29:聖族ってやっぱ変な生き物やなぁ
アコードの言う“2点の気になること”。
「まず、1点目ですわ! 健康状態はかなり良さそうですわね。でも、人間界は吸収して利用できる負のエネルギーも正のエネルギーも薄いはずですわ」
そう言ってベルの顔を見る。
確かに、たった数日ではあるが人間界での食事と睡眠で身体は十分元気だ。
「お兄様はともかく、エリクス様はしばらく人間界にいると魔力が減って疲れてしまいますの。アタクシ達魔族にとって魔力の枯渇は命を落とす危険があるものですわ」
アコードがエリクスを見てニッコリと微笑むが、エリクスはそれから目を逸らす。
どうも苦手らしい。
「聖族であるベル様が何日人間界にいらしたかは存じませんけれど、聖力は無くても問題ありませんの?」
その発言にベルは首を縦に振った。それはベルでも十分証明できる。
「はい。そもそも、聖族における下級層の者達は聖力を吸収するための輪を所持していません。あなたの仰る通り、聖力が無くとも生命の維持に問題はありません」
それを聞いてアクシャも少し自身の疑問を間から挟んだ。これは割と自分の中で重要だからだ。
「その輪っかはどうすれば貰えるん?」
「中級以上の聖族の中でも上級が優秀だと判断した者が輪を与えられます。輪を与える権利は上級6階級の内上位4階級に定められており、選定の後に会議で輪を授与するか否かが決められます」
つまり、ベルはそれを潜り抜けたのだ。実力はそれなりに評価されての事だと思われる。
(でもなあ、コイツ、割とアホなんよなあ……ヴェルディエルを選ぶ基準に“信じやすいアホ”があるみたいやしなあ)
ベルが以前の名……ヴェルディエルを貰った時、ヴェルディはイタリア語で緑という意味だ、としょうもない嘘で騙されている。実際は悪魔のアナグラムだった。
そういう真っ直ぐで操りやすい者が選ばれている以上、その会議には何らかのカラクリ、もしくは虚偽の報告があるかもしれない。
「ふぅん……めんどくさいな、聖族。しばいて終わりにしたいな」
身も蓋もない感想を放って考えていた事を煙に撒く。
ベルがムッとした顔をしてアクシャを見たが、無視しておいた。
「では1つ目の疑問はクリアですわ! 続いてですけれど……これはあなたが分からないなら答えなくても良くてよ? アタクシの疑問であって、ベル様に対する質問ではありませんわ」
「え、ええ……」
アコードが次の疑問を口にしようと笑顔になる。本当に興味があるだけのようだ。
その間にアクシャは玉座に座る。
実は玉座の座り心地は大して良いとは言えない。座面に対して背もたれが直角なのだ。
今度、玉座をゲーミングチェアに変えておいても良いかもしれない。
そんなことを考えているアクシャをよそに、アコードはぶつぶつと呟いている。
「額からエネルギーを吸収されるようですけど、私達のツノのような物はなく、輪を使う。輪がなければエネルギーの吸収が出来ない」
そしてアコードは考え込んだ。自分とは違う存在。
魔族は下級だろうと、ある程度は人の形を取っており、ツノでエネルギーの吸収が出来る。これは常識かつ普通の形態だ。
エネルギー過多が問題となっているとは言え、魔族は負のエネルギーが無ければ生きていけない。
「エネルギーが無くとも生きていける……補助する物が無ければエネルギーを吸収出来ない……聖界はエネルギー不足ですが、ここ2000年の話……」
ふっと顔を上げて玉座に座るアクシャの方を見た。質問をするためだ。
「お兄様が大昔にお会いした聖族は今と同じ形でしたの?」
「おん、僕が2000歳ちょっとぐらいの話やな。その形態はエネルギー不足とは関係ないと思うで、見掛け的にはな」
4893歳のアクシャが言う。2000以上前、その頃から聖族は今と同じ姿だった。
「では、エネルギー不足に対する進化や適応ではありませんわね。きっと……聖族は人間に近付いているのではなくて? そのように進化をしているのだと思いますわ。だとしたらアタクシ達よりも短命である事にも説明が付きそうですもの!」
「ふぅん……」
アコードがパッと笑顔になって話す。それを普通の顔をしたまま、アクシャが流した。
アクシャの中では疑問点がまだ残っているからだ。
「過去の文献……もう燃やして残ってないんやけど、魔族と聖族は使うエネルギーが違うだけで元は大体同じ存在やった。エネルギーを吸収する器官を持っていて当たり前。それが聖族は今や無くなりつつある、人間になるために」
口に出すのはここで止めておいた。代わりに適当にまた言葉を発しておく。
「だっさ」
ベルがまたムッとしているのが視界に入るが、今はそれで良い。
「というか文献を燃やしてしまったのですか!?」
驚いた顔でベルがアクシャに言うが、それはエリクスがフォローした。
「オレの父親の文献っすね。魔王だったんで王子に殺されたっすよ。そん時に一緒に燃えたっす! はは!」
「ええ……」
「オレ、中身覚えてるんで大丈夫っす! えへへ」
自分の父親を殺されたというのにこの笑顔である。
ちなみに、エリクスの父親は『上級魔族を増やそう!』派の魔王で、一夫多妻制にするため、エリクスに多数の婚姻を取り付けようとしたのだ。(どうかしてるっすよ! 自分がハーレム作る口実じゃないんすかね!? 多分コイツは死んだ方が良いっす!)と思ったので、アクシャに殺されている時も影から見守っていたのだ。
それはそれとして、アクシャは玉座に座って考えていた。
いつかベルをいじめた時、彼女からは負のエネルギーが吸収できた。
(……そうやとしたら、負のエネルギーが吸収出来る事は説明が付くかもしれん。でも、聖界は正のエネルギーを代謝するための世界や。人間に近付く事で負のエネルギーも発するようになった? そんなアホなことがあってたまるか……聖界の役割を捨てて人間になるんやとしたら……)
そこまで考えて、脚を組み替える。
目の前ではまたベルがアコードにあちこち触って調べられていた。
(もう魔界の敵やん。人間界やってエネルギーの循環おかしなって潰れるで? それにしたってまずは僕を利用しようとした、エル何とかの片付けが先やけど)
そう思いながらアクシャは玉座から立ち上がり、その場を後にする。
少し、1人で考えたい。




