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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅰ章 ストランド村編
9/55

(9)円卓の八人①

「……ふぅ」

 間に合った。

 寝起きに腹を踏まれ、膀胱(ぼうこう)を刺激されたからヤバかった。


 俺はスッキリしついでに顔を洗って洗面所を出た。


 村の建物は、中庭を半円で囲むように並んでいる。

 中庭の真ん中に大きな円テーブルが置かれ、丸太を切っただけの椅子が八つ置かれていた。

 そこに、一番左手の小屋――ファイの住まいの向かいの建物――から、ニーナや星野コスモが料理を運んでいる。


 その様子を眺めていると、再び容赦ない蹴りが尻に入った。

「てめえも働け! このゴミクズ!」

 俺を叩き起したあの女だ……顔立ちは可愛い部類に入るのだから、もう少し穏やかにすればモテるだろうに。


 しかし、ニーナかバルサが彼女を説得してくれたようで、命を狙われる事がなくなっただけマシと思うしかない。


 ……そして、テーブルに料理が並ぶと、各自席に着く。

 俺の右がファイで、左が尻蹴り女――俺が不審な動きをしないか、常に監視している。

 尻蹴り女から右回りに、バルサ、ニーナ、星野コスモ、「エドお姉ちゃん」と呼ばれていた長身の男。

 その右隣、ファイとの間の席は空いていた。


 テーブルに並ぶのは、麦粥に卵スープに、青菜炒めを添えられた豚――いや、オーク肉の角煮。

 見た目だけでなく、栄養バランスも整った料理から、食欲をそそる匂いの湯気が立っている。腹の虫の大合唱がおさまらない。


「さて、と。新しい仲間の紹介をしたいところだが、せっかくのチョーさんの料理が冷めては申し訳ない。食べながら自己紹介としよう」

 バルサの合図で、皆一斉に食事を始めた。


 俺も麦粥をスプーンですくう。すると思い切り左の(すね)を蹴られた。

「新入りが先に挨拶しねえでどうする」

 尻蹴り女が睨んでくる……一応「新入り」と認めてくれたようだ。


 俺は立ち上がり、ペコリと頭を下げた。

「あー、神代ヘヴンっス。十四歳っス」

「この世界での自己紹介はな、武器と能力を言うモンさ」

 麦粥をかき込む尻蹴り女に突っ込まれた。

「武器……? えと……、ペンと、紙?」

「ペンと紙?」

 クスッと笑ったのは、エド()()()()()だ。彼は物珍しげな目で俺を見た。

「ちょっと、斬新じゃない。見た事ないわね」

 ……言葉は女だが、見た目がイカついからどうにも慣れない。

「で、どうやって使うの?」

 エドに聞かれるが、俺はどう説明したものか頭を悩ませた。

「あー、紙にペンで、こうなって欲しいなーって事を書くと、何となくそんな感じになるっぽいんスけど、制約が多くて、例えば原稿用紙の書式を間違えると、赤い字がこう、バァーッて浮かんで、そんで……」


 俺を見るみんなの目が冷たい。絶対伝わってない。

 文字で書けば落ち着いて説明できるのに、口で話すと妙に早口になってまとまりがなくなる。小説家の(さが)だ(?)。


「……まぁいいや。じゃ、次はオレ。――オレはアニ。狩猟者(アマゾネス)さ。武器は翼弓・サルンガ」

 確かに、先程俺に向けていた弓は、翼のような変わった形をしていた。


 バルサとニーナは知っての通り。

 次は星野コスモだ。

「…………」

 だが彼女は、ニーナにペタリと張り付いて、俺に不審な目を向けて黙っている。

 ニーナが苦笑した。

「この子は星野コスモ。魔法少女(マジカルガール)よ。コスモの武器を、あのお兄さんに見せてあげて」


 その様子は、まるで母娘(おやこ)のようだ。

 だが、昨夜ファイは言っていた。ニーナたちの子供は、この世界でまだ見付かっていない。

 ならば、母のようにニーナに甘えるコスモは、どういう立場なのだろうか?


 するとコスモは仕方なさそうに、魔法のステッキを俺に見せた。

 そして説明する。

「先っぽのお星さまがね、マジカル☆キラキラ・シャイニングスター♪ って、こうするとね……」

 と、俺にステッキを向けた――途端。


 先端の星が閃光を放つ。それがまともに目を刺して、俺は()け反った。

「うわっ!」

 虹色に染まった視界に星が舞う。


 ――キラキラマジックでキラリンラーン。

 星の妖精が、俺の周りで歌い踊る。


 俺は思い出した。

 星野コスモの必殺技は、なんかよくわからん状態異常になって、戦闘不能に(おちい)るやつ。


「…………」


 平衡感覚が保てなくなり、俺は椅子から転げ落ちた。


   ____________

    【        ||

    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「……大丈夫?」

 目を開けると、ニーナが俺を見下ろしていた。回復魔法で状態異常を解除してくれたらしい。

「ごめんね。この子、まだ能力の加減ができないのよ」


 申し訳なさそうな顔をするニーナの背中にくっついて、コスモが俺の顔を覗いている。

「ね、コスモ。お兄ちゃんお怪我してないから大丈夫。でもね、失敗しちゃったら、ごめんなさいをするのよ」

「…………」

 だがコスモは、口を尖らせて見ているだけだ。

「ねえ、コスモ……」


 すると、コスモはブワッと泣き出した。

「わざとじゃないもん……」

「わざとじゃなくてもね……」

「コスモ悪くないもん!」


 困った様子のニーナに、俺は起き上がり笑って見せた。

「あ、大丈夫っス。このくらい、全然……」

「コスモ、こいつ嫌い!」


 ……なぜか嫌われたようだ。

 俺が何をしたと言うんだ?


 さすがにニーナも眉を上げる。

「コスモ、そういう言い方はいけないわ。きちんと謝りなさい」

「嫌だ! コスモ、こいつ嫌だ!」

 コスモはそう言うと、泣きながら走って行った。


 小さい背中を見送った後、ニーナは小さく溜息を吐いた。

「あの子ね、家族の温もりを知らないまま死んじゃったの」

「…………」

「私をお母さんの代わりと思って甘えてくるから、私も、その気持ちに応えてあげたいんだけど、難しいわ」


 そう言うと、ニーナは俺に顔を向けた。

「ファイに聞いたでしょ、私たちがどうしてこの世界に来たのか。そして、何を目的にこの世界で生きているのか」

 俺は小さくうなずいた。

「私たちの赤ちゃんもね、女の子だったの……生きていれば、ちょうどコスモと同じくらい。多分、私の中にも、コスモに私たちの赤ちゃんを重ねてる部分があるのよね」


 そう笑ったニーナの目に、涙が光っていた。

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