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魔王子様の人間界エンジョイ計画!  作者: もちごめ
1:新しいオモチャ、僕がもーろた!
15/68

12:水はゆっくり飲まんとむせるんやで!

「おお、目ぇ覚めたんかいや。ちょっと回復出来るように魔法掛けといたんやけど、まあ何か聖族にも効いて良かったわぁ〜」


 そう言ってアッハッハと笑う小柄な男が後ろに控えている少年……エリクスから水の入ったコップを受け取る。


「身体起こせるかぁ? 取り敢えず水でも飲みや、お前2日は寝てんねんで?」


 意識を手放す前に見たピンク色はこの男……アクシャの髪だったらしい。


 記憶と聞いた話が正しければ、魔族の王子たるこの男は聖界から地上へ落ちる自分を受け止めたのだ。


 魔界の王の半数以上を屠った……災いの薄紅。その話は聖界にも恐るべき話として伝わっている。だからこそ、魔界から頻回に人間界に現れ出した500年程前から、忌むべき災いの根源として彼を討伐対象とした。


 魔界すら破壊し、同胞であるはずの魔王達をも滅ぼす人物だ。人間界で悪事を働く以外の何があるというのか。


 目の前に居る魔族がその男であるが、当のアクシャは困ったような顔でベッドの横の椅子に座り、水の入ったコップを自分に差し出している。


「毒や入ってへんて、そんなしょうもない殺し方好きちゃうねん。あっ分かった! 飲みにくいんや! エリクス、ストローあるか? 持ってこい! 無かったら買ってこい!」


「ええー」


 あれこれ言うアクシャに、エリクスが露骨に嫌そうな顔をした。


 聖族の事を嫌っている様子だった少年だ、嫌な顔も当然かも知れない。


「今夜中の3時っすよ? コンビニしかやってないっすよ、遠いじゃないっすか。おい聖族、これぐらい自分の力で飲むんすよ!」


「うっさいカス! 今のコイツは人間と同じぐらいの弱小生物やねんぞ、ストローぐらい出してこいアホ!」


「そんな急ぐんだったら、むしろ王子がどうにか出来るっしょー!?」


 目の前で魔族同士がぎゃあぎゃあと騒いでいる。聞いた話通りであれば、今はそんな騒ぎ方をしても良いような時間では無いと思うのだが。


 自分であれば、上司であるエルヴィエルにこんな軽口での反論など考えられない。


「あっ、せやったわ」


 そう言ってアクシャが指をパチンと鳴らす。瞬間、コップにはピンクの可愛いストローが入っていた。


「ご都合魔法忘れとったわ」


 またもアッハッハと笑うアクシャがコップを一旦サイドテーブルに置き、ヴェルディエルの頭や肩の下に手を差し込んだ。


 驚いてビクリと身体を震わせてしまったが、彼は構わずゆっくりとヴェルディエルの身体を起こしてやりながら声を掛ける。


「全身痛いやろけど我慢せえ、寝たままやと絶対飲み込むんミスるからな」


 確かに痛い。だが、起こされる速度はかなりゆっくりで、随分と慎重であることは分かった。


 アクシャの身体が近く、彼の体温と共に何かスゥッと冴えるような爽やかな香りが鼻をくすぐる。


「ほら、飲めるだけ飲め。エリクス、水差しはあるな?」


「あー、あるっすよ。オレ、賢いんで」


 ヴェルディエルがそんなやりとりを見ながら、そろそろとストローに口を付ける。


「賢い癖にストロー無いとか新しいギャグか? ほらベル、ゆっくり飲めよ?」


 言われてゆっくりと吸うと、冷たい水が口に少し流れ込んだ。その途端、身体がスイッチを入れたかのように水を一気に飲み干そうと、吸い込む力を強くする。


「ゆっくり飲め言うたやん……まあええわ……」


 溜め息を付くアクシャがエリクスから水差しを受け取り、更に継ぎ足した。


 久方ぶりに口にする水分は砂漠に与えられた水のよう。こんな施しを魔族から受けるのも情けないが、今はそんな事も考えていられない。


「お前が人間やったら、人間の病院に担ぎ込んで点滴でもして貰えたんやろけどなあ……すまんなあ、魔法の回復でしかお前を助けてやれんかった」


 アクシャがすまなそうな顔でそう言葉を綴る。どうせフリかもしれないが、違うと言われればそうかもしれない。


 表面上である可能性は大いにあるが、やはり、話に聞いていた無慈悲な魔王子ではない……自分の受けた使命とアクシャの姿の間で揺らいでしまう。


 弱った自分を聖界から放り出したエルヴィエルの姿と、何らか魂胆があるにしろアレコレと世話を焼くアクシャの姿を比べてしまう。


 かといって自分は聖族だ。魔族ではなく、聖族として生きてきた自分、それを支えてくれた同胞、そして敬愛する上位聖族達の存在もある。


 何度も倒すと誓ったはずなのに、今は倒す力も残っていなければ、戦う雰囲気でもない。倒せない。


 自分は何を信じたら良いのか分からなくなって、ヴェルディエルはただ黙るしか無かった。


 

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