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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅲ章 インドラの杵編
49/55

(47)俺、危機一髪!①

 ……俺、ねぇ……。


 (おぼろ)げながらに浮かんだアイデアの登場人物に俺を据えて、俺は青くなった。

 ……いや逆に、こんな情けない役、他の人に任せられないだろう。俺がその役をやるのが、一番いいキャスティングなんだろうけど……。


 そして、半ば「赤ペンがダメ出ししますように!」と願いを込めながらもそれを書いたのだが、願い空しく、その文章は光の粒子となって空の彼方へ消えていった。


「…………」


 覚悟を決めるしかない。

 俺はため息を吐いた。


 オークの肉を荷車に積み込んだ後、俺たちは再び山を上りだした。

 もうすぐで頂上だ。そこまで行けば、川を渡れるはず……。


 ……と、そいつは唐突に空からやって来た。


「キィィー!」


 甲高い叫び声を上げて滑空する()()は、俺たちの頭上にやって来ると、俺を掴んで急浮上したのだ。


 ――ルフ。

 ゾウやサイをエサにするという、伝説の巨鳥。

 片方の翼だけで五メートルはある。


「ファルコン!」

 アニが叫ぶが、いかに勇猛な鷹でも、数百倍の質量のある怪物には敵わない。

 俺は為す術もなく天空の彼方、ルフの雛が待つ巣へと運ばれていくのだった……。


   ____________

    【        ||

    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ヤクの毛皮を何枚も繋げたような、大きな翼が点となって空に消える。

 それを見送って、アニは呆然と膝を地についた。


「…………」


 あっという間で、みんな言葉も出ない。


 ……もしかして、さっきオレが「早く強くなりたい」と言ったから、奴は自分を犠牲に、オレに試練を与えたんだろうか?


 そう思うと、胸が苦しくなる。

「きっと、そうだよ」

 アニの肩に、ファイが優しく手を置く。

「君が彼を助ける番だ」

「で、でも、オレだけで、どうやってあんな化け物を……!」


「好き、なんでしょ、彼の事」


 エドがそんな事を言うものだから、アニの顔は再び、火が噴くように赤くになった。

「べ、別に、そんなんじゃ……」

「誤魔化さなくてもいいのよ。アタシとアニの仲じゃない」


 そう言ってエドが優しく胸を貸すものだから、アニは涙を抑えられなくなってしまった。

「オ、オレ、こんな気持ちになったのが初めてで、どうしていいのか、分からなくて……」

「それが『恋』というモノよ。女の子だもの、誰だって通る道だわ」


 それに……と、エドは苦笑いを浮かべる。

「あの子、鈍感すぎるから」

 エドは繊細な指先で、アニのドレッドヘアを整える。

「鈍感な人に恋をするのは辛いわよね、分かるわぁ~」

「エドぉぉ~っ」


 グスンと鼻をすすってから、アニは顔を上げる。

 すると、エドが優しくも凛々しい顔でアニを見下ろしていた。

「恋の力って凄いのよ。今のアナタなら、あの化け物にだってきっと勝てるわ」


「ならまずは、彼が連れて行かれた先を探らなきゃね」

 ファイが額に手を当てて、精神を集中する。

 その間に、エドが地図に、目に見える範囲の地形を描き込んでいく。


「あいつの飛んで行った方向は、こっち。川を渡った先の、この山の頂上辺りだと思う。そこにあいつの巣があって、雛鳥がいるように見える」

 透視を終えたファイが、エドの描いた地図の一角を指す。


「なら、グズグズしている暇はない。あいつが雛のエサになる前に助けに行こう」

「彼は、私たちにとっても大切な人よ。サポートは任せて」

 バルサとニーナが立ち上がる。

「私も、恋の応援をさせてください!」

 マヤも植木鉢を抱えてアニを見た。


「……うん。行こう」

 アニはそう答えて涙を拭い、先頭に立って駆け出した。


 ……ところが。

 行く手は川に遮られた。


 ――渓谷。

 確かに、上流では川の幅自体は狭くなっているのだが、山肌が削られ、両岸が切り立った崖になっている。

 これでは、先に進めない。


「如意棒でピョーンと行くアルよ」

 チョーさんが提案するが、ニーナがブンブンと首を横に振った。

「あの時はたまたまうまくいっただけで、危険すぎるわ!」


「それに、それではヤクを連れて行けません」

 マヤがそう言って、みんなに植木鉢を示す。

「橋を架けます……もしかしたらこれで、私もスキルアップできるかもしれません」


 崖の端に植木鉢を置き、マヤはそれに手を掲げる。

「かずら橋というのがあるんです。(ツタ)(つる)を編み上げて作った吊り橋です。でもそれだけだと、向こう岸に支柱がないから支えられません。支柱がなくても橋を支えられるだけの強度のある木材……例えば、ケヤキなんかを組み合わせると、強い橋が作れるんじゃないかと」


 そう言う間に、植木鉢が光を発する。

 みるみるうちに蔓が伸び、絡まり、編まれていく。

 それはあっという間に対岸に届く長さになったが、崖にダランとぶら下がったままだ。


「……では、やってみますよ」


 再びマヤが植木鉢に手をかざす。

 するとさらに強烈な光が発し、蔓の橋を飲み込んでいく。


 ――そして、蔓がピンと張り、横向きに伸びたのだ!


 鋭く伸びた橋の先端が対岸の崖に突き刺さる。

 光が煙のように消えたその橋に、マヤが足を踏み出した。


「……大丈夫そうですよ」

 マヤはそう言って、橋の上でピョンピョンと跳ねて見せた。


「す、凄いわ、マヤちゃん……!」

 興味深げに橋を撫でるエドの横をすり抜けて、アニは対岸へとひとっ飛びに渡る。

 その後に、バルサとニーとナ、ヤクと荷車を押しながら他の四人が橋を行く。


 アニは鍛えられた脚力で、山の斜面を飛ぶように駆け上がった。

 彼女の後から、木々を縫うようにファルコンもついて来る。


 時は、夕刻近く。

 暗くなるまでそう間がない。

 森の中も既に薄暗く、ファルコンが何度も木にぶつかってしまっているほどだ。夜になったら、動けなくなるだろう。

 急がなければならない。


 だが再びアニは、足を止めざるを得なくなった。

 ――外からは見えなかったが、崖はひとつではなかったのだ。


 深く切り立った峡谷の向こうに、山の頂上が見えた。

 日は半ば落ちかけ、黒々とした稜線が夕焼け空を切り取っている。


 こんもりと木が覆い茂ったそこに、巨鳥(ルフ)の姿があった。

 アニは目を細めて観察する。


 ……そして、ルフの足元に、小さな――とはいえ、大人の人間ほどはある雛鳥が一羽と、それに弄ばれる少年――神代ヘヴンの姿を認めたのだった。

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