表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅱ章 甲鉄機兵編
35/55

(34)約束

 フォートリオンは座った状態だったから、落ちたと言ってもさほどの高さはなかった。

 けれど、バルサが俺を受け止めてくれなかったら、しばらく呼吸ができなかっただろう。


「ごめん……」

「分かった。俺らはどうすればいい?」

 俺を立たせると、バルサは立ち上がりつつあるフォートリオンを見上げた。


 コクピットの扉が閉じ、両目が青く光る。

 二十五メートルの巨体が見下ろす迫力は、腰を抜かしそうになるほどだ。


 俺は、バルサの周りに集まってきたみんなに言った。

「とりあえず、足止めをするしかない」

「けど、こんなんどうやって?」


 俺は必死で記憶を探った。

 フォートリオンの弱点。何かあった気がする。


 劇場版の中盤。皇女を救出して森に逃げ込んだ後。

 フォートリオンがなぜか動かず、カイ・タケダは皇女を奪い返されてしまう。

 「動け! 動いてくれ!」とコクピットで叫ぶ名シーン。

 あれは、何で動かないんだったっけな……。


「――そうだ!」

「何だ!?」

「鳥だ!!」

「鳥?」


 俺は説明した。

 敵の策略で、森じゅうの鳥が一斉に飛び立ち、それを安全装置が異常と感知。全システムが停止したのだ!


「だけど、そんなの……」

「ファルコオオオン!!」


 原稿用紙に書いてる暇はない。

 俺の言葉を理解したのか、ファルコンがアニの肩当てから飛び立った。


 ――キィヤァー!!


 低空飛行する鷹が威嚇(いかく)する鋭い声。

 と同時に、森じゅうから羽ばたきの音が聞こえた。

 スズメかムクドリみたいなのから、カラスやカモみたいなのまで。

 無数の鳥が一斉に木々から飛び出す。


 ブースターから翼を広げ、今まさに飛び立とうとしていたフォートリオンは、黒い影に取り囲まれて動きを止める。

 途端に、虹色に光っていた翼は色を失い、青い目も光を消した。


 ――やった!!


 ファルコンがアニのところへ戻ってきて、得意気にピィと鳴いた。


 だが、あまり余裕はない。

 緊急停止から再起動するまで、確か三分しかない。

 それに、同じ作戦は何度も使えるものじゃない。

 再起動までの間に、次の作戦を練らなければならない。


 ……とはいえ、最悪の事態の結末は、薄々考えてはいた。

 どうやら、それに向けた準備をするしかないようだ。


 俺はみんなに指示をする。

「結末にはマヤの存在が必要だ。でもいくら急いでも、彼女がここに来るまでに三分以上はかかるだろう。その間に奴が飛び立たないよう、何とかしてくれないか?」


「……分かったよ」

 最初に返事をしたのはアニだった。

「やれるだけの事はやる」

 バルサがエクスカリバーを抜く。

「仕方ないわね」

 エドのシザーハンドが光る。


 無茶なのは承知している。

 だが、そんな無茶に乗ってくれる仲間の頼もしさは、何物にも変え難い。


 ――あとは、俺の『物語』を作り上げるまで。


 だが、原稿用紙を広げる前に、まずやるべき事があった。

「ファルコン、もうひと仕事頼む。ダーダル村まで行って欲しい。おまえの翼なら、一分もあれば行けるだろう」


 ファルコンを見送った後、他の三人は各自、フォートリオンを取り囲む位置に陣取った。


 俺は少し下がり、原稿用紙を宙に開く。

 そして、真っ先に書いた。


 〖今日の夕食は、七人みんなで美味しく食べる。〗


 ――書いた文字が光って消えた。

 これで、仲間三人が命を落としたり、大怪我をしたりする事はないはずだ。


 それから俺は、フォートリオンを、ハヤテを止めるための筋書きを書き記した。

 何度かミスったが、二分ほどで書き終える。

 全ての文章が原稿用紙から消えたところで、俺は顔を上げた。


 ――フォートリオンの青い目が、光を取り戻していた。


   ____________

    【        ||

    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ――その頃。

 洞窟にいたファイは、急にヤクが立ち上がったから驚いた。

 そして、すぐに察した。


 ……ヘヴンの能力(ストーリーテラー)だ。


 だが、と、彼は眉をひそめる。

 彼の持つ『第六感』が《《焦り》》を感知したのだ。これはどういう意味だろう?


 ヤクはトコトコと洞窟を出ていく。

 追いかけてみると、村に向かう道を小走りに進んでいくようだった。


「私たちも行った方がいいかしら?」

 ニーナが言うが、ファイは首を横に振った。

「それならそれと、彼からもう少し分かりやすい指示が来ると思うんだ。それがないという事は、僕たちは村に向かうべきじゃないと思う」


 ファイはそう言ってから、ヘヴンたちが向かった方角に目を向けた。

 森は霞んで、遠くはよく見えない。


 しかし、先程一瞬感じた、嫌な感覚が気になる。


「僕たちが向かうとしたら、あっちじゃないかな。そんな気がする」

「今から歩いて行くの?」

「いや、それじゃ多分間に合わない。何かいい方法はないかな?」


 それに答えたのはチョーさんだ。

「如意棒、使うといいネ」


 それには、ニーナが不審な顔をした。

「如意棒でどうやって?」

「長ーく伸ばして、地面について、ピョーンと行くアルね」

 ……要するに、スケールが大きい棒幅跳びだ。


 ちょっと想像がつかないが、選り好みをしている余裕はない気がする。

「やってみよう」


 ファイがそう言うと、チョーさんは前掛けに挟んだ麺棒を取り出し、くるりと回した。


 ――するとその長さは無限に伸びていく。

 しかし、チョーさんが片手で持っているところを見ると、質量に変化はないようだ。どういう仕組みなのか、まるきり分からない。


 それを横に持ち、チョーさんはだが首を(かし)げた。

「三人行くとなると、ちょっと走る勢い足りないアルね」

「分かったわ」

 ニーナが如意棒と三人に補助魔法を掛ける。


 ――そして三人は、如意棒を持って一斉に走り出した。


 チョーさんを先頭に、ファイが続き、ニーナが後を追う。

 生きている時は走るどころ立つ事もできなかったし、この世界に来てからもアクティブな動きとは無縁でやってきた。


 だからファイは、とんでもないスピードについていけずに浮き上がった。

「うわあ!」

「ちょっと、魔法が強すぎたかしら!」

「このくらいでないと飛べないアルよ!」


 チョーさんが腕を振る。

 如意棒がしなって、先端が彼方の森へ突立ったようだ。


「アイヤー!!」


 すると、しなった如意棒がバネとなって、三人を宙に弾き飛ばした。


「棒、離すダメアルよ! 死ぬよおーー!!」

「イヤアアアアーー!!」

「わああああ!!」


 如意棒は、しがみ付く三人を雲の上に押し上げた。

 冷たい風が全身を包む。

 そして、頂点で一瞬スピードが緩むと、次は重力のままに降下した。


「キャアアアアーー!!」

「…………」

「アーイーヤーー!!」


 そして――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ