22:酒はほどほどにな!
食事も入浴も終わったし、後はテレビを観ながらのんびり過ごすだけである。
「王子、今日の場末のロードショー何すかー?」
風呂から上がったばかりのエリクスが頭を拭きながらアクシャに訊ねる。
「今日ー? 今日は『バロスで動く城』や。録画も準備できとるで」
「おっ、いっすねー! バロス!って言った途端、城がバカ光りながらドカドカ発進するシーン大好きっすよ!」
既に酒を片手にしたアクシャが「それな!」と笑った。
そんな和やかな2人を前にして、ベルはまだ固まっている。
夕刻のアクシャの行動が忘れられないせいだ。
(どうしましょう、私……魔族の部下になっちゃいましたし、男性に……しかも魔族にキスまでされちゃって、穢れ切ってしまって……でも人間界のご飯美味しいし……)
ずっとこんな事を考えている。
ベルの様子が変な事はエリクスも分かっている。
アクシャの話を聞いた上で「ふーん」と興味なさそうに鼻を鳴らした程度の反応しかしなかった。聖族の変わった掟の事ですら「変なの」とだけ漏らして終わりである。
「ま、ベルも元気出すっすよ、今日はお前の仲間入り祝いでケーキ買ったんすから! コンビニのっすけど」
エリクスがリビングのローテーブルにシンプルなショートケーキを置いてベルに差し出した。
白いテーブルに白いショートケーキ。真っ赤な苺が映えてとても綺麗に見える。
「ふわ……ありがとうございます……」
色々悩んでいることはあるが、人間界の食べ物はとても美味しい。食べているとたまに聖界の事を思い出すが、目の前の美味から逃げられたためしがない。
色んな意味で聖族は失格かもしれない。
「何か飲みもんやるわ、待っとけ」
言ってアクシャが立ち上がり、キッチンに向かう。そこで何やらシャカシャカと音を立て始め、暫くしてリビングに帰ってきた。
手にはコップを2つ持っている。
「ほら、これやるわ。一応水も置いとくで」
彼からベルに供されたのは薄い茶色の飲み物と普通の水だ。
白いテーブルに茶色がよく目立つ。
「……なんですか、このど……飲み物」
「泥言いかけたか?」
図星だがアクシャは別に怒る様子はなかった。簡単に目の前の飲み物を紹介してくれる。
「チョコリキュールに牛乳混ぜたやつや。酒やな、僕は甘過ぎて飲まれへんけど、君なら気に入るんちゃう? 苦手やと思ったら止めて水飲みな」
紹介された飲み物の匂いをスンスンと嗅いでみる。甘くて美味しそうな香りだ。
(めっちゃ犬か猫みたいやなあ)
ベルのそんな姿に、アクシャがまさかそんな感想を抱いているとは思っていない。
そしてアクシャも、この酒がとんでもない事を起こすなどは予想もしていなかった。
恐る恐る、そのミルクチョコの酒に口を付けて……。
「もおおお! 王子サマ! 私もー、仲間になったんですからぁー! 仲良くしてくらさいようー!」
「ちょっ、離れて! 僕ベタベタするん好きちゃう! やめ! やめて! やめろ!! やめて!!!!」
ベルはめちゃくちゃに酔った。それはもう顔は真っ赤、しかもダル絡みをしてくるタイプだ。
出された酒など、コップの半分しか飲んでない、それでコレである。
アクシャに抱き付いて頬擦りをしながらニコニコ笑っている。
「うおぁ、くっそ甘い匂いする! やめ! あっち行け!!」
酒……アルコールを飲んだ一部の人は性格が変わるという。それは理性がアルコールの効果により緩んでしまうせいで、人が変わるというよりは本人の元々我慢していた行動などが現れるのだと考えられる。
「意地悪ー!! 魔族ー!! わたひにキスだってした癖にー! ねー? エリちゃんもそう思いますよねー?」
「えっ、エリちゃん!? オレっすか!? いやまあ王子は意地悪っすけど……」
「きゃああ! 嬉しいです、私と同意見なんですね!? エリちゃんは私と仲良くしてくれますよね、仲良くするって言ってましたもんれー!!」
「ゔぁっ!」
ベルの絡む先がアクシャからエリクスに変更になる。今度はエリクスが揉みくちゃにされた。
つまるところ、ベルの正体はコレの可能性が高い。
「はぁ、はぁ……こいつ酒飲ませたらあかんわ……!!」
肩で息をしながらアクシャが呟く。
それを聞き逃してなかったエリクスが怒りながらアクシャに声を荒げた。
「酒を与えたのは王子っすよ!!」
「だって、ちょっとぐらいやったら飲むかなって、あかんかったらやめてええって言ったし……」
戸惑いから首を横に振るアクシャの言葉も、いつもの覇気が感じられない。
「というかベル、お前、男の僕らとベタベタしてええんかいや」
異性とのお付き合いが何だのと言っていたベルに問うが、エリクスに頬擦りしていたベルから返ってきたのは何と。
「私魔族の仲間れすもん! どーせ聖界には帰れませんし、もうわたひ、魔族れすもん!」
「ちょっっっっっろ……何やコイツ、予想の斜め上どころか、斜め下飛んでくるで……!」
聖族の誇りなどはどこに行ったのだろうか。酒のせいでこの変わりようである。
「だからぁー、私ずっとアクシャさまのー、お側でいますねー? 絶対れすよー?」
それを聞いたアクシャは(もう取り敢えず甘い酒は買わんでおこう)と決心した。
因みに、ベルは記憶があるタイプらしく、翌朝布団の中で絶望していたという。




