51:文句には戦うで。でもまずはミカエルやな
「ええー……オレ知らねっすよ?」
「何ですか?」
エリクスが綺麗めなレターセットを出しながら言うと、ベルが不思議そうに聞いてきた。
相変わらず彼女はアクシャが調理している様子を見るために台所にいる。
「ミカエルを連れて素敵な所に行くらしいっす。どこすかそれ」
アクシャが鍋の火を止めて話す。
「ええ所や。ミカエルも幼女は幼女。うってつけの場所があんねん。人間界で子どもが楽しいと思う場所。ただ、相手の日程の候補も確認せなあかんけど……」
そして鍋に割ったルーを入れた。ジャガイモを崩さないように気をつけながらゆっくりと溶かす。
「そん時はエリクス。お前も休めよ、バイト」
「ええー? シフトどうのこうのって文句言われるっすよぉ……」
嫌そうにペンを走らせるエリクスが答えるが……。
「文句言われたら僕に言え。僕が文句言うたヤツに話つけたらぁ」
とニコニコしながら言うアクシャからは、むしろそうなってくれ!という雰囲気しか感じない。
「ひぃ……ウチの店長がまた泣かされるっす」
どうももうやった事があるようだ。
エリクスは少し離れた場所のコンビニで働いている。基本的には日中、たまに夕方〜夜まで。
一応アクシャの弟、年齢は18歳としている。エリクスの人間としての名前は“射小路リク”だ。エ“リク”スという事らしい。学校は「通信制っす〜」と答えているようだ。
そんなエリクスのバイト先の店長だが、一度アクシャにコテンパンにされている。
魔界に帰るという日に『シフトの穴が出来たから入れ、他に出る人が居ない』と言われたため、魔力の少なくなったエリクスが困ったのだ。
魔族にとって魔力の枯渇は重大な問題である。
とはいえ、エリクスも元魔王子、上級魔族として溜め込める魔力量も申し分ないのだが、流石に疲れを感じたりはするのだ。
困ったエリクスを見たアクシャの取った行動が、コンビニへのカチコミである。
それがまた相手に反撃の隙を与えないものだった。
戦う時は相手の話を聞いてから、と言っていたが、人間相手はまた違うらしい。命のやり取りではないからかも知れない。
『シフトに穴が出来た? どうしてもウチの弟が入らなあかん? それはどこまでのレベルで入らなあかんのかな? いつも働かせて貰っといて悪いけど、ウチも前から予定してた家族の用があって、今から向かわなあかんねん。ちょっともう出んかったらヤバいんやけど、そちらがどうしても僕の弟にって声掛けるから弟も困ってて僕に相談してくれてん。流石に困っとったら時間使ってでもどうにかしたらなあかんよね? そんで? あんま長い事話聞いたれへんのやけど、それはどのぐらいのレベルでお宅の業務に差し支えが出るん? ん? 答えへんの? 急いでる言うたやん、そもそも時間って使ったら帰ってこんって知っとる? 僕そちらさんが返事してくれへん事でどれだけ時間無駄にしとると思っとるんかな? 時間返せるの? あとどれだけ待ったら答え出るかな??』
と笑顔で話しのだ。
店長は面倒な奴が出た思ったのだろう。
『い、いえ、私が仕事しますので……』と答え、アクシャに『ほな最初からそうしたら良かったんやない? 弟も僕も休みやからって暇しとる訳やないんやわ。自分店長やろ? 店長やったら自分の店のケツぐらい自分で拭きなはれ、穴が出来て困るんは良う分かるけどな? ほな弟に“他に居らん”は嘘やったんやね? お宅出れるんやろ? 今言うたやん出ますて。僕その嘘に時間使った訳? どうやったら返してもらえるんかな? 僕の時間。弟はお宅の店員かも知れんけど、兄の僕はお宅の部下でも何でもないんやわ、なあ』と小1時間これで攻め込み、白旗を挙げさせた。
店長は涙目だったと言う。
きっと文字にしても目が回るだろうが、耳にした店長も脳内がグルグルした事だろう。
それからはエリクスへの穴埋め打診にも『できるなら』と枕詞が付いており、最後には『お兄さんにもよろしくお願いします』と丁寧に書かれるようになったのだ。
未だにレイが買い物に行って店長と鉢合わせると、オドオドするらしい。
とはいえ、こちらからシフトに出れないと言うのはまた別で、嫌な顔1つされても仕方ないかも知れないのだが……それもアクシャが出向くというのなら、どうしていても勝利を収めてくるのだろう。
「まあ……いいすけど」
そんな過去の話を踏まえてエリクスが答えた。ペンを走らせて手紙を書き終える。
「で、それってどこに行くんですか?」
ベルもアクシャに尋ねた。カレーがトロトロと米に掛かる様子をキラキラとした目で見つめてはいるが。
「ああ、ベルも初めて行くんちゃう? それは当日のお楽しみやな。出来れば前日までにはミカエルの服も買っとかなあかんよな。聖界が用意しとるとは思わんし……」
カレーの横に真っ赤な福神漬けを添えながらアクシャが口に出す。色々準備が必要な場所のようだ。
「どうせ行くんやったら泊まり掛けで行きたいしなー」
「で、どこなんです??」
答えが待ちきれなくなったベルがアクシャをせかす。正直カレーも待ちきれない。これまでに嗅いだ事のない食欲をそそる香りのソレを早く口に運びたい。
「ふふん、しゃーないなー、教えたろか〜??」
そして得意気な顔でアクシャがカレーを盆に乗せて言った。
「皆で遊園地行くで!!!!」




