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魔王子様の人間界エンジョイ計画!  作者: もちごめ
3:まあのんびりしよや! な!
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48:ラーメンと戦うと幸せになるらしいで

 罪深き食べ物。


 それが深夜のラーメンだ。


「まあ僕ら魔族やからガンガン罪重ねるけどな」


「人間界での悪行たまらんすね!」


 そう言って湯を沸かすエリクスの横で味付け卵を切り分けているアクシャからは、悪人というか魔族感すらない。悪者アクシャという名前は何だったのかと思わざるを得ない様子だ。


「つっ、罪なのですか……!? 悪行なのですか……!?」


 ベルはそれを見ながら怖々とした表情だ。両手で頬を擦っている。


「食いもんに釣られて聖界帰らへんとか言い出した癖に」


 アクシャが手際良くネギを刻みながらベルにツッコんだ。


「王子、湯沸いたっす」


「麺入れといて」


 アクシャがラーメン丼ぶりを3つ用意し、ベルに小袋を3つ渡した。


「ベルはこれ開けてそれぞれの丼に入れといて」


 ラーメンスープの素だ。因みに味は鶏ガラ醤油。


 最近はラーメンも麺だけでなくスープのみで販売されており、誰でも簡単に好きな味のラーメンを楽しめるようになっている。


 そのスープの素が入った小袋を受け取ったベルが「はい!」と返事をした。


 エリクスはダイニングテーブルに3人分のコップと箸を用意し、茶を注いでいる。


 アクシャは鍋に向かい、箸で麺をほぐした。


 ストレート麺の若干硬め、その辺が好みのアクシャが慎重に茹で加減を確認しながら鍋を見ている時だ。


「ぴゃ!」


 ベルの悲鳴が聞こえてきた。


「何……?」


 アクシャがベルを見る。スープの素の開封に勢い余って弾け飛んだのだろう、ベルの顔や手にスープが飛んでベチャリと貼り付いていた。


「きったな、そんな必死にならんでもラーメン逃げへんて……どんだけ食いたいねん」


「ちっ、違いますっ!! だってだって!! “こちら側のどこからでも切れます”って書いてあるのに!!」


 ベルが必死に自分を擁護する。


 だが確かに。そう書いておきながら全く切れない小袋はある。餃子などの食品と一緒にそのまま入っているせいで、ヌルついて開封出来ないものなどは特にアクシャがイラつくものだ。


 気持ちは分かる。


 しかしそれも頭を使う以前の問題だ。何せこれはヌルついていない。


「あんなあ、そんなん何でも信用したらあかんて、これも人間界の悪や。分かったか?」


「こっ、これが……!!」


 顔に付いたラーメンスープの素を拭き拭き、ベルが恐れ慄いている。


「こんな悪い奴、こうしたらええねん」


チョキン。


 アクシャがキッチンバサミで小袋に小さな切り込みを加えた。


「わっ、わああああ!!」


 感動するベル。


 無表情で麺を湯でるアクシャ。


 ダイニングテーブルからそれを無言で眺めるエリクス。


 かくして、ベルはまた一つ、人間界の悪を倒す方法を見つけたのだった。


 アクシャがスープの入った丼に湯を注ぎ、そこに麺をそっと横たわらせる。


「わぁぁぁ……!!」


(犬が餌待っとるんみたいや……)


 目を輝かせながらラーメンが出来ていく様子を見るベル。


 アクシャはそれを視界の端に捉えながら、半分に切った味付け卵、メンマ、ネギを手際良く乗せた。


「まだや、もっと悪い事したるからな」


 そして冷蔵庫から一つのタッパーを出し、その蓋を開ける。中には脂がトロトロになるまで煮込まれた豚バラチャーシューが入っていた。


「そんでな、コレを乗せるねん……イーッヒッヒッヒ!」


 アクシャが悪そうな笑い声と共に、脂を崩さないようそっと丁寧にチャーシューを飾る。


(めちゃくちゃ悪い顔しながら夜中にラーメン作って笑ってる三十路の王子様がいるっす)


 それがエリクスの正直な感想だった。


「よっしゃ出来たで」


 盆にラーメンを乗せたアクシャが笑顔で夜食の完成を告げた。







「あち、はぷ、はちっ」


 これはベルの声だ。


 麺がすすれず、難儀している。


「下手くそやな……」


 ベルにとっては初めての麺類だ。それも熱々のラーメンをすするとなると、かなりの困難を極める。そもそも箸だって上手く使えていないのだ。


「空気と一緒に吸い込むっすよ」


 そう言ってエリクスがやって見せるが、見せたところで急に真似できるものでもない。


 見かねたアクシャがキッチンへ行き、何かを持ってやってきた。


「ほら、あれや。1回レンゲに麺乗せろ、な? そんで食え。無理にすすらんでええよ」


 アクシャがベルにレンゲを差し出す。


「ふぁ、はりがどうございばす……」


 口に熱々の麺を含もうとしながら答えたため情けない返事になったが、これでレンゲがあればマシに食せるだろう。


「はよ食わな麺伸びるしな、汚なくなかったらどう食ってもええやろ」


 麺をレンゲに乗せ、口に運ぶ。そして今度は少しスープも少し掬って、ゆっくり飲む。


「……美味しいですうっ! 何ですか、これ!」


「お……おん……何ですかて、ラーメンやけど……」


 初めてのラーメンに感動しているベルに若干引き気味になりながら返事するアクシャ。


 ベルが感動するのも無理もない。人間達にすらファンの多い食べ物だ。3食全てをラーメンにする不健康な人間や、休みの度に美味いラーメン屋を探して回る人間だって存在する。


 質素な食べ物ばかりで生きてきたベルにラーメンは衝撃的だった。


「まあなんか……美味いなら良かったわ……」


「ふぁい! 美味しいです、 美味しい〜!」


 幸せいっぱい! そんな顔でラーメンを必死に食べる姿のベル。


「肉んみゃっす」


 提案通りにラーメンを食べる事が出来たエリクス。トロトロのチャーシューを頬張ってこちらも幸せそうだ。


「王子、次は豚骨醤油がいっす!」


「他にも味があるんですか!? アクシャ様、食べたいんですが!」


 食べ物で幸せになっている魔族と聖族。変な感じはするが……。


「はいはい、また今度なー」


 アクシャが適当に返事をしながらハイボールの缶をカシュ!と開ける。


「んんー! 酒うんまあー!!」


 そして、(まあええか〜)と思いながら、魔界の王子は今日も酒で幸せになるのだった。


 

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