お部屋にご案内!
僅か一時間足らずの散策だったのにも関わらず、凛のこちら側の世界への評価はおおむね好評かであった。
げっそりとした表情で座った空人に、春海は問いかける。
「まだ、この後も仕事があるんですよね?」
「あぁ、そうだ。とりあえずお相手になるであろう桟敷さんに連絡を取って、契約をするかどうかの確認をしなきゃいけない。それが済んだら、日程調整だ」
「その間、何かできることありますか?」
「じゃあ、部屋の使い方を凛さんに教えてやってくれるか? シャワーとかお風呂、トイレが使えないと困るだろうし」
空人の言葉に凛が反応する。
どうも春海が見た様子だと、お風呂に何やら興味があるらしい。
「シャワーは入ることができても、毎日お風呂にというのは難しかった。でも、こっちの世界なら毎日でも入れると聞いている」
「間違ってはいないですね。じゃあ、これが鍵になるので、無くさないように。部屋の使い方は彼女が教えてくれます」
そう言って空人は春海に鍵を渡す。足が三本の烏のキーホルダーがついており、裏にはしっかりと会社名が印字されていた。
「変なところでマメなんですね」
「一応、何かあったら困るからな。名前を書くのは基本だ。一応、内線で繋がるように電話の横に番号がある。困ったら、それでここに直接連絡してくれ。いちいち、階段を上り下りするのも大変だろうからな」
「はーい。了解でーす」
春海はしっかり清掃されているのか不安がりながらも、凛を連れて三階へと向かう。その後ろでは凛が、密かにテンションを上げており、お風呂の存在をいち早く確認したいようであった。
二人共、方向性は違うもののドキドキしながら部屋へと踏み入れる。
「へぇ、結構片付いてる。もう少し、埃っぽいとかあると思ったんだけど……」
部屋の中は、玄関を入ってすぐの通路がガスコンロ、流し、冷蔵庫とレンジが配置されていて、その反対側にお風呂とトイレにそれぞれ向かう扉がある。
通路を抜けると、十帖以上ある部屋が目に飛び込んで来た。ベッド、机と椅子も既に置かれており、扇風機とエアコンも使えるようになっている。
「……普通に一人暮らしするにはいい部屋じゃん。っていうか、私の住んでるところより上等だし」
春海は本気で、ここに住み込んで働くのもありなのではないかと思い始めていた。真剣に悩む彼女だったが、その背中を凛が人差し指で突いた。
「どうかしましたか?」
「お風呂は、どこ!?」
「あ、あぁ、じゃあ、使い方を説明しますね」
来た通路を戻って脱衣所の壁にある機械を示す。
何も知らない異世界人であっても、温度設定とスイッチ一つで適量までお湯張りができる親切設計だった。
「この上と下の矢印で温度を決めて、ここを押すと勝手にお風呂のお湯が溜まります。ただ、お風呂の栓をしないと、抜けてしまうので、先に中に入り必要があります」
「ふんふん」
鼻息荒く頷く凛を引き連れて、お風呂場へと侵入する。浴槽は凛くらいの体格ならば足を伸ばすことが十分できる広さがあり、換気扇だけでなく、暖房設備も備え付けられていた。
(……ここの部屋、住むなら家賃何万円かかるんだろう)
複数の部屋の所有に事務所の維持費だけで、月に相当な出費が予想される。もはや金持ちの道楽で始めた慈善事業なのではないかという疑いすらあった。
いや、そもそも空人は金なら余るほどある的な発言をしていたことを考えるに、その疑惑が事実の可能性すら考えられる。
「ち、因みに、これは?」
「あぁ、シャンプーとトリートメントですね? あっちの世界に石鹼はあります?」
「そこまで良い物でなければ使ったことはある」
「髪を洗う時に使いものです。こっちが泡立てて使う用。それでそのままだと髪の毛がガサガサになるので、こちらをつけて洗い流すと艶が出ます。で、こっちは体を洗うようですね」
春海が容器を一つずつ凛に見せながら説明をすると、彼女は興味深げにそれらを手に取った。
「こちらの人間はみな貴族のような艶のある髪をしているが、まさか、これを使えば?」
「はい。一日二日ですぐに、とはなりませんが、それでも初めて使うのならば、それだけで効果を実感できるくらいには優れ物だと思いますよ」
春海はそう言って凛の髪を見た。櫛を通して、綺麗にしているのが伺えるが、それでも少しばかり痛んでいるのが見て取れる。
「――――どうせなら、早速、使ってみますか?」
「ぜ、ぜひ!」
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