32:話し合いで解決出来んかったらしゃーないよな
庭は赤や紫色の禍々しい植物が真っ黄色の花を咲かせており、正直とても美しいとは思えない。
しかし王子の城の庭に植えられているという事は、魔族の感性的には美しいのだろう。
それにしてもだ。
「この辺りは……お庭は侵食が無いのですね?」
破壊・殲滅しなければいけない程の植物やモンスターが蠢いている風景を目にしたばかりだが、アクシャの城の間近な周囲は被害が無さそうだ。
「僕が結界張ってあるっていうのもあるんやけど、魔族がそこに居るっていうのがかなり大きいんや」
ようやくベルの方を向いたアクシャがその性質を説明し始める。
「負のエネルギーは僕らの活力や。上級の魔族になればなるほど吸収量も消費量も多くなる。そういう魔族が集まった場所はエネルギーの濃度が必然的に薄くはなるから、あんまりああいったゴミは入り込んでけえへん。来るのはエネルギーが溜まってしまった地域やな」
そして遥か先で後始末をしている魔族達を指差した。
「ああいう仕事しとる奴らですら上級の奴らやねん。逆に下級の奴は吸収量も少ないから、そういう奴らばっかりが集まった村とかは侵食されて滅んどる。今は性質が分かっとるから、下級魔族の村は中級と上級を混ぜた軍を小規模で作って各村とかに置いて周囲の破壊もさせとる」
アクシャがそこで少し笑顔になる。面白い遊びをしているかのような笑顔で、正直可愛らしいのだが。
「最近、アコードが自分のザコ加減をカバーするのに変なガラクタ作っててん。そのガラクタを弱小下級魔族共にも使わせられへんかなって実験中や! そしたら下級のザコ共でも自分で戦えるし、エネルギーの消費や破壊も進めることが出来るやん! ガラクタじゃ無いことを証明中やな!」
喋っている内容は全く可愛らしくなかった。
「ま、まぁ……それは、上手くいくと良いですね……」
勿論、魔界の事を考えればそれは喜ばしいのだろう。だが兵器開発となれば何となく褒めちぎる気にはなれない。
だが、急に彼の笑顔が微妙になる。そう簡単な話でも無いようだ。
「ただなあ、僕ら魔族って己の力で戦うのが当たり前やから、武器を使うっていうのはウケが悪いんよ。僕もそんなもん使えって言われたら嫌やしな」
言いながら口元に指を当てがい、曇天の下でボヤくアクシャの顔はちょっと色気がある。
「でも君ら聖族と違って、魔族は生まれでほぼ強さが決まる。努力なんかでは払拭し切れん……突然変異でも無い限り、下級は一生下級や。その下級を守るためにも、出来ればそのガラクタを浸透させたいんやけどなあ」
「でも、魔族的な考え方をするのであれば……そういった弱い魔族は必要……なのですか?」
ベルがらしくない質問をしてみる。少しでも魔族に寄り添った考え方を取り入れたいと思った努力の結果がその質問だ。
「ほーん……お優しい聖族様が魔族の考えを真似するか? まあそうやな、そう言う奴も居ったよ、殺したけど。午前にも言うたよ、魔界の支配者は魔族であってゴミやない。下級であろうとも……生き延びてゴミを、敵を支配・蹂躙する立場にならんとあかん」
アクシャがまた背を向け、軽くベルを振り返りながらその先を続けた。
「自分の意見の為に戦う権利を、知能も文化もない雑草や魔族崩れに剥奪されたらあかん。魔族の正義は強いやつの意見や。意見も考えもないゴミに殺されるのは……戦って死ぬより惨めや」
そこまで言って歩き始めた時だった。無事だった庭の茂みから人影が飛び出してきたのだ。
「きゃあっ!」
ベルは思わず叫んで後ろに跳躍してしまったが、アクシャは微動だにしない。
「アクシャ王子、覚悟……!」
その飛び出してきた人物は、青い肌に尖った耳、赤い眼、そして白髪の男で、額から歪な金色のツノが2本生えていた。
「おん、僕の覚悟の前にお前の覚悟を聞かせんかいや」
「良いだろう……」
驚きもせず、普通に話し掛ける。これがエリクスの言っていた“急に殺しはしない”という話かと興味深く様子を伺う。
驚いてばかりのベルではあるが、元々はアクシャ討伐の命令を受ける程だ。賢くない自覚は最近になって出てきたが、その辺の相手に対し、戦闘において引けを取るつもりはない。
武器は手元にないが、ある程度の体術も心得てはいる。
「貴様、その聖族を可愛がるつもりか、捕虜にでもしたのか……? 良い趣味してるじゃないか」
男がアクシャに対して侮辱じみた発言をする。自分の事も馬鹿にされている上、今の上司であるアクシャの事までも馬鹿にされている。それは分かった。
今のベルはアクシャの部下だ。いつ何時出撃の命令が下るか分からない。いつでも戦えるよう、身体だけは構えておく。
「おん、新しいオモチャやで。でも御託はええから、はよお前の意見言えや、怠いわ」
男の発言に特に気にした風もなくアクシャは先を促した。すると、男はようやくその意見を述べ始める。
「では貴様には悪い話じゃないはずだ。俺、そして俺の種族はこの負のエネルギーをもってして聖界をも掌握したいと考えているからな……我々は魔法なら上手く扱える者が多い……鍛錬すればゲートの開放も難しくはないぞ」
なんと、そんな考えの者が魔界に居るとは。確かに、この負のエネルギーを総動員なんかされたら聖界はたまったものではない。
ゲートとは恐らく人間界へのゲートの事だ。ベルは知らないが一部の上級魔族に使える程度で、数はそう多くない。それを開けようと言うのだ。人間界も無事では済まないだろう。
流石にそれは避けたい。アクシャは何と答えるのか、自身の上司の様子を伺う。
アクシャはそれでも表情ひとつ変えず、それに返答した。
「お前、南西の魔王の残党か、珍しいやん。でも僕はそれは頭悪いから反対やで。そもそもヨソの世界に迷惑掛けたらあかんのちゃう? ダサいで」
そしてそのまま、首を傾げて更に男に言う。その姿は得も言われぬ程の重圧を纏い、少し離れたベルにも悪寒が走るのが分かった。
「ほな、あれよ。ほぼ話し合いにもならんかったけど妥協点も無いし。何もせんと死ぬか、僕と戦って死ぬか、好きな方選んでくれる?」
それを聞いた男が怒りの表情を浮かべ、少し身体を動かした瞬間。
バチィィン!!!!!!
強烈な、デコピン。
それ一発で男は……男だった物に変わってしまった。物だったかも分からない。何せその場に何も無いのだ。分かるのはただ焼け焦げた跡がある事だけ。
「はぁーあ、前も何か同じ意見の奴居ったけど、聖界を支配してからのプレゼンが何も無くて、おもんないし現実的や無かったから殺したんよなあ。ほんま、アホの相手って怠いよなぁ」
そうボヤいて、それから。
「ほな、散歩の続きしよか!!」
薄紅の男がイタズラっぽく笑ったのに、ベルは冷や汗が止まらなかった。




