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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅰ章 ストランド村編
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(6)ストランド村へようこそ

 ――翌朝。

 俺は後悔していた。


 興奮して眠れなかったのだ。

 その上、書いた「小説」が地味すぎて、本当にその通りになったのか、確認ができない。

 ……ニーナとバルサはよく眠れたようなので、俺のおかげだと、自分を慰めておく。


 草原はひたすら広い。

 朝から散々歩いても、山陰ひとつ見えてこない。

 しかし、旅に慣れた二人に迷いはないようで、太陽の向かう方へと真っ直ぐに進んでいく。


 やがて、

「村はあそこだ。もうすぐ見えてくるぞ」

 と、バルサがそう指し示したが、俺には何も見えない。草原の彼方に、ぼんやりと山らしきものが見えてきただけなのだが。

「あの山の(ふもと)なのよ」

 ニーナの言葉に、俺は絶望した。


 それから二時間も歩いただろうか。

 ようやく村の形が見えてきた。


 丸太の塀が張り巡らされた向こうに、建物の屋根が見える。とはいえ、三角屋根は板葺きで、小屋と呼んだ方が相応(ふさわ)しい気がする。

 そんな屋根が四つほど並んだ横に、鐘楼(しょうろう)みたいな背の高い(やぐら)が建っていた。そこに掲げられた大きな旗に、麦の穂のような絵が描いてある。


「あれはね、この世界を旅する人に、ここには物々交換できる物がありますよ、って示すものなの」

「うちの村には麦畑があるから麦にしている。麦は貴重だからな。果樹園があれば果物の絵だし、狩人が多く住んでいればオークの顔だったりする」


 他にも、「道具屋」だったり「衣服屋」だったり、その場所によって様々な特産品を掲げているらしい。

 この世界にはお金というものが存在しないから、物々交換で旅人とやり取りをするそうだ。


「……と言っても、旅人が寄る事なんて、滅多にないけどね」

「宿屋もあるんスか?」

 何気なく聞いてみると、ニーナが言いにくそうに答えた。

「その人が盗賊でないっていう証拠なんかないから、旅人を村に入れる事はないわ」


 ――この世界では、武器が何より重要。

 武器の略奪を目的に侵入する賊が後を絶たないため、信頼の置ける仲間しか村には入れない事になっているという。

 他人の武器を奪う行為がルール違反でない以上、万全な警戒をしなければならないのだ。


「でも、俺は……」

 昨日会ったばかりで、信用されているとは思えないのだが。

 すると二人は、ジャージのポケットからはみ出した原稿用紙に目を向けた。


 ……つまり、こんな役立たずの武器で、ニーナやバルサを倒せるワケがない、と。


「あの、昨日の夜、俺、これの使い方を研究したんスよ。もしかしたら、スッゲー武器かも……」

「はいはい。みんな気さくな人たちばかりだから、ゆっくりしてくといいわ」


 村の前に到着すると、頑丈そうな丸太の門に「ストランド村」という看板が打ち付けてあるのが見えた。


 門扉の前で、バルサが叫ぶ。

「コスモ! エド! オーク肉の土産を持って来たぞ!」


 少しして、扉の向こうから声がした。

「ニーナが帰ってきたああ!」

 ……その声が子供のように甲高く舌足らずで、俺は首を傾げた。二人の子供だろうか?


 間もなく扉が開く。

 すると、声の主が飛び出してきた。

「ニーナああっ! コスモ、寂しかったよおお!」

 と、ニーナのローブにしがみ付く。やはり子供だ。五歳くらいの女の子。


 ……そして、何より目を引くのが、その格好だ。

 ツインテールを縦巻きして、ミニ丈のドレスを着ている。フリフリのフリルから伸びる足には、膝丈のブーツ。そこにも大きなリボンが揺れる。


 ――その姿を、俺は知っていた。

 何年か前に流行った幼女向けアニメ、『魔法少女 キラキラ☆コスモ』の主人公、星野コスモのコスプレである。


 この原始的な村に、あまりにも似合わない。世界観とのアンバランスさなら、ジャージにジーパンの俺より数段上だ。


 彼女はニーナのローブを掴んで訴える。

「コスモ、ニーナがいない間、エドお姉ちゃんと寝たんだよ。エドお姉ちゃんがお歌を歌ってくれたけど、全然知らない歌だから、コスモ、つまんなかった」


「あーら、酷いじゃない。髪の毛を丁寧に洗って可愛くセットしてあげたのに。コスモだって喜んでたじゃないの」


 女言葉の低い声は、門柱にもたれ掛かる背の高い男のものだ。

 ……この人が、エド()()()()()、なのだろうか……?


「エドが悲しんでるわよ」

 ニーナが苦笑すると、星野コスモは口を尖らせた。

「だって……」

 そう言う星野コスモの肩を、ニーナがギュッと抱く。

「ごめんね、遅くなっちゃって。今夜はニーナが、コスモの好きなお歌、歌ってあげるからね」


 やっぱり、二人の子供なのだろう。

 しかしそれなら、父親であるバルサが手持ち無沙汰に横に突っ立っているのに違和感がある。


 すると、俺がジロジロ見ているのに気付いたのだろう。星野コスモが俺に目を向けた。


「誰、こいつ?」


 ……幼女に「こいつ」呼ばわりされる俺……。


 膝から力が抜ける。

 そういえば、昨日からめちゃくちゃ歩いた。それに、一晩眠っていない。

 俺は疲れ果てていた。

 そこに、幼女の冷たい視線がトドメを刺した。


「あの……俺……ちょっと……休みたい……」


 気力が途切れ、俺はフラフラと門を抜けた。そして一番手前の小屋に入ると、奥にあったベッドに突っ伏し……意識が途切れた。

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