58:着いたで! 遊園地!
「大人4人、子ども1人で〜、これ予約出来とるよね?」
アクシャが入園の受付を行っている横ではミカエルがもうキラキラの瞳で園内を見ている。
さらにその横ではベルもキラキラした瞳になっていた。
「ここが遊園地なんですね……!?」
それはそうだ、ミカエルは勿論、ベルも人間界のものは殆ど未体験だ。
「ミカエル、人間界に関する文献で娯楽施設がある、というのは見たことがあるんですが、実際に来るのは初めてです! アクシャ様はどれぐらい来た事があるんですか!?」
ミカエルが入園受付を済ませたアクシャに話しかける。
「んー、せやなぁ、何回かはちょっと覚えてないな……」
「誰と来たんですか? エリクス様ですか?」
更に質問を重ねるミカエルだが、アクシャからは衝撃的な発言を聞かれされる羽目になるとは思っていなかった。
「元カノ……人間の女性やね。付き合ってたから」
コレにはミカエルもベルも、更にはサイスも衝撃を受けていた。
「き、貴様、にん……人間と!?」
「何かあかんの? ほら、ボーッとせんと園内入るで? 後ろの人に迷惑や」
そう言いながら気にした様子もなく園内に入っていくアクシャ。それを残りの4人が追った。そこにミカエルをいつの間にか抱えたサイスがアクシャに詰め寄る。
「貴様、魔族としての誇りとかそういうのは無いのか!?」
「聖族食べた人に言われたかないよ、自分の足元見てから言えや」
エルヴィエルだった時からそうだが、自分のことを棚に上げるのは今もあるらしい。
「うるさい、人間と……その……」
そこまで言って口篭った。流石にその先をここでどう表現したら良いのかは分からない。ミカエルを抱き抱えているので余計にだ。
そしてそれを察したアクシャが耳打ちをした。
「あんま変わらへんよ? 向こうの方が僕らより積極的かな。結構そん時は面白かったかも」
アクシャの言葉を聞いたサイスが微妙な顔をする。人間の事を見下しているから余計にそうなる。確かに、見かけだけなら魔族や聖族に近い部分はあるかも知れないが、やはり人間が相手となると気持ち悪さが勝つ。
とはいえ、元々不定形のサイスだ。その真の姿を見れば人間こそ恐怖し、遠慮するだろう。
なお、ミカエルはサイスに抱き抱えられながら少しショックを受けていた。
「お付き合い……」
「今はフリーですよ? 彼女は居ません」
アクシャがそう言って両手をヒラヒラさせ、笑って見せた。サイスが庇うように、ミカエルを少しアクシャの反対側に抱き直す。
「良かったぁ!」
一方のミカエルは、今は彼女が居ないと聞いてホッとした様子だった。
「サイス、降りたいのです! 自分で見てまわります!」
そう言ってミカエルがサイスの肩をポコポコと叩く。こうして見ていると、似ていないのにやはり親子に見えてくる。
「降りても良いが、私の手は放すな」
「ええー……」
「嫌なら降ろさん」
ほっぺたを膨らませながら渋々サイスに従う。アクシャ
はそれを見ながら、エリクスやベルにも遊園地内のアトラクションについて話し出した。
「はい、皆見てー。皆にこのパンフレット1枚ずつ渡しますー。今ココ。今日は日帰りやから、金払った分はキッチリ今日中に楽しんで帰ろうと思います。最短で回れるルートはこれ。別にコレ通りに行かんくても良いし、苦手なアトラクションは止めて貰ってええけど、単独行動は避けてな、めんどくさいから」
そして自分のパンフレットにご都合魔法で取り出したマーカーで最短ルートをマーキングする。ついでに昼食を取る予定のレストランにも丸を入れた。アクシャが手をパン、と叩くとご都合魔法でそれが全員のパンフレットに反映される。
「特にミカエル様、サイスは必ず僕ら3人の誰かと行動してください。一旦集合時間は11時。レストランで昼食にします。解散」
『はーい!』
エリクス、ベル、ミカエルが揃って返事をする。
「ミカエル、アクシャ様と一緒がいいです!」
ミカエルが両手を挙げてぴょんぴょんと飛び跳ねている。そうなると自然とサイスもついてくるのだろう。
と思いきや。
「サイスはダメです!」
まさかのミカエルからのお断りがあった。ミカエルはアクシャと2人きりが良いらしい。そうなった時、もはやお目付け役か保護者のようになってしまったサイスが側に居たのでは楽しめるものも楽しめない。ミカエルの人選ミスだ。
「なっ! ミカエル、お前、私に仕事しろと言っておきながら!」
いつぞや聖族26人分の仕事をしろと今のポジションを与えられた筈だが、急にコレである。人間界についてきた意味がない。
「護衛にもおやすみは必要なのです! 聖界でおやすみ取りにくい分、ここでおやすみ取って良いですよ」
一端の上司ムーブをかましてくるミカエルに、サイスの顔が明らかに怒りに歪んだ。
「お前……」
「あーもうめんどくさい、うるさいねんホンマ。サイスはエリクスと行けや、面倒ぐらい見るわアホ。サイスも人間の娯楽見て勉強して来い」
そう言ってエリクスを呼び、余分の金銭を追加で渡した。すると、その横でサイスが小さな声でアクシャに話し掛ける。
「障壁は張れるんだろう?」
「……なるほどな〜、任しとき」
サイスが付きっきりになっていた理由の1つが何となく分かる。
答えて側に居たミカエルの肩をぽん、と優しく叩く。これで障壁は問題ない。
「ほな!」
アクシャが手を振ってエリクス達3人と別れる。サイスは未だ難しい顔でこちらを見ていた。
「……アクシャ様、ミカエルはサイスの心配ぐらい分かりますよ」
「そうやねえ、何も無くなったから一生懸命なんやと思うよ。僕らはそういう生き物やからね」
「……そうなんですね」
強者に従い、従えない者は戦って証明しなければならない。生まれでほぼ強さが決まり、下級魔族が上級魔族に勝つ事はまずあり得ない。
だからこそ、魔界の“まずは話し合う事”というルールが上級・下級など問わず存在する。
サイスもアクシャもどちらも上級魔族だが、勿論話し合った上での戦闘だ。サイスに関しては2度目の対話もあった上で敗北している。
これ以上の希望も何も無いところに縋る先は、上位に立つ者からの命令だ。
死ぬよりも惨めと考える魔族すらいる処遇に、サイスは真面目に向き合って従おうとしている。
ミカエルに従う、それはアクシャからの命令に等しい。所有物としての譲渡とは、魔界流の解釈だとそうなる。
アクシャですら、もしも負けて生き残ったなら自身を敗者にした勝者に従うだろう。
その時こそ、アクシャの願いの1つが成就される。
「サイスの事、大事にしてやってな。茎も葉も腐っとるけど、根だけは無事っぽいし」
「うふふ、ミカエル、その話し方のアクシャ様も好きです!」
先に自身の願いに辿り着いた者も、それまでは引き連れて責任を持たなければならない。
「おおきにな〜」
普段より目立たせた関西弁で返事をした。これで楽になる。




