63:風呂は毎日入ろうな!
「おなかいっぱいですぅ〜!」
「ミカエル、生のお魚は初めてでビックリでしたけど美味しかったです!」
ベルがミカエルと仲良くお腹を撫でている。
サービスエリアで海鮮丼を食べた一行は、食べた余韻を感じながらまったりとしていた。
サイスはというと、アクシャと共にお土産物を眺めている。
更にそれをエリクスが眺めていた。
(割と仲良いっすね、王子とサイス……)
「何か買って帰ったら?」
「私は人間の金銭など持ち合わせていない」
「そんぐらい僕が出すわ」
どうやら聖界に持ち帰る土産物の話をしているらしい。
アクシャが支払うと言ったが、サイスは首を横に振っていた。
「……それでも、だ。ここに来ている事はミカエルの周辺は知っている。下手に何かを買って聖界に持ち込んだら後が面倒だ。我も我もと頭の悪い聖族共が騒ぎ出すだろう」
そう言って首を縦には振らなかった。
「ふーん……まあ、そう思うならそんでええけど」
「魔界や人間界と比較すると貧しい地域の方が遥かに多いんだ、変に目を付けられるとミカエルの活動に差し支えるからな」
サイスがベルやエリクスと仲良く話しているミカエルに目をやる。
遊園地のメリーゴーランドを見て泣いてしまったのが嘘のような笑顔だ。
子ども故、気分を変えるのが早いのか、それとも賢いが故に無理に切り替えたのかは分からない。
アクシャの自宅に帰ったらその事についても話をしなければ。
「ほな僕らも何か買うのは止めておこうかな。ミカエルの思い出に、とか思ったけど……ほんまにええか?」
「ああ、それなら貴様の髪の毛でもくれてやれ。喜ぶだろう」
「人間界の思い出に魔族の髪の毛かよ、気色悪いやん」
「冗談だよ」
珍しい事を口にしながら2人がミカエル達の方へと歩いていく。
「ほな皆、車乗るでー? トイレ大丈夫かー?」
『はーい!』
談笑していた3人が声を揃えて返事をした。
ようやくアクシャの自宅に辿り着く。
荷物を下ろし、家の中に入ったところでエリクスが風呂の湯を溜め始めた。
ベルがせっせとミカエルと自分のパジャマを準備している。
ミカエルはもう疲れたらしく、サイスに抱き抱えられていたが、家の中でそっと降ろされる。
「今、風呂の用意しよるから……せやな、ベルとミカエルが最初に入って、次にサイスかエリクス、僕は最後でええよ」
アクシャが自分とサイスのパジャマを用意しながら声を掛ける。
サイスの身長が高いため、彼には黒いLサイズのスウェットが用意されていた。
「……お風呂、入っても良いんですか?」
ミカエルが不思議そうに話す。
水も貴重な聖界では、毎日入浴するという習慣はない。
サイスが毎日身体を洗っているようだが、それも水の使用量は多くはなく、桶2杯を使えば十分なようだ。
なのでサイスも風呂という言葉には少し興味を示していた。
「ええよっていうか、人間界も広いから色んな風習あるけど、この人間の国は基本的に毎日入浴するで。むしろ入って」
言いながらタオルを数枚出し、ベルに渡した。
そこにエリクスが口を挟む。
「オレは風呂、嫌いなんすけどね。王子がうるさいから」
エリクスは魔猫族……つまり猫っぽいところがちょいちょいあるため、身体が濡れる風呂はあまり好きではないのだ。
「サイスは水妖だし、風呂好きなんじゃないっすか?」
問われたサイスが肯定した。
「ああ……その通りだ。汚れが付着したままだと気分が良くない」
「ほんま、それな」
アクシャも便乗して頷いている。そこにベルが疑問を挟んだ。
「魔族の皆さんってお風呂好きなんですか?」
エリクスは置いといて、意外にも魔族は綺麗好きなのかもしれない……そう思ってそこの魔族達に質問する。
その疑問にはサイスが答えた。
「いいや? 魔界に身体を洗えるような水など殆ど無い。濡れると崩れる身体の種族すら居るのだ。魔界も入浴は一般的ではないよ」
そしてアクシャの方を見て更に続ける。
「アクシャやエリクスのような人型を取る魔族の一部が入浴する程度じゃないか? そういえば貴様、入浴の習慣は人間界で覚えたのか?」
サイスがアクシャに質問すると、彼は首を横に振った。
「違うよ。僕、おかんが淫魔やからさ、毎日風呂入る習慣が元々あってん」
事もな気にアクシャが答える。それにはサイスもベルも驚いた様子だった。
『淫魔!?』
2人でアクシャの出自を大声で反芻する。
「あれ、言ってなかったっけ? 忘れたけど。僕、淫魔と破魔のハーフやで? 淫魔ってやっぱさ……」
ここまでアクシャが続けたところでサイスがミカエルの両耳をガバっと塞いだ。保護者のナイスプレーである。
当のミカエルは疲れと混乱で何も分かっていない顔をしているが。
「淫魔やから相手に身体全部見せるし触らせる事になるやん。汚れた身体で挑むのって恥なんよね……夢見せる訳やしさ、汚かったら冷めるやろ」
そんな事を聞いている内に風呂が沸いた音がした。
「破魔の血もあるから淫魔らしい事はあんまり出来んけど、風呂は毎日入るよ、アッハッハ!」
カラッとした顔で笑うアクシャに、サイスがはたと気付いた顔をした。何か思い当たる節があったようだ。
それと同時にミカエルの両耳が開放される。
「……そういえば、破魔の王は一族を途絶えさせたとか何とかを聞いたことがあるな」
魔界を支配していた13人の魔王の内の1人、アクシャの父でもある破魔の王。
破魔は凶暴な性格で、血で血を洗うような戦闘を好む。荒々しく全てを破壊する一族。それが破魔族だ。
アクシャが破魔の子であるにも関わらず、荒々しい性格ではないのは淫魔の血が半分入っているお陰なのかもしれない。
しかし魔王はそれぞれ皆純血であったため、別種の女を娶り子まで作った破魔王は、他の王達から陰で揶揄されていたのだ。その陰口も長い年月を生きる魔族の耳にはいずれ届く。勿論……。
「うん、知っとるよ。未だに親戚から言われとる……雑魚やからどうでもええけどな。ま、他の魔王にしても、そんな混血の僕に殆ど殺されたんやから、さぞかし嬉しかったやろうねえ〜」
そういってニヤニヤとサイスを見ながら言うアクシャに、サイスは少し顔をしかめた。
「私は父を尊敬していたが、貴様に負けて死んだのは事実だ。貴様の母の事は詳しく知らなかったが、混血と蔑んだ相手に正面から殺された、その皮肉は子である私が受け取る事で止めておく。事実だけ見れば面白いしな」
少し口元を笑みの形にしたサイスがミカエルの背を押してベルの方へとやる。
ミカエルは何も言わずにトコトコとベルの手を握った。
ベルは(難しい話ですかね?)と思っているが、ミカエルは幼くとも“ミカエル”になった聖族であるだけあって内容は何となく分かっている。口を挟まず、大人しくサイスに従う。
「なーんや、もうちょっと怒ってグダグダ言うかと思って期待したのに。おもんないなぁ〜! ほら、ベルもミカエルも風呂入ってき、湯冷めるで!」
アクシャがカラカラと笑いながら言うのを見ながらベルとミカエルは風呂場へと向かった。




