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こちらの世界に慣れましょう!

 道の端っこを凛は歩きながら、前後左右上下と様々な方向へと視線を巡らせる。

 聳え立つ建物も、通り過ぎていく乗り物も、着ている服さえも目新しい物ばかりで見ずにはいられないのだろう。


「――――凛さんの服。どこから調達したんですか?」

「上の階に衣裳部屋とか色々用意してあるんだ。流石にあっちの服のままだと違和感があるからな」


 凛は麻でできた地味めの色の服ではなく、動きやすいという理由で短パンに白Tシャツをチョイスしていた。引き締まった肢体からは、今にも猛スピードで走り出してしまいそうなイメージを抱く。


「話には聞いていたが、なかなか面妖なものばかり。これがカガクとやらが発展した世界か」

「えぇ、基本的に魔法を一切使わずに物を作ることに特化された世界だと思っていただければ結構です。あなたからすると、魔法のように見えることでも、そう言ったものは一切使われていませんので、その点に関してはご注意を」


 空人の言葉に驚きながらも、点滅し始めた信号を見て凛は目を輝かせる。


「とりあえず、今日は何をするんですか?」

「基本的な交通ルールと貨幣の利用についてだ。家を出て、物を買って、戻って来る。これができれば、こちらでも充分生活できるだろ?」


 毎回、異世界とこちらを移動するわけにもいかない、と空人は言う。

 実は世界観の移動にはそれなりのエネルギーを消費しているらしく、本来は、気軽に移動はできないらしい。


「最悪、こちらとあちらで全然違う時間軸に出現するということもある」

「じゃあ、行って戻ってきたら百年後とか?」

「そこまでのズレはないが、数ヶ月から数年レベルはあり得る。今では、時間軸のズレは対処法が確立されたおかげで何とかなっているが、できるだけ事故は避けたいからな」


 その為の衣裳部屋であり、その他の部屋にはマンションのように1LDKの部屋がいくつか用意されているのだとか。

 従業員が望めば、その内の一室に住むことも可能らしい。


「因みに、三食食べられるというのは?」

「その時々だな。俺が作る時もあれば、コンビニ飯の時もある。千円札だけおいてあって勝手に食べろとメモを置いたこともあったな」

「んー、詐欺っぽい!」

「何とでも言え、因みに昼は喫茶店で食えるぞ」


 むむ、と春海はそこで悩んだ。あの後、何度か喫茶店でお世話になったことがあるが、もっと値段が高くても良いのではないかという程、店長の料理は上手い。それが食べられるのならば、春海は朝と晩がカップ麺でも良いかもしれないと本気で考えた。


「さて、ここまで歩いてきましたが、青や赤に光っている物に気が付きましたね?」

「あれは説明されなくてもわかる。進んでいいか、止まるべきかを示したものだな?」

「そうです。青が点滅している時は、もうすぐ赤になるという合図です。気を付けないと鋼鉄の塊に吹き飛ばされることになります。身体強化を施していても、普通に死にますので注意してください」

「そ、そうか。わかった。流石にアレは虎や獅子の獣人でも敵わないだろうな」


 そんな凛の視線の先には、どこからか土砂を運んできたダンプカーがあった。


「さて、こちらの世界での買い物を経験してもらうために、ここまで歩いてもらいました。とりあえず、食べ物に困ったら、このタイプの看板の店を探してください。いくつか雑貨も置いてありますし、常に営業しています」

「何と、それは便利だな」


 空人が示したのはカラフルな色のコンビニの看板だった。外からも中が見えるので、凛が興味深げに中を覗き込む。傍から見ると奇妙に見えるが、彼女を気にする人はいない。大方、初めての日本のコンビニを体験する外国人程度に思われているのだろう。


「この国では硬貨だけでなく紙幣も使います。その点があちらの世界とは違いますね」

「こんな紙で大丈夫なのか? 簡単に偽造できそうだが?」


 空人が差し出したお金を見て、凛が訝しむ。

 そこで春海は紙幣の光っている部分に注目させて角度を変えさせた。


「数字や文字が変化した!?」

「こういう偽造できない技術がいっぱい使われてるんですよ。因みに、日本の偽造防止レベルは世界トップクラスです。一千万枚流通させて、偽札が三枚生み出されて紛れ込んでいるかどうか、ってくらい偽造しにくいそうですよ?」

「な、なるほど。私が気付かないだけで、他にもすごい技術が使われていそうだ」


 まじまじと野口英世の印刷された千円札と睨めっこを始める凛。それを空人は中断させて、いくらで異世界の貨幣とどれくらいの価値で釣り合うかを説明し、コンビニの中にある物と値段で理解しようと告げた。


「例えば、凛さんも知ってるおにぎり。これは約二百円弱です。ただ中に入っているおかずで、値段が変わります」

「ま、待て。中に梅干しや昆布は理解できる。鮭やすじこまで――――こんな海や川のない所で?」

「それは保存技術の進歩のおかげです。当然、鮮度は下がりますが、温度にさえ気を付ければ食べられますよ」

「そ、そうなのか」


 カルチャーショックを受けたようで、呆然とする凛だったが、すぐにその隣にあったおにぎりを指差す。


「ち、因みに、これは何だ? 和風マヨネーズ、とは?」

「ふふふ、凛さん。こういう時は、まず勝って、食べて見るのが一番です。楽しみだったんじゃないんですか? こちらの世界の未知の味ってものが」


 わざとらしい春海の煽りに、凛はごくりと喉を鳴らす。震える手で持っていたお札を肩の高さまで上げて、空人に問いかけた。


「これ、買ってみても、良いのか?」

「もちろんです。こちらに滞在するのに必要な最低限の費用は、俺が責任をもって支払うのでご安心ください」

「す、すまないっ!」


 そこからの凛の動きは早かった。主にカタカナが使われているおにぎりを一つずつ片っ端から掴み、胸に抱え込んでいく。そのあまりにも俊敏な姿に思わず春海が笑顔になっていると、同じような笑みを浮かべた空人が横に立っていた。


「楽しいだろう。こういう反応を見ると」

「えぇ、もっと凛さんの驚く反応を見てみたいですね」


 お互いに強く頷き合った二人であったが、この数分後にレジで四苦八苦して猫のような悲鳴を上げた凛に驚かされるとは、この時の二人はまだ知る由も無かった。

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