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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅱ章 甲鉄機兵編
33/55

(32)白金の鬼神

 翌日の朝は、快晴だった。

 森に残る湿り気が(もや)となって木々を包み、小高い岩山にある洞窟から見下ろせば、幻想的な絶景だ。


 朝食を済ませて出かける前、ファイが洞窟の前で目を閉じ、額に手を当てる。


 ――透視だ。


 ハヤテがどの方角に進んだのかが分かれば、手っ取り早く追い付ける。

 しばらく集中した後、ファイは目を開いた。


「こっち。太陽が昇る方角だよ。七キロほど先かな。彼は今、疲れ果てて眠っているようだ。今ならすぐに追い付ける」


 ……アニを先頭に森を行く。

 この辺りは起伏が少なく歩きやすい。

 常緑の針葉樹が多くて、落ち葉や下草が少ないのも助かる。張られた枝が屋根を作り、森の中が薄暗いからだ。

 細い木漏れ日と共に降り注ぐ、小鳥のさえずりが心地よい。

 俺たちはそんな中を、苔むした土を踏みしめて進んでいく。


 少し行くと、突然明るい場所に出た。

 何本かの木が倒れているのだ。まるで踏み潰されたように、根元が粉砕している。

 地面にも(くぼ)みが穿(うが)たれて、昨日の雨水が溜まってちょっとした池になっていた。

 俺はゴクリと唾を飲んだ。


 ――フォートリオンの足跡だ。


 ふたつ並んだその形を見て、俺は推察した。

 フォートリオンは二足歩行で移動してはいない。両足で着地しているからだ。

 多分フォートリオンは、半飛行状態で移動している。ブーストで浮力を補いつつ、両脚でジャンプしながら前進、って感じ。

 二足歩行するには、背の高い森の木が邪魔だし、ずっと飛行するだけの体力は続かないからだろう。


 案の定、もう何百メートルも進むと、同じような足跡があった。


 それを見ながら、俺はゾッとした。

 ――体力がないから、今は移動だけで苦労している。

 しかし、実際に移動できるまでの性能を有した巨大ロボットとして、確実に存在しているのだ。


 ……これがもし、エインヘリアルの手に渡り、無限の動力を手に入れたら……。


 他のみんなも、同じ事を考えたに違いない。

「急ぐぞ」

 とバルサが言うと、みんな黙々と足を進めた。


 ――そして間もなく、「それ」が目に入った。


 背の高い針葉樹に隠れるように、膝を折り佇んでいる。

 俺には分かった。待機状態の安定姿勢だ。


 正面から陽光を浴びて眩く輝く、白鱗色(プラチナスケイル)の機体。

 劇中で「白金の鬼神」と称される、主人公専用機だ。


 「甲鉄機兵フォートリオン」の「フォー」は、うお座の恒星・フォーマルハウトから。「トリオン」とは、無限を意味する、宇宙空間に存在する謎のエネルギー体の総称だ。


 うお座から、フォートリオンのデザインはトビウオをイメージしたものになっている。表層に鱗のような模様があるのもその一部。

 背中のブースターから翼が展開されると、トビウオの羽のように開く――それが半透明でめちゃくちゃカッコいいのだ。


 額には、うお座のシンボルマークを模した、Hを潰したような形の角がある。それで宇宙からトリオンを吸収するのだ。


 何年か前に、お台場に実寸大フォートリオンが造られたが、見に行ってみると、発射台に据え付けられたバカデカい人形で、あまり感動はしなかった。

 けれど、これはヤバい。質感がヤバい。圧倒的存在感、圧倒的輝き。


 革命軍に利用されそうになる心優しい皇女を救出し、追っ手を逃れ森に隠れる劇中の有名なシーンの、佇む姿勢や光の当たり方まで完璧。語彙力喪失。

 マヤには悪いが、村人たちに迷惑を掛けて嫌われても、この機体に全てを費やしたハヤテの気持ちが、俺には理解できてしまう……。


「カッケぇ……」

 見とれていると、アニに尻を蹴り上げられた。

「バカか! こんなモンを放置しといたら、大変な事になるぞ!」


 ――確かに。

 アニメでは正義感が強いゆえに、やや暴走気味な主人公が乗る機体。

 ハヤテのような歪んだ欲望のままに突っ走ったら、マジでシャレにならない。

 かと言って、これだけのものを壊してしまうのは、あまりに惜しい。


 それにそれは、ハヤテの死を意味する。


 ならば、選択肢はひとつ。


「説得には俺が行く」

 俺は、フォートリオンに向かって歩きだした。


   ____________

    【        ||

    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 正面から見上げるフォートリオンは、マジでヤバかった。

 森の静寂の中にひざまずく白金の鬼神。

 これで鳥肌が立たなかったらオタクじゃない。


 またしばらく見とれていたら、背中にアニの殺気を感じて、俺は慌てて声を上げた。


「すいませーん!」


 ……返事はない。

 俺はもう一度息を吸った。


「このフォートリオン、ガチヤバなんですが! 凄すぎて語彙力死んで申し訳ないんですが!」


 ――すると、コクピットの扉が開いた。

 操縦席に座るのは、フォートリオンパイロット専用アーマースーツを身に付けた男の子。

 俺と同い年くらいだろう。


 彼は身を起こして俺を見下ろした。

「フォートリオンの良さを知ってる人に、この世界で出会えるとはー!!」


「初代は、去年リメイクした映画を五回見たっス! やっぱ初代が最高っス! 次に最高なのが、七作目のラスボス専用トリオンアーマーっス! 異論は認める!」

「異論なし! 語ろうぜ!」


 フォートリオンの腕が動く。

 地面に置かれた手のひらによじ乗ると、コクピットまで引き上げられた。


 アーマースーツ姿の彼は、コクピットの扉に出てきて俺を迎える。

 そして、ヘルメットを外して握手を求めた。


「俺は、この世界での名は、カイ・タケダ。向こうの世界ではハヤテって名前だった。よろしくな!」

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