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フォートリオンの目がギョロリと動く。
バルサとエドが武器を構えているのを見て、白鱗色の手が、腕に収納されたビームソードを抜き放つ。
それを見て、俺の背筋を冷や汗が伝う。
トリオン粒子を放出し、粒子同士をぶつけ合わせ科学反応を起こす事によって、太陽よりも高温になる……という設定のビームソードだ。
万一生身で触れでもしたら、武器どころか、体も一瞬で蒸発してしまう!
そして、フォートリオンの武器は他にもある。
ポジトロン・メガサイクル遊撃砲。
これは、一旦放たれれば着弾するまで追撃してくる。これだけは、何としても発射を阻止しないとヤバい!
俺は原稿用紙に書き殴る。
〖謎の力でフォートリオンの武器が使えなくなる。〗
【謎の力という表現は曖昧すぎて不自然です。】
「ですよね……」
でも、外的な要因を加えるには、生身の人間対巨大ロボットでは差がありすぎて、何をしたって不自然じゃないか。
――その時。
木に登り身を隠していたアニが弓を引き絞った。
そして、矢が一直線に放たれる。
矢は真っ直ぐにフォートリオンの側頭部に向かい、こめかみのカメラを射抜いた。
「――――!」
確かに、あそこにはよく見るとそれっぽいものが付いているのが分かる。窪んんだ形で付いているから、戦闘中の衝撃には強い、という事になっているのだが、真正面からピンポイントを矢で射られるという設定は、さすが考慮されていないようだ。
だけど普通、「目」で見てると思うだろう。
まさか、カメラの位置を見抜くとは。そして、わずか数センチのカメラを射抜くとは――!
翼弓サルンガ使いの射手、恐るべし。
「右目を壊した! 右側が死角になったぞ!」
アニの声が響く。
すると、フォートリオンの腕が動いた。
ビームソードを薙ぎ払う。
森の木々が次々に真っ二つに叩き折られる。先端が宙を飛んで落下し、土煙を上げる。
「アニ! 危ない!」
俺は叫んだが、
「いつまでも同じ場所にいると思ってんのか、ボーケ」
と、頭上で声がした。
アニは枝の上に立って、俺を見下ろしていた。
「バルサとエドが囮になってくれてる間に、左目も潰してくる」
アニはそう言うと、軽々と木のてっぺんまで登っていく。
俺はフォートリオンの足元に目を戻した。
バルサとエドが、巨体を煽るように走り回っている。
それを踏み潰そうと、フォートリオンは片足を上げ、思い切り踏み付けた。
「行っけええええ!!」
そう叫んだのはエドだ。
次の瞬間、バルサが跳ね上がり宙に飛び出した。
「????」
そして、俺は理解した。
――シーソーだ。
倒木を組み合わせて、いつの間にかシーソーを作っていたのだ。
その片方をフォートリオンが思い切り踏んづけたから、もう片方に乗っていたバルサが飛び上がったのだ。
……何だ、このインド映画みたいなアクション。
バルサは直立不動の姿勢で飛び上がって、フォートリオンの頭上に到達する。
そしてエクスカリバーを閃かせた。
「――――!!」
彼が狙ったのは、フォートリオンの頭に付いてる、潰したH字型の角。
これは、トリオンエネルギーを宇宙空間から受容するためのアンテナなのだが、なぜバルサがそれを知っているんだ?
俺が疑問に思う間に、バルサは刃に気迫を込める。
「うりゃああああ!!」
エクスカリバーが角を両断する。火花が散って、角の先端は弧を描いて落ちていく。
それに比べ、フォートリオンの動きは鈍い。
アニメでは目にも止まらぬ動きをするのだが、さすがにあの動きを再現するまでの能力は、ハヤテにはなかったのだろう。
額に手を当てようとするフォートリオンの腕に着地し、滑り台のように踏みしめた脚を滑り下りて、バルサは着地した。
「…………」
気付くと、エドがすぐ横に立っていた――独特な形で胸に手を当てている。
これは、カイ・タケダの所属する組織の、敬礼兼合言葉となるポーズだ。
俺は理解した。
エドも「フォーオタ」だったのだ!
だから、カメラの位置も、額の角の意味も知っていた。
アニやバルサの攻撃でも的確にダメージを与えられる方法を考え、彼はそれを、実行可能な方法で指示した。
……指揮官役の俺の立場がないじゃないか!
「実際にトリオンエネルギーなんてものがあるとは思えないけど、きっと機体は、エネルギー補給が絶たれたという判断をすると思うわ」
劇場版にその描写はあった。
エネルギー補給が絶たれたフォートリオンの活動限界は、二分。
けれど……。
「第三シリーズのフォートリオンは、主人公の覚醒で、活動限界を超えてたぜ」
「……ごめん、初代しか興味ないの」
だが確実に、フォートリオンは弱っている。
ハヤテの体力も、そう長くは続かないだろう。
――ところが。
フォートリオンの外部通信がオンになる。
ハヤテの声が森に響いた。
「……何で、俺の邪魔をするんだ……」
「いい加減諦めろ。小さく作り替えればいいだろ」
そう答えたのはバルサだ。
……フォートリオンを知らないから、そう考えるのだろう。
トリオンエネルギーとは、宇宙そのもの。
宇宙は膨張しこそすれ、決して縮小する事はないのだ。
「俺は……俺は……誰が何と言おうと、進むんだ――ッ!!」
ハヤテの叫びと同時に、フォートリオンの目が赤く変化した。
俺は息を呑む。
――覚醒したのだ。




