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魔王子アクシャの人間界エンジョイライフ  作者: もちごめ
1:新しいオモチャ、僕がもーろた!
5/66

野蛮な種族やなぁ……愚か愚か(笑)

「お疲れ様でしたー!」


 レイが職場を出る。

 今日も面白かった。


 人間は些細な事で喜び、怒り、悲しむ。


 負の感情をエネルギーとしているレイ……もとい、アクシャにとっては勿論、人間が負の感情を発している場面などは興味深く、面白い。


 ただし人間状態ではツノが無いため、そのエネルギーを吸収することは出来ない。楽しむだけではある。


 魔界のことを考えれば、喜びなどの幸福に繋がる感情を研究する方が良い。それもあって人当たり良く健全に働いているのではあるが。


(こんなん、ホンマは聖界がやるべき事やねんけどな)


 そうなのだ、人間界へ干渉するのであれば、魔族は負の感情を焚き付けるべきで、喜ばせるなどは聖族の仕事である。


 聖族。魔族とは対極にある存在で、彼らは喜びや快楽など、正のエネルギーを吸収・利用している種族だ。


(聖族は僕らと違って割と人間界に来やすい筈やねんけど、そういうの考えへんのかな)


 アクシャが人間界に来るために作るゲートは、アクシャほどの上級魔族でないと作る事が出来ない。つまり、その辺の魔族が気軽に来れる場所ではないのだ。


 魔界にも人間界の文化が幾らかは流れ込んではいるが、それも過去の強大な魔族が持ち込んだもので、その種類や数も多くはない。


 一方で聖界はある程度……中級程度の聖族であれば容易く人間界に来る事が出来る。


 なのにだ。人間界の負の感情は増えるばかりで、正の感情は少ないと聞く。


(ホンマ何してんねん聖族は、ザッコいわぁ〜)


 そう思いながらアクシャは帰路を辿った。




 人間界の家に着くまでに暗く、細い道を通る必要がある。

 そこに差し掛かった時であった。


「見つけましたよ、アクシャ王子……!」


 振り返ると、天使……聖族が僅かに光を纏って空から舞い降りる最中であった。

 美しい金髪の女性の姿で、額には輪、背には1対の白い翼、手には槍。


「いや、派手過ぎるやろ。人目とか気にせぇへんの??」


 人間の姿のまま答えたが、どうもこの聖族には聞こえていないようだ。


「観念しなさい、アクシャ王子!! あなたが人間界で行っている悪行など、我々はお見通しですよっ!!」


 聖族は声も高らかに槍を構えた。目には正義の炎でも宿っているかのようだ。


「いざ、勝……」


「聖族って人間相手に槍構えるん??」


 アクシャが遮った。そう、今のアクシャは人間(レイ)の状態……背後の気配に然程気付かなかったのも、それが原因ではある。


「えっ……」


「今の僕、人間やで? 普通に働いて帰ってる最中や。話やったら聞いたるけど、まずその色んなもん仕舞えや」


 アクシャの言葉に聖族が戸惑い、槍を下げる。

 何故なら聖族の常識では、魔族は野蛮で好戦的、話など通じず、攻撃を受ける前にやらなければ殺される……という事になっている。


 実際魔族は好戦的な種族ではある。しかし、話合いすらしない訳ではない。アクシャからすれば急に戦闘を仕掛けてくる聖族の方が野蛮だ。


「名乗りもせん、一方的に戦おうとする、ビカビカ光る。ちったぁ話する姿勢ぐらい見せぇや。聖族はそんな野蛮やったんか? 魔族じゃなかった場合の事は考えとるんか? そうなったらただの人間1人殺しとるんやで??」


 呆れたように淡々と話すアクシャに、目の前の聖族が段々と輝きを失う。


「そ、それは……」


「あのなあ、挨拶を交わす、他人の意見を聞く、自分の意見を述べる。この3つが揃って初めて対話になんねん。聖族は対話もせんのか? これすっ飛ばして人殺しするんかいお前は」


「あ、あ……いえ……その……」


 聖族の翼がシオシオと下がり、完全に輝きを失った。


 どうみても上司に怒られる部下の図である。


「ほんで? お前の名前は?」


「ヴェルディエルです……」


 俯きながら答えると、またアクシャから小言が飛んだ。


「目ぇ見て話さんかい。んで何? そのヴェ……言いにくいわ、ベルでええ??」


「ヴェっ、ヴェルディエルです!!“べ”じゃありません、“ヴェ”です!!」


 ヴェルディエルが慌てて訂正する。名前に拘りがあるようだ。


「うるさい。高木ヴーぐらいオモロなってから文句言え」


「ぐっ、ぐう……」


(そもそも高木ヴーって何ですか……!?)


 ああ言えばこう言う。まさにそんな感じで返されるやり取りに、魔族初体験のヴェルディエルは歯噛みするしかない。


 それもそうだ。聖族である彼女は、聖界で上司に言われるまま「はい」「はい」と忠実に仕事を成してきた。言い返した事なども特にない……つまり、そんなに賢くない返事しか出来ない。


 忠実であった甲斐あって“ヴェルディエル”という名を授かったのだが……。


「まあええわ、話やったら聞いたる。さっさとその羽と槍仕舞って人間の姿にでもなれや」


 目の前の男の提案を飲みそうになったが、ヴェルディエルはそこで思い出す。


 話的に魔族で間違いないのだから、戦えば良いのでは?


「いっいえ、魔族の言葉になど騙されません!! 魔族と話す事などありません!!」


 そう言って輝きを取り戻し、槍を構え直した、その瞬間。


「ダボが」


 そう聞こえたヴェルディエルの視界は暗転した。

 

【ヴェルディエル】

聖界からアクシャを倒しに来た正義の聖族だ!!

あんまり賢くないぞ!!

挿絵(By みてみん)

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