28:もう1人妹おるんよなぁ、僕……
魔界の破壊をある程度終えて城に帰ってきた。
魔界の光景はどこを見ても恐ろしく、こんな状態になっている原因は人間界からの負の感情エネルギーが過多になっているからだという。
正直、聖界に居た頃はこんな魔界の状況など考えもしなかった。
豊富なエネルギーを人間界から搾り取り、面白おかしく過ごしているのだとばかり思っていた。
アクシャが他の魔王達を殺すに至った理由も教えて貰った。
「魔王達の意見がバラバラな状態では、魔界の現状に手を出す奴がほぼ出てこん。その間に魔界は衰退する一方や。足並みも揃わんし、計画遂行の最中に他の魔王勢力と敵対する可能性もあるやん。ほな最初から殺しといたら解決よ。魔界では強い奴の意見が正義やしな」
という事だ。この考え方は聖族であるベルには理解し難く、彼らが魔族であることをより実感するに至った。
これが“種族ではなく、意見が重視される”所以なのだとは分かる。
「オレ達だって急に殺す訳じゃないっすよ。まずちゃんと話し合って、他の良い方法や新しい方法を探すっす。それでも相手と上手くいかなかった、その時は殺すしか無いっす。そんなの、死んで黙れば良いんすよ」
エリクスもそう言ってアクシャのフォローをする。最後らへんはもうニコニコと笑って話してはいるのだが、やはり魔族は魔族。
人間界に居る時の和やかな話は嘘だったのかと思う程だ。
だが、この世界を、人間界を良くするための彼らなりの選択であることも理解できる。
これからベルはその彼らと共に魔族として戦っていかなければならない。
暗い城でアクシャとエリクスを前にしたベルは少し考え込んでしまった。
「ま、戦うにしても御法度とかはあるんやけどな」
アクシャがそう言った時だった。
城の通路の奥から見た事のない少女が姿を現したのだ。
その少女の赤紫の髪はツインテール。可愛らしい2本の短いツノがツインテールの根元からチョコンと覗いている。ワインレッドのワンピースを可愛らしく着こなし、モデルのように歩いてきた少女。
魔族にもこんなに可愛い人物がいるものなのか、そう考えていると、その少女はアクシャを見るなり嬉しそうに走り出し、アクシャに抱き付いた。
身長はアクシャよりも高く、172cmのベルより少し小さい程度か。
「お兄様ぁ〜〜ご機嫌よう!! お会いしたかったですわ!!」
「どけ」
頬擦りしている少女をアクシャがたった一言で引き剥がして放り投げるが、その少女は華麗に着地しただけだった。
「まあ! 今日も素敵な投げですこと! 流石お兄様ですわぁ〜〜!! アーーーーーッハッハッハ!!」
どうもこの少女もアクシャの妹のようだが、この兄妹達は全員高笑いを上げないと気が済まないのだろうか。
「ベル、コイツはアコードや。紹介したかったのはコイツやで。何か毎日様子のおかしいガラクタとか薬作っては喜んどる様子のおかしい変態や」
そんな酷い紹介を受けて尚、アコードと呼ばれた少女は高笑いを上げて喜んでいる。
よく見るとアクシャやアクトよりは目がぱっちりとしているが、魔性を兼ね備えた美貌がある。強いイエローの瞳が綺麗だ。可愛い口元には左右1個ずつのホクロ。
「流石お兄様、その棘のある紹介も素敵ですわ、面白おかしくご紹介頂けるなんて光栄ですこと!」
そして高笑いをやめたアコードという少女がベルの前にスイッと寄る。
「ベルと言いますのね? 聞いておりますわ、お兄様の新しいオモチャだと! アタクシはアコード、研究開発を担当しておりますわ!」
「よ、よろしくお願いします、オモチャではないですが……」
何ということだ。もう既にオモチャで広まっている。一応否定はしたが、それがどれほどの効果になるかは分からない。
酷魔姫アコード。2684歳の魔族の姫だ。
その二つ名の由来は、アクシャが今まで気分で殺さずに連れ帰った元魔王子や元魔姫達を「アタクシにくださいまし!」と言って生体実験や威力実験に使っているからである。
彼らの悲鳴も届かず、アコードはただニコニコとその反応を記録するのみで、実験などを止める気配は全く無い。
アコードの研究そのものを理由なく否定した者も同様に実験や研究の材料などに使われる。故に酷魔姫。
戦闘は得意とはしておらず、魔法も強くはない。
自覚した本人が「なら頭を使えば良いだけの話ですわぁ〜!!」と開き直り、 嬉々として研究開発を行っている。
実際、アクシャもその研究結果などには興味があり、有効活用できる可能性も見出している。
「まぁまぁ……まぁまぁ!! アタクシ、聖族を見るのもお話するのも初めてですのよ! 話には聞いておりましたけど、その輪っかで力を吸収なさるのね? 翼は? 綺麗な差し色ですけれど、聖族の翼も個体によって模様や色が違いますの?」
興味深々なアコードがベルの身体のあちこちを調べ始めて、それがさわさわと触れるものだからくすぐったい。
「きゃ……!」
驚き、戸惑っているとアクシャが声を上げた。
「こらこら、もうそんぐらいにしとけ。そんで僕の話きけ」
「はぁい」
それでようやくアコードがベルから離れてくれる。
「アコード、何か気になる事はあったか?」
アクシャがそれだけ尋ねると、アコードは少し思案してから話し始めた。
「そうですわねえ……今、特に気になるのは2点ですわね!」
そしてアコードはニッコリと可愛らしく笑う。
ベルはそれを見て、これから自分は何をされるんだろう、と恐怖を感じていた。




