ、と頷いて春海は部屋の遮光カーテンを閉めて、電気をつける。
「なっ!? 急に光が!?」
「夜も火を使うことなく、部屋を明るくすることができます。これを押すだけで。でも、やっぱりお金がかかります。夜遅くも作業をしたり、遊んだりすることができるんですけどね」
「そうか。こんな便利なものが魔力も無しにできると考えれば、金銭を払う必要があるのも理解はできる」
そう言って、凛は春海が押したボタンを何度も押して、電気がついたり消えたりするのを不思議そうに見つめた。
「ただ、あまり使い過ぎると環境にも悪いです。大気汚染とか色々問題になってます」
「じゃあ、使ったらいけないじゃないか!」
慌てて凛がスイッチをオフにして、カーテンを開け放つ。エアコンの電源も切り、絶対に使わないと言わんばかりにテーブルの隅っこに置いた。
「凛さん、落ち着いてください。あくまで使い過ぎたら、ですよ」
日本が電気消費量が多い国であることは、この際、黙っておくことにした春海。情報の開示は、急すぎたり多すぎたりしてもよくない。少しばかり失敗したと内心、反省をする。
「私たちの国では、できるだけそうならないように取り組みを続けています。大気を汚さないクリーンなエネルギーの確保や研究が常に進められていますから。それに、そんなことを言っていたら夜の街に出た瞬間に気絶しちゃいますよ?」
「む、何だ? まさか、どこもかしこも今みたいな光でずっと輝いているということか!?」
「……あながち間違いではないですね。その辺りも含めて、空人さんが説明してくれると思います」
これ以上の説明は、現時点では悪影響しかないだろうと判断し、春海は空人へとぶん投げた。果たして、そんなことで良いのだろうかと思わなくもないが、いずれ必要な情報でもあるし仕方がないと自分に言い聞かせる。
今、ここで凛に理解してもらわなければいけないことは「無駄遣いをしないこと」だ。いくら空人が金持ちで、この部屋を提供しているとはいえ、結婚後は一般家庭で生活することになる。光熱費を抑えておかなければ、大変な事態が待ち構えていることは明白だ。
(私も一人暮らし始めた時は、色々と大変だったなぁ。始めたばかりじゃなくて、半年くらい経った辺りから、『これくらい大丈夫でしょ』で大変なことに……)
己の実体験を思い出し、エアコンが着れているにも関わらず身震いする。一ヶ月遅れで通達される光熱費の支払いは、時に残酷な数字となって襲ってくるのだ。それをわかっていて、放置するなど春海にはできなかった。
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