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魔王子様の人間界エンジョイ計画!  作者: もちごめ
1:新しいオモチャ、僕がもーろた!
12/68

9:ズボンに飲み物溢したらはよ穿き替えるんやで

 “ヴェルディエル”


 アクシャ討伐を命じられた聖族が付けられる名。


「でも聖族って、立場や役割で名前が変わるんじゃなかったっすかね? 確かそれまでの名前も捨てるとか。同じ名前自体は珍しくないんじゃないっすか?」


 エリクスが自分も紅茶を飲もうと新しい湯を沸かし始めながら言った。


「せやで。よく聞くミカエルやらガブリエルも代変わりしとる」


 紅茶を飲み干したアクシャが同じく台所に行き、中の茶葉を抜き始めた。新しい茶葉を脇に用意する。


「ヴェルディエルは……恐らくやけど僕の討伐のために作られた名前や。名の歴史は同様に500年程やろ」


 軽くポットを濯いで新しい茶葉を入れる。


「あっ王子、オレも飲むんで……」


「分かっとるわアホ、その分入れとるわボケが」


「あーっす」


 適当なやり取りを交わす2人。


 先程のヴェルディエルの事を「王子に対して無礼」と言ったが、エリクスの方が余程無礼ではある。


「でも恐らくって何すか?」


 沸々と湯が沸くのを待つエリクスは、その間に自分のマグカップを用意した。お気に入りのアイドルの写真入りである。


「んー、さっきのベルは”先人に名を連ねる“って言ったんよ。同じ名前なん分かってたら連ねてもしゃーなくない? 1号とか2号とか言うん? 過去に捨てた名前でも書いてもらうんか?」


「1号2号はダサいっすね……捨てた名前書かれるのも同じくダサいっすもんね」


「せやろ? 栄誉もクソも無いやろ? 遺影でも飾って貰うんか……それとも先人が同じ名前だと分かってないか」


 エリクスが沸いた湯をポットに注ぐ。先程と同じ茶葉の良い香りが広がった。


「そういや王子、さっきベルは聖界に追い出されるって言ってたっすね?」


 それもあってアクシャはこの家の鍵をヴェルディエルに渡している。追い出された後、人間界で行き先があるとは思えないからだ。


「ベルは先人達が散ったと言い張った。それは自害か、向こうで消されてるかのどっちかや。消されてへんかったら、追い出されて自害かもしれんな」


「ふーん……確かに、あいつらって上部からの否定に堪えられないんだったっすよね」


 茶葉から成分が抽出されるのを待ちながらエリクスがトレイを用意する。ポットと2人分のカップをそこに乗せた。


「まあ、僕らと違う意味で、上部こそ絶対の正義や。神聖な者だと思い込むように教育されとるからな。否定されても上部に対して憎むとか考える事はないやろ」


 ソファへ向かい、座り直したアクシャが目の前に置かれるカップを見ながら続ける。


「博打やけど、その為に美味い茶を出して交渉して遊んでやったんや。消されへんかったら……今度こそ僕の新しいオモチャになりにくる……かも知れへんな?」


 まだヴェルディエルを諦めていない、そんなアクシャの様子にエリクスはジト目になりながら紅茶を注いだ。


(理由はそれだけやないけどな)


 可能性というのは何にしてもゼロではない。ヴェルディエルがそれまでに死ぬ可能性も勿論。


 考えた事全てを口に出すのはバカのやり方だ。


「クック……アーーーーッッハッハッハ!!!! あるやん、オモロい事!! 暇潰しにちょうどええわ!!!!」


 高笑いしながらカップに手を伸ばして……。


「アッツ、ズボンに茶飲ませてもうた」


「王子ダサいっすよ」


 偉大かつ尊大な魔王子は紅茶を溢した。







 ヴェルディエルが素早く羽ばたき、聖界へのゲートを潜り抜ける。


 聖力が殆ど無いため身体を保護できていない。その上、人目に付かぬよう高速で上空へ飛んだため、体温がかなり下がった状態だ。ゲートを潜って安渡したせいか、ヨロヨロと飛ぶのがやっとである。


 あの王子の元で出された紅茶を思い出す。


(……人間は聖界よりも恵まれているのですね)


 出されたカップも美しい物だった。ヴェルディエルが選んだ方では無かったため、初めは青いカップに毒が塗られているのだと思った。


 だが突き返せなかったのだ。弱った身体に聖界でも嗅いだ事のない甘やかな香りは抗いがたく、つい口にしてしまった。


 ヨロヨロと風に負けそうになりながら飛び、ようやく聖界の岸に辿り着く。


 岸の上ですら枯れた草の残骸ばかりで寒々しい。


 膝を折って息を荒くしていると、頭上から声がした。


「帰ってきたのですね、ヴェルディエル」


 澄んだ、女性とも男性ともつかぬ声。


 ハッと頭を上げて声の主を確認した。


「エルヴィエル様!」


 エルヴィエル、と呼ばれたその聖族は虹の混じったような美しい翼を持ち、茶と白の髪を緩く結っていた。


 額にはヴェルディエルと同じく(ニンブス)が装着されており、その中心には前髪で隠れがちだが青い石が付いている。


 (ニンブス)の後側は唐草のようなデザインになっており、美しい。


 正直、その姿を見ても性別は分からない。辛うじて几帳面そうな性格だけは読み取れるだろうか。


 そんな彼……彼女かもしれないが、その人はヴェルディエルの前に舞い降りた。


「エルヴィエル様、申し訳ありません……接触はしましたが……」


 そこまでヴェルディエルが口にしたところで手で先を制される。


「見損ないました。接触した程度で帰ってくるなど……あの憎き魔王子の首どころか髪すら、ツノすらないとは」


 そう言うと、ヴェルディエルの槍がいつの間にか浮き上がり……一瞬でエルヴィエルの手元へと移っていた。


「恥晒しも良いところですよ」


 

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