★番外編1-1 魔王子の若かりし頃
注意:微グロです。
——話は十二国殲滅戦争まで遡る——
「お前ら、楽しめ!! 殺せ!! 首、ツノ、命、全部もぎ取ってやれやぁぁぁぁ!!!! 豚共を皆殺しにしてやれぇぇぇぇ!!!! アーーーーーーーッッッハッハっハッハッハッハッハ!!!!」
空気をビリビリと震わせる声と共に薄紅の髪を揺らし、強いシアンの瞳で戦場を見下ろす小柄な男。
このアクシャの声で全軍が奮い立ち、魔族達は雄叫びと共に戦場を駆け始める。
アクシャがその様子をニヤニヤと見ながらフワリと宙に浮いた。
それをふよふよと追ってくる影がある。
「アクシャ様」
銀色の分厚い金属の皮膚に覆われた魔族。人のような形はしているが、見た目は完全に異形だ。中級の魔族である。
「おう、ゼディアか」
ゼディアと呼ばれた魔族は、アクシャに小さく耳打ちをした。
「晶魔王は塔ではなく地下に。その姫が別働で、この前線の後衛に付いているようです」
「ふぅん……どこに居っても僕からは逃げられへんけど……その娘か? えらい別嬪て話やったな。姫は生け捕り……出来れば綺麗なまま連れて帰る。王は切り刻んで、心臓だけ僕が貰う」
晶魔族。身体から魔石が析出する魔族だ。見た目通り、魔法が得意な魔族ではある。自然に産出する魔石よりは、彼らの身体で作る方が魔石の析出速度や純度が良い。
彼らの王の方針は、魔界に溢れたエネルギーを魔石に変えていくというものだった。
アクシャから言わせれば、今やってる事と何も変わりはない。それで魔界が改善されているのなら、そもそも魔界にエネルギーが溢れ返るなどという事態には陥らなかったはずなのだ。強いて言えば、晶魔族の数を増やすぐらいしか強化案はない。
(言うて石はあって損はないからなあー?)
上級魔族になればなるほど晶魔族の魔石の質は良くなる。魔王は生かしておけないが、姫ぐらいなら生け捕りで魔石の確保のために幽閉しても良いだろう。
「ほな行くで」
ゼディアを従えたアクシャが戦場を飛翔し、目的の場所……晶魔の姫の元へと向かった。
何の事はない、拍子抜けするほど弱かった。
魔法を撃たれる前にゼディアが斬り伏せる。中には硬く刃の通らぬ者も居たが、そういった者達はアクシャの拳やご都合魔法で砕かれて散った。
勿論、遠距離から撃たれた魔法は、当たればゼディアでも助からないだろう。しかしアクシャの力で捻じ曲げられ、魔法は何の効力も発揮せずに消えていく。
何の脅威も感じないまま、標的……晶魔姫の元へ辿り着いた。
「まっ、お待ちください!!」
アクシャのご都合魔法で動けなくなった晶魔姫が交渉を持ち掛けようと声を上げる。
周囲に居た取り巻きも殆ど殺され、残った者達もゼディアが片付けていた。
輝く長い銀髪、白い肌、所々に析出した澄んだ宝石。妖精のように愛らしい顔の額からは、虹色に輝くツノが1本生えている。噂通りの美しい姫だ。
「何? 今やないとあかんの?」
そんな彼女の美しさすら興味なさそうなアクシャが、更に興味無さそうに一応は聞く。
「わっ、私と婚姻を結びませんか!? そうなればきっと二人で魔界を支配出来ます! 私、あなたの……アクシャ様の支えになります!! 役に立ちます!!」
それを聞くアクシャの顔も美しく、晶魔姫も(身長は置いといて、この顔の男なら)と思ったのだ。
しかし、アクシャの返答は彼女を絶望させた。
「……最初から役に立って貰うつもりやけど? 別に結婚なんかせんでも出来る事やない? 僕は魔界の支配が目的やないし、眠たい事言うなや。おい、連れて行け」
そう言って捕らえている魔法を強めた、その時。
アクシャの背を、大きな黒い魔石のトゲが貫いた。
「アクシャ様!!!!」
ゼディアの叫び声が響く。
「んっ……ゴホッ……!」
胸から生えた魔石を見ながら、血を吐いた。
貫かれた衝撃で魔法をコントロール出来なくなったアクシャが、晶魔姫の肩を砕いてしまう。
「ぎゃぁぁぁ!!!!」
姫の悲鳴をヨソに、アクシャが自身を貫いた獲物の持ち主を探す。ゼディアが斬り結んでいた魔族……晶魔姫の取り巻きの女騎士が放った物のようだった。
「ふ……ふふ……!! 貴様さえ死ねば……!!」
女騎士が不敵に笑う。この女の顔半分は黒く硬い岩に覆われており、そこに幾つかの宝石が光っていた。その下に薄い灰色の肌がのぞいている。緑の魔石で出来たツノが印象的だ。
しかし、その女騎士の敵意に満ちた笑みを受けても、アクシャはむしろ嬉しそうに笑っただけだった。
「アハ……アッハッハ!! コレ、君がやったん!? フフ、フフフフ……初めて、初めてやわぁ……君、中級やろ?? クク……」
笑いつつ、自身の胸から突き出た魔石を引き抜く。肉を裂き、骨を砕きながら身体を通って引き抜かれたそれは、血塗れのまま地面に放り捨てられた。
「凄いな……不意打ちとはいえ、よう出来たなあ〜? 凄い凄い!」
ニコニコと笑うアクシャの身体に空いた大きな穴。それが徐々に塞がっていく。
それを見た女騎士は絶望した。渾身の一撃だったのに。
「な……」
「僕……僕、君の事気に入ったなぁ……姫以外は殺しても良かったけど、方針変えるわぁ……」
アクシャがそう言いながら晶魔姫に掛けていた魔法を解く。その途端、姫の身体は黒い土の上に転がった。
「君は連れて帰る……」
今度は女騎士の方に魔法を掛けて動きを封じ、その女の首をゼディアが後ろから殴る。
「ぐ……クソ……おの……れ……」
魔族の女の意識が遠のいた。




