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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅲ章 インドラの杵編
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(46)原稿用紙の使い方

 未だ知らない、原稿用紙の使い方――!

 俺は驚いた。

 だがそれ以上に、原稿用紙なんてヘンテコリンな武器を与えられたヤツが、俺の他にいた事に驚いた。


「ふ、二人目……!?」


 手ぬぐいを絞って体を拭きながら、法心は星空を見上げる。

「珍しい名前だったから覚えてるぞ。確か、アクタガワと言ったかな」


 原稿用紙、つまり小説家で芥川(アクタガワ)と言えば、龍之介しか思い付かない!

 俺はひっくり返りそうになった。


「ででででで! そその、芥川さんは、どんな風にこの原稿用紙を使ってたんですかああ??」

 キョドりまくる俺に苦笑しつつ、法心は答えた。


()の御仁は、原稿用紙を能力向上(スキルアップ)に使っていたぞ」


 俺は愕然とした。

 そんな原稿用紙の使い方を、考えた事がなかった。


 法心は法衣に袖を通し、続ける。

「他人の能力向上をして、見返りに食うものを貢がせていたようだが、そのうち精神を病んで、筆を折ってしまった」

「…………」


 創作家というのは、突き詰めると、そういうところがあるらしい。

 底辺作家である俺には、到底たどり着けない境地だが。


 俺はボリボリと頭を掻きながら考えた。

 スキルアップ、か……。

 ゲームで言うなら、経験値が貯まって「〇〇のスキルのレベルが上昇した!」というヤツだろう。


 だが以前――星野コスモが命を落とす直前、俺は原稿用紙にコスモが助かるよう書いたのだが、赤ペンは

 【転生者への直接の干渉はできません。】

 と、素気なく返してきた。


 スキルアップは、転生者への干渉になるのではないのか?


 その疑問を法心に投げてみると、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


()()()ではく、()()()()干渉なら、問題ない」


 目からウロコだった。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()させれば能力を上げられる、というワケだ!!


 俺は興奮した。

「凄いよ! おじさん、凄いよ!!」

「おじさんと気安く呼ぶな!」


   ____________

    【        ||

    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 その夜は、法心も含めて九人で焚き火を囲んで眠ったのだが、翌朝、朝食を済ませると、

「次なる修行に出る」

 と言って、どこかに旅立っていった。


 それにしても、彼から得た情報は、俺たちに敵意を向けてきたお詫びと、チョーさんの食事の対価としても、余りあるほどに大きなものだった。

 旅支度をしながら、俺は考えていた。


 スキルアップ、かぁ……。


 みんな、今よりも強力なスキルが使えるようになったら喜ぶだろう。

 でも、それにはそれなりの試練を乗り越えなくてはならない。

 危険のない程度で、赤ペンを納得させるだけの試練、か……。


 準備が整い、ヤクの引く荷車を押して歩きながら、俺はみんなに聞いてみた。

「スキルアップできるとしたら、どんなのがいい?」


 最初に答えたのはバルサだ。

「純粋に、もっと強くなりたい」


「私は、無詠唱で魔法が使えるようになりたいわ」

 ニーナが苦笑する……確かに、毎回早口で呪文を唱えるのは大変そうだ。


「私、こんな事ができたらいいな、と思ってる事があって……植物を掛け合わせるんです。例えば、サクラとモクレンを掛け合わせたら、どんな花が咲くんだろう、とか」

 マヤが楽しそうに言った。


「アタシは、髪の毛以外もスタイリングできるようになりたいわね。彫刻なんて面白そう」

 芸術家志向の高いエドらしい希望だ。


「オレは、もっと遠くが見える目が欲しい。どんな獲物も見逃さない鷹の目(ホーク・アイ)が」

 スニフ爺さんの形見の眼帯を触って、アニが答える。


「ワタシ、もっとお客さんが欲しいアル。もっとワタシの美味しい料理を食べさせたいアル」

「それはちょっと違う気が……」


「ファイは何かないの?」

 俺の隣で黙っているファイに聞くと、彼は小さく首を横に振った。

「この世界に来てから、みんなより少し体は弱いけれど、こうして一緒に旅ができてる事で、僕は幸せなんだ」

 そう言ってから、ファイはマヤに笑顔を向ける。

「マヤの出してくれるオタネニンジンのおかげで、あまり熱も出さなくなったし」


 ……とりあえず、バルサ、ニーナ、マヤ、エド、アニ、五人分の、スキルアップに適したイベントを考える、か……。

 異世界転生モノらしくなってきた。

 俺はワクワクしてきた。


 昼食休憩の時、俺は原稿用紙に向き合った。

 まずはバルサ。雑な筋書きだが、「純粋に強くなりたい」というバルサの希望なら、こうするのが一番だろう。

 ――しかし、少々危険が伴う。

 躊躇しながらも筋書きを書き切ると、原稿用紙の文字は光の粒子となって、森の奥に消えていった。


 ……始まってしまう……。


「みんな、よく聞いてくれ。これから野生のオークの群れが……」

 俺が言い切るより、ドドドド……という地響きの方が早かった。


 野生のオークの集団が、俺たちに向かって突進してきたのだ。

 その数、五十は下らない。


 ……しまった、数を指定するのを忘れた。赤ペンは俺のイメージよりもやり過ぎるんだった……。


 だが、先陣を切ったバルサは怯んでいなかった。

「任せておけ。俺が何とかする」


 エクスカリバーが唸りを上げる。


 バルサの獅子奮迅(ししふんじん)の戦いぶりは凄まじかった。

 対・法心戦で、全くいいところを見せられなかった反動もあるだろう。

 ……いや、そんなものじゃない。

 彼が暴漢から守れなかった、愛する妻と子供に対する思いが、その一振り一振りに込められているようにも見える。


 そんな鋼の暴風を前に、オークの巨体が血飛沫を上げながら、次から次へと肉片と化していく。


 だが、いくらバルサが強靭な戦士であっても、五十体という数は多過ぎた。

 疲れが出た一瞬を突かれ、棍棒で頭を殴られてしまう。

 意識が飛んだのが、傍から見ていても分かった。

 そんなバルサの頭上を、別のオークの棍棒が狙う――ヤバい!


「バルサ!」

 咄嗟にニーナが杖を振る。

 夫の身を案じる思いがそのままカドゥケウスに伝わり、強烈な一筋の光がバルサを貫いた。


 途端にバルサは意識を取り戻した。

 そして、

「オルアアアアアア!!」

 と、前よりも威力を増した剣撃で、二頭のオークを一閃で真っ二つにする。


 ――一石二鳥。

 妻を守りたい思いと、夫を守りたい思いが重なり、二人のスキルが同時にアップしたのだ。

 我ながら、名脚本だ……少しやり過ぎだけど。


 その後、ニーナの補佐がありながらも、バルサは一人でオークの群れを片付けてしまった。

 オークの数を見た時には、エドやチョーさんの助力を頼まなくてはいけないかと思ったが、バルサは本当に強かった。


 血の滴るエクスカリバーを肩に担ぎ、荒く息をしながらも、バルサは満足そうに言った。

「これからは、『聖剣の守護者ガーディアンオブエクスカリバー』と名乗る事にする」

「なら私は『癒杖の守護者ガーディアンオブカドゥケウス』ね」


 守護者――つまりは、保護者。

 バルサがニーナを、ニーナがバルサを、それぞれ守ると同時に、彼らの未だ会えていない子供を求めている強い気持ちが伝わってくるような気がした。


 一段落した後。

 オークは貴重な食材でもある。

 みんなでオークを解体して、食べられそうな部位を集めている時。

 アニが俺に言ってきた。

「オレも早く強くなりてえんだ。何か考えてくれよ」


 アニがスキルアップするための物語、か……。

 バルサとニーナがうまくいったのを分析してみると、「大切な人をピンチから守る」というのが、王道パターンな気がする。

 なら……。


「アニが一番大切な人って、誰だ?」


 するとアニが突然、俺をぶん殴ってきた。

「痛え!」

 尻もちをついて涙目で睨むと、アニは顔を真っ赤にして俺を見下ろした。

「て、てめえには、デリカシーというモンがねーのか!」


 ……アニの口から、デリカシーという言葉が出てくるのが意外すぎた。

 唖然と俺が見上げていると、アニはぷいとそっぽを向いた。


「ど、どうしても一人、決めなきゃいけないのなら、おめえにしてやる……リーダーだからな、おめえが死ぬのが一番困る」

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