47:ほなもう家帰るで〜?
紫の瞳とアクシャのツノから作られたペンダント以外は全て白いその少女が、パタパタと小走りでアクシャに走り寄る。
「魔王子であるアクシャ様の訪問や、サイスの事に関してはどうあっても隠す事はできません。ですがバルディエルと、その輪はサイスと戦った末のロストとして扱います。構いませんね、サイス?」
つまり、サイスと同じく聖界ではもう居ない者として扱われる、そういう事だ。これでベルにはもう聖界には帰れないのだろう。
聖族抹消の罪を更に着せられるが、サイスは無言で目を閉じた。
もうどうにでもしてくれ、という態度だ。
「また、アクシャ様個人の所有物としてサイスを賜ることで、魔界側に敵意はなく、謝罪を兼ねたミカエルとの交友の一環、それでおしまい、という事で報告しています。ただ、今後の情報のやり取りに関しては……私の知らない協議があった以上、聖界で行うのは危険が伴います。故に……問題の払拭が出来るまでは……その」
ミカエルが少し俯いてモジモジとしている。その後をアクシャが続けた。
「人間界でやりとりを? 人間界の調査の目的で?」
「……はい! 問題が払拭出来れば、その……バルディエル……いえ、ベル様を改めて魔界側の使節としてお迎えさせて頂ければと」
少女はパッとした笑顔になってアクシャを見た。大きな紫色の瞳がキラキラとしている。嘆いていた先程と打って変わって希望に満ちた表情だ。
「その、それで……私もいつか……いつか人間界に行ければと思います! アクシャ様に会いに行きます!」
こちらが彼女の本心だ。
穢れていると思っている人間界も、憧れの王子様が居るなら何でもない。何ならその王子様は、2人きりで話している時に人間界を満喫している、とても楽しい所だと教えてくれたのだ。
「……お待ちしていますよ、ミカエル様」
アクシャが作った笑顔でミカエルに返事をした。
「はい!」
これで一旦解決だろう。
「それと、ベル様にこれを」
そう言ってミカエルが兵士に何かを持ってこさせた。
白く小さな瓶だ。
「こ、これは……!!」
受け取ったベルがとても驚きながらそれを見る。
「聖力瓶……!!」
なるほど、魔界でもアコードがエリクスの為にと負の感情エネルギーが溶け込んだ薬を渡していた。
これはその聖界版と言うべきか。
「はい、あなたの今後がとても素敵なものになるよう、その瓶には幸せのエネルギーが詰まっています!」
(食いもんで幸せいっぱいになるし、ピッタリやん)
感動するベルの横でアクシャがそう思っていると、横からエリクスが質問する
「あれっ、でも聖界ってエネルギーがどう使われたのかとかは分かるんじゃないんすか?」
だがその質問はまさかのベルが答えた。
「そうなんですけど、人間界だと分からないんです。ヴェルディエルとなった時に教えられました。感知できないから何かあっても探せないぞ、と。……はっ、これも嘘ですか!? サイス!?」
そういえば!という顔でサイスを見るが、サイスは首を横に振った。
「ふん、それは本当だ。でなければロスト扱いのお前になど渡されるもんか」
いつの間にか縛られているサイスがエルヴィエルの顔のままで言う。だがその表情は魔族らしくふてぶてしいものだ。
「圏外的な感じすかね」
顎に手を当てて納得した様子を見せたエリクスがうんうんと頷いている。
「とにかく、それは本当です。ですが、聖界の者が人間界で輪を探す目的で探知魔法を使うと輪が反応しますので注意してくださいね」
ミカエルが補足してくれた。
それについてはアクシャが対策していたから大丈夫だろう。少なくとも、アクシャの自宅にあるなら大丈夫だ。
実際、サイスもエルヴィエルとしてベルを捜索していた際に輪の反応を頼りにしていたが、それはアクシャの力で遮られている。
「ありがとうございます、ミカエル様!」
ベルが小さなミカエルに頭を下げる。するとミカエルも可愛らしく衣の裾を広げて挨拶してみせた。
かくして、サイスは聖界の尋問を受けるべく引き渡された。
今は人間界の上空を飛翔中だ。
「さっ、寒いですぅ〜!!」
エリクスに風圧から身を守る障壁を纏わせて貰っても上空は寒い。
「夜中の2時やしなあ〜」
あれから聖界の夕食を振る舞って貰ったが、ベルも喜ぶ顔こそしていたものの、正直物足りない食卓ではあった。
豆と鳥肉のスープに白いパン、塩と少々のスパイスのみで味付けされたマッシュポテトなどなど。
「腹減ったっす……」
どれもこれも、良い言い方をすれば素材の味を活かした物、といった感じだった。
「……アレが聖界の普通の食事なん?」
「普通っていうか、とってもとっても高級ですけど? ミカエル様は上位2階級目ですよ!?」
「アレがなあ……?」
「アレって言わないでください!」
どこかでしたような会話をするアクシャとベルの横で、エリクスが溜め息を吐く。
「はあ〜……早く帰ってラーメンでも食いたいっす〜!」
「あーええなあ、作るかー」
アクシャもポヤッとした顔で同意した。適当にインスタントでも使うかー、味付け玉子のストックがあったなーなどなどを考えている。
「えっ!? 何ですからーめんって!!」
そこにラーメンは初耳のベルが食い気味で尋ねた。
この2人が良いなぁと言う人間界の食べ物は美味しいに決まっているのだ。
「カツ丼とプリンは逃しましたけど、それは絶対食べたいです! 今日!!」
「はいはい、ほな決まり〜」
「やったっす!」
1日で色んな事をした3人だが、今日は帰ったらラーメンを食べる。
これで今日はおしまい。
「ベルのお使いはまた明日なー」
「はい!!」
ベルが嬉しそうに答えた。
これでベルちゃん仲間入り編は終わりです!




