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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅱ章 甲鉄機兵編
37/55

(36)覚醒

「ねえ、覚醒って、どうなるの?」

 エドが俺に聞いた。

「活動限界時間が延びる」

「それだけ?」

「いや……」


 俺は第三シリーズにはあまり詳しくはなかった。

 俺がまだ小さい頃の作品だし、「覚醒」というシステムとその後の展開が賛否両論で、あまり人気のないシリーズだったからだ。

 でも、一通り履修したから、何とか記憶を辿る。


 その間にも、フォートリオンは形態変化を遂げていく。

 トビウオの翼を広げた虹色のオーラが、表面の鱗模様を伝って全身に広がる。


 それを見て、俺は思い出した。


 ――自己修復機能が現出し、何とかいうシステムで、パワーとスピードが数十倍になる。

 そして――。


「パイロットが、機体に吸収される」

「……え?」

「第三シリーズ以降の設定で、人間はトリオンエネルギーの塊というのがあるんだ。パイロットを吸収する事で、フォートリオンは爆発的なエネルギーを獲得する」

「そんな事をしたら……!」


 劇中で、主人公の恋人であるヒロインが泣き叫んでいた。

「やめて……! 人間でなくなってしまう――!!」


 虹色のオーラが巨体を包み、角が再生する。多分、右側のカメラも復旧しただろう。

 そして、フォートリオンが吠えた。


「ヴオオオオオオーー!!」


 空に穴が穿たれる。森が渦を巻く。


「……ヤバい、ヤバいぞ……」

「同意ね」


 これは想定外だった。

 初代の設定だけじゃなかったのかよ……!


 第三シリーズの何がいまいちだったかって、主人公がチートになりすぎたから。

 ラスボスの機体を片手で叩き潰しただけではおさまらず、暴走して地球滅亡レベルのダメージを与えた末、地球連盟総帥となったヒロインの指示で、核ミサイルを何十発か食らって爆死。

 あまりの鬱展開に、公開後のレビューは非難轟々(ひなんごうごう)だったらしい。


 ――そんな奴を、俺ら四人でどうしろと?


 フォートリオンの肩の蓋が開く。そこから飛び出した虹色の光を見て、俺は蒼白になった。


 ポジトロン・メガサイクル遊撃砲――!


 第三シリーズの覚醒状態で、初代劇場版の最強武器を使うなんて、こんなの聞いてない。

 俺はヤケっぱちで原稿用紙に書き殴った。


 〖ポジトロン砲の対象はトリオンアーマーのみだから、生身の人間には当たらない!〗


 文字は消えた。俺が胸を撫で下ろすと同時に、少し先の森から激しい爆発音が轟く。ポジトロン砲が墜落したのだ。

 吹き荒れる爆風。木の枝が吹き飛ぶ。

 大きな木にしがみ付かないと、立っていられないほどだ。

 その中で、俺は必死にボールペンを走らせる。


 〖初代フォートリオンに、第三シリーズの覚醒は適応されない。〗


 すると、赤ペンは答えた。


 【第三シリーズのフォートリオンは、初代フォートリオンの残骸を修復した設定となっており、世界観が繋がっている以上、不自然な現象ではありません。】


 何で赤ペンが、俺よりフォートリオンに詳しいんだよ!


「どうすんだよこれ!」

 アニとバルサがやって来た。

「…………」

 俺は頭を掻きむしった。


 マヤなら何とかできるかもしれないと筋書きを考えたが、あれは覚醒以前の話だ。

 物語を書いた時と実際の状況が大きく違った場合、一体どうなるんだ……??


 だが、呑気に考えている余裕などなかった。

 素早い動きで、ビームソードが俺たちの頭上に落ちようとしていたのだ。


「…………!」

 反応すらできない。迫り来る虹色の狂気を見上げ、無言で死を覚悟する。


 ――と、その向こうの空の彼方で何かが光った。

 それは彗星のように、こちらに向かい高速で飛んでくる。

 そして、声がした。

「……ょ、ゎれらにダイヤモンドの加護をおおおお!!!!」


 それがニーナの魔法だと気付いたのと同時だった。


 ――ゴン。


 フォートリオンの後頭部に、三つの輝きが直撃した。

 ニーナの防御魔法(十秒だけダイヤモンドに変身して、全てのダメージを無効化するやつ)で石化した、ニーナとファイとチョーさんだ!


 思わぬ方向からの強烈な打撃を受け、さすがの覚醒フォートリオンもバランスを崩す。

 その巨体を支えるため、ビームソードを森に突き立てて杖にした。


 ……よく分からんけど、助かった……。


 状況が理解できないうちに、三人は地面に墜落し、直後に魔法が解けた。

 フォートリオン――ハヤテは、状況が理解できていないようだ。

 身を起こし後ろを向いた、次の瞬間。


 ビュン。


 フォートリオンの胸に、何かが突き刺さる。

 それがチョーさんの如意棒だと気付くまでに、しばらく時間が必要だった。


「…………」


 何がなんだか分からない。

 俺だけじゃない。バルサもエドもアニも、しばらく呆然と、その光景を眺めた。


 如意棒はフォートリオンの背中まで貫通した。

 ハヤテが言っていた……鋼板が薄いと。

 だから、バネのしなりで飛んできた如意棒を防げなかったのだ。


 如意棒が貫いたのは、ちょうどコクピットのある位置。人間で言えば心臓に当たる。

 コクピットの中のパイロットは、無事であるはずがない……もし、そこにいるのなら。

 

 槍に貫かれた騎士のように、のけ反った姿勢で静止したフォートリオン。

 膝を折り、如意棒に支えられるように脱力している。


「……やった、のか……?」

 バルサが呟いた。


「間に合ったようだね」

 そこにやって来たのは、ファイだ。

「想像以上にうまく事が運んだようだけど、もしかして、これも君の筋書きだったのかな?」


 俺はブンブンと首を横に振って否定する。

 むしろ、赤ペンが

 【無理です。】

 とハネそうな事を現実にやってしまうのは、俺の立場がないからやめて欲しい。


「良かったわ、みんな無事で」

 ニーナが微笑んだ。

「如意棒、どうやって回収するアルか?」

 チョーさんは不安げだ。


 みんなでフォートリオンを見上げる。

 その時、エドが低い声で囁いた。

「……目の光が消えてないわ」


 状況の超展開で、俺は気付かなかった。

 ドクンと心臓が打ち、冷や汗が滝のように背中を流れた。


 巨体がグラリと揺れる。

 こちらを振り向き見下ろす目の色が、赤から虹色に変化した。

 そして自ら如意棒を引き抜いて、凄まじい勢いでこちらに投げ付けたのだ。


「サイコキネシス!!」


 ファイがいなければ、俺の顔面に穴が開いていただろう。

 目の前数センチで静止した如意棒の先端に目を向けて、俺は腰が砕けて座り込んだ。


「……もういいよ。みんな、壊してやる」

 再び、ハヤテの声が森に響いた。

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