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魔王子様の人間界エンジョイ計画!  作者: もちごめ
3:まあのんびりしよや! な!
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66:たまには魔界でのんびりさせてや

※魔界の特有?の食事事情とかあります。グロい?かもです

 今日は休日だ。


 ミカエルとサイス達が聖界に帰って1週間になる。


 普段はレイ……人間として出勤しているアクシャも少し遅くまで寝た。時刻は午前9時。


 アクシャが起きてシャツとトランクスのまま階下に降りてみると、ダイニングテーブルに果物を雑に切って皿に盛った物が置いてあるのを見つけた。リンゴの断面が茶色だ。バナナやみかんも皮ごと切られている。


「何これ?」


 寝起きの顔……寝惚け眼というよりは据わった目が近いが、置かれた皿を見つめたアクシャにベルが気付いて駆けよった。


「おはようございます! 朝食ですよ、アクシャ様!! 私が、このベルが作ったんです!!」


 フス!と鼻息が聞こえてきそうな程には反り返っているが。


「動物園の餌やん」


 これがアクシャの正直な感想である。


「ええんっ酷い〜!! 頑張って切ったんですよ!?」


 ベルが褒めてと言わんばかりに抗議の声をあげるが、あんまり聞いてもらえなかった。


 寝起きとはいえ、アクシャの様子がいつもと少し違う。


 見ればベルは指を少し切ったらしい、下手に貼り付けられた絆創膏がチラホラある。


「……包丁危ないで、すぐ治らんのやったら触らんとき。手ぇ見せな」


 テンションの低いアクシャがスイとベルの傷付いた手を取り、指先でチョンとつついて軽く魔法を掛けた。ベルの切り傷が一瞬の内に治癒する。


「あ……ありがとうございますっ!」


 そんなベルに大した返事もせず、アクシャはテーブルに置かれた果物の皿を持ってキッチンに向かう。


「えっえっ、食べないんですか!?」


「僕、甘い物は好きやない。勿体無いから昼にでも食べな、傷むから冷蔵庫入れとくで」


 言いつつビーッとラップを掛けて冷蔵庫にパタンと仕舞ってしまった。


「むぅ……」


 せっかく切った果物なのに食べてはくれない! 納得いかない!


 そんな様子だが、そのベルの顔を見たアクシャが彼女を見上げて一言伝える。


「ちょっと魔界帰る」


 そして後頭部をボリボリと掻きながら黒いゲートを開け、シャツとトランクスのまま魔界へ消えた。


「うぇ? あっあ……」


 ベルはアクシャに見送りの言葉すら掛けられず、半端な声だけがリビングに消える。


 そのまま午前の暖かい光が差し込む部屋に佇んでいた。


 そこにエリクスが上から降りてくる。こちらも寝起きだ。


「んなぁーーー……あ? どしたんすか??」


 あくびをしながらベルに訊ねた。


「えと……アクシャ様、寝起きのまま魔界に……」


「まーただらしねー格好で行ったすね」


 呆れたエリクスがため息を吐きながら言う。あの王子は自分のテリトリーだと自分の見てくれを気にしないところがある。


「どうせ適当に遊んで夕方には帰ってくるっすよ」


「うう、そうですか……朝ごはんも食べずに……見てくださいよっ!! 私、せっかく頑張って切ったのに!!」


 エリクスのセリフを聞いて少し納得したベルが、先ほど冷蔵庫に仕舞われてしまったフルーツ盛りを出してくる。


 バナナやリンゴ、みかんが皮ごと雑に切られており、リンゴに至っては断面が完全に茶色だ。


「う、うお……よく王子にディスられなかったっすね……」


「どーぶつえんの餌って言ってました」


 ベルがよく分かっていない単語と共に口にするが、貶されているのは何となく分かった。その上でエリクスに伝えるが。


「そんなのディスってる内に入んねーっすよ、オレならもっと派手に言うっすね、残飯とか。王子にやり方聞いた方が良いっすよ、お疲れっす」


 更に悲しい感想を聞かされる。


「うえーん!!」


 ベルの叫びが明るいリビングに響き渡った。














「なんか怠い」


 アクシャが軽装に着替えている。赤いワイシャツに黒いズボン。怠そうな顔。


 彼に赤黒い液体が入ったグラスを渡す人物が居た。アクシャの妹、アコードだ。ワインレッドのワンピースが可愛らしい。


「珍しいですわね、叩いても死なないお兄様が」


「ゴキブリみたいに言うなや」


 妹からグラスを受け取って少し口付ける。


「……これ、何の血?」


 中身は血液だったようだ。唇を舐めてグラスを見る。


「捕虜の血液ですわ。お兄様が先日の戦闘で何人か連れてきたでしょう? それです。活きの良い魔族でしたわ」


「ふーん……」


「死ぬ程痛め付けてストレスを十分与えてから、殺してくれと懇願してきたのを300回ぐらい拒んだ上で血を抜き取りましたの」


「ふーん……」


 とんでもない鬼畜の所業を聞いても、何かのエッセンス程度にしか思わずにその血を啜る。


 弱い魔族が強い魔族にどうされようと、それ自体に哀れみはない。


 そう。これが魔界の……魔族の“普通”である。


 魔界では魔物以外に他の魔族を食べる事もちょいちょいあるため、同族だろうと食べる事に抵抗はない。一般的とは言い難いが、それほど驚かれる事でもない。恐らく、人間界のジビエに近いだろう。


 大抵、戦闘で負けた方を食べたりする。何ならサイスの一族である水妖族などは、戦闘中に相手を捕食する程だ。


 そしてアクシャは自分の強さと立場で、結構我儘に好きな物ばかり食べている方である。


「ふーん、悪うないな」


 それを聞いたアコードがニコリとしてから、不思議そうにアクシャに話し掛けた。


「具合を悪くされてるところに申し訳ないのですが、人間の血肉などはお口に合いませんの?」


 口の端に付いた血を舐めとり、妹に答えてやる。


「人間は僕らよりずっと弱いねんで? 魔物ですらないのにそんな可哀想な事したらあかんよ。そもそも、人間界は人間に危害を加えたらあかんて法律があるて教えたやん」


 口には出さなかったが、レイに変身している時に自分の血を舐めてみた事がある。あまり美味しくはなかった。


 レイは身体に魔力が巡っているが、魔族であるアクシャに戻る魔法以外は使えない。臓器も機能も完全に人間だ。ツノも無い。


 そんなレイの血が美味しくないのだ、人間は美味しくないのだろう。


 アコードが小首を傾げてアクシャのグラスに新しく血を注ぐ。赤紫色の艶やかな髪がサラサラと揺れた。


「怪我もいけないだなんて、人間の皆様は博愛主義なのかしら? それなのに、よくぞこれほど魔界にエネルギーが溢れ返ること」


「……色々要因はあるけどな」


 魔界には魔界の、魔族には魔族の善悪・ルールがある。それが決して人間と同じ価値観・倫理観だとは限らない。


 アコードは勿論、人間界のルールを聞けば普通の魔族なら呆れた顔をするだろう。


「もっとお話したい気持ちはありますけれど、お兄様に悪いですし……アタクシは研究に戻りますわ。ご自愛くださいまし! お薬が必要でしたらお申し付けくださいませね」


 アコードがワインレッドのスカートを翻し、コツコツとヒールを鳴らして歩く。


 曇天の見える部屋にアクシャだけが残された。


 少しゆっくりして、夕方までには人間界の自宅に行こう。エリクスやベルをそのままにしてきている。


 そう思いながらツノを出し、翼と尻尾をぐーっと伸ばす。


(怠い時はやっぱ魔界がええなあ〜……たまにゃこっちでゆっくりせんと身体に悪いしな!)


 この間魔界に帰ってきた時は、ベルを連れていたのでゆっくり出来なかった。


 人間界は好きだが、流石に魔界の生まれ故、やはり魔界じゃないと楽しめないものはある。何より綺麗な負の感情エネルギーも必要だ。


 楽しむと言えば……例えば、この妖血虫を5千度程の温度で炙ったもの。


 主に魔族の内臓に集団で寄生し、たっぷりと血を吸って親指程に育つ虫だ。宿主が死んだら亡骸を捨て、土で増えてまた寄生先を探す。


 戦闘で下級〜中級の魔族群からたまに見つかる虫だ。


 外はカリカリで絶命しているが、高温にも割と耐える虫なので中は血でモチモチしている。


 そのうちの1匹をポイと口に入れた。


「うわ……うま……」


 口の中に溢れ返る鉄の味にホッコリとする。


「えーめっちゃうまい……また捕虜で増やしといて欲しい……」


 人間界にも昆虫食はあるが、実は好きではない。ナマコやモズク、ホルモン、軟骨なども好きではない。


 人間界はせっかく豊かで他にも美味しい物がたくさんあるのに何故?という気持ちになり、食べることが出来ない。


 食べる物が無かった時期なども影響しているのだろうが、今?という思いでいっぱいになる。


 人間目線でグロテスクだと思われるような魔界の食べ物は大好きなのに、だ。


「エリクスにも持って帰ったろかな」


 そんな事を考えていた矢先だった。


 兵士が1人、慌てた様子でアクシャの所に駆け込んでくる。


「なんや」


「おくつろぎのところ申し訳ありません、あっあの……」


 息を切らし切らしだ。そしてようやく用件を口にする。


「は、破魔王様が……破魔王様がこちらに来られるとの事でして……」


 そこまで言って兵士がアクシャの顔色を伺う。この城の兵士は知っているのだ、どういう反応をされるのか。


「ええ……?」


 恐る恐る主である魔王子の顔を見ると、やっぱり物凄く嫌な顔をしていた。


「ごっつ迷惑……」



 

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