24:僕、別に無計画ちゃうしな
昼に起きる。そういった通りにアクシャは目を覚ました。
ソファで眠っていたため身体が痛い。
隣では力尽きたベルが幸せそうな顔でソファの上で眠っている。テレビは点けっぱなしだ。
「あーあ……これでは今日はほぼ何も出来へんなあ……」
昼から出掛ける気でいたが、オールをして今眠っているのであれば、きっと出掛けるのは彼女の負担になるだろう。
タオルケットでも掛けてやろうと思ってソファから立ち上がると、2階からエリクスが降りてきた。
彼も今起きたようだ。濃い紫色の癖毛はグシャグシャのままである。
「んあーあ……王子ずっとそれに付き合ってたんすかあ?」
「いや、僕も朝方ぐらいにここで寝て今起きたんや。コイツがいつ寝たんかは知らん」
欠伸混じりのエリクスのセリフに返事をするアクシャもまだ眠いのだろう、少しぼんやりしてはいる。
取り敢えず水を飲もう。そう思ったアクシャがキッチンで適当にコップを選び出した。
「王子、オレも水ほしっす」
「自分で入れろや」
適当なやり取りをしながら2人で水を飲む。
キッチンからはソファで無防備に眠っているベルの姿が見える。
「王子、アイツの事、どうするつもりっすか?」
まさか、部下にしたかっただけではあるまい。そう考えた側近の正直な疑問だ。
「……上手く餌にはするで?」
コップを置きながら笑ったアクシャの顔は妖しい。
「安心安定の王子っすね。でも餌にして死んじまったらどうするんすか?」
どうも想像通りの答えが返ってきたらしく、更に質問を重ねる。エリクスも微笑んだが、それは如何にも魔族らしい笑みだった。
「死ぬわけないやろ、僕が無駄に聖族を部下にして死なせると思うか?」
それを聞いて更にエリクスの笑みが深まる。
「ま……理由が1つだったら逆に驚きっすよね」
アクシャがタオルケットを手に取り、ベルにそっと掛けてやった。
「帰さんかったらどうなるんやろー?って言うたやん。ヴェルディエルを聖族から堕とす・殺すのが目的なんやったら、当たり前にその後のシナリオがあるはずや。それも、僕が手を下さん前提でな」
その場でアクシャが笑う。昼間である事を忘れさせるような暗い笑み。
「つまり、この僕を勝手に利用しとったんや……ベルは貰うし、エルヴィエルに……EVILはどっちか教えたろやないか。クックックックック……アッハ……ああ、起こしてまうわ……」
高笑いを上げかけたが、ベルが眠っている事を思い出し、アクシャは慌てて口を手で抑えた。
「うむぅー……私、寝ちゃったんですかぁ……」
夕刻になってからベルが起き上がってきた。目を擦りながらムニャムニャとしている様子を見ていると、この間までアクシャを警戒しまくっていた女だとは思えない。
「くつろぎ過ぎやろ。魔族の家やで、ここ」
「ちょー図太いっす」
スマホをいじる2人から口々に言われ、何となくムッとするが、それはまあその通りだ。自分でも本当に打ち解けたと思う。
何なら、本当はずっと昔からこうしていたのではないか。そう思う程だ。
聖界にはもう色んな意味で帰れない。
「……もう魔族の仲間ですから良いんですもん」
少し口を尖らせて言うが、コレがかつてのベルの上司、エルヴィエルの目の前であればこんな態度は取れなかっただろう。
「おう、この間も聞いたわ」
酔っているベルの口から出たのは「自分はもう魔族だ」との発言であった。それはアクシャも忘れてはいない。
「そんでよ、明日魔界行こな」
ベルの方を特に見ずにアクシャが言った。
「……はい?」
ポカンとした顔で聞き返すが、同じ答えが返ってきただけだ。
「せやから、明日魔界行くよて」
「……ええええ!?」
いや、確かに魔族の、それも王子の部下になったのだ。当たり前かもしれないのだが。それが急に明日だとは。
「僕もそろそろ1回ぐらい帰っておかんと、魔界の仕事とか色々放置しとるからなあ」
割と難しそうな顔で答える。
言われればそうだ、彼は魔界唯一の魔王子。魔王ではないが、広い魔界の魔王子ともなればあちらでの仕事も十分あるはずだ。
「そっすね、オレも流石にエネルギーを吸収しないとキツいっす。最近余計に眠いっすもん」
エリクスも肩を自分で叩きながら疲れた表情を見せた。
「まあ、聖族だと分かるようにしとけ。あの輪っかも付けとけよ」
輪の事だ。あれは今、アクシャが聖族の探知系魔法に引っかからないように魔法を掛けてベルの部屋に安置してくれている。
「でっ、でも聖族だとバレたら……」
アクシャやエリクスはベルを襲わないと勝手に思っている。だが、その他の魔族については分からない。
魔界は恐ろしい世界だと聞く。知らない場所、知らない魔族を怖いと思うのは当然だ。
「いや、むしろめちゃくちゃアピールせえ。その方が隠すより楽やで。僕からもええように言うたるし、何かしてくるヤツが居っても僕がボコったるわ」
そしてアッハッハ!といつもの高笑いを上げる。
「は、はい!」
その様子を見て安心する。
「あ〜〜魔界帰ったら肉喰み草の血染め汁食べたいっす〜〜」
「あー、あれちょうど時期ちゃう? 魔鳥の血が合うかもしれんなー」
「あっさり食えそっすね!」
安心したのも束の間、料理名とは思われるが物騒な単語が聞かれ、途端に不安に変わってしまった。
(え、えと。私もそれ食べるのでしょうか……)
そんなベルの不安をよそに、アクシャとエリクスは和やかに談笑をしている。
「ほら、ベル、ボーッとしちゃダメっすよ!」
「今日はもうめんどくさいから飯食いに行くで〜! 寿司や寿司!」
どんな料理かと怖々考えていたが、今日の食事はまだ美味しい物のようだ。取り敢えず不安は明日だし、今日のところは。
「あっ、はい! 食べますう!」
目の前の食い気に負けたベルが嬉しそうに声を上げた。




