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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅱ章 甲鉄機兵編
32/55

(31)甲鉄機兵フォートリオン②

 夕方になって、ようやく雨が上がった。


 一番元気そうなエドとアニが森に食材を取りに行き、俺たちはチョーさんの作った薬膳スープを飲みながら、今後の事を話し合う事にした。


「……にしても、何というか……」

「臭えし、味が独特すぎる。苦いのか甘いのか、どっちかにしてほしい」

「文句言わずに飲むアル。オタネニンジン、最高級の薬草ヨ」


 焚き火を囲んで、俺とバルサ、ニーナが向き合う。

 チョーさんは夕食の下ごしらえに入り、ファイは熱はだいぶ下がったものの、まだ眠っている。


 味はともかく、温かい飲み物はありがたい。

 俺はカップを両手で包んだ。


「……にしても、アニが蹴ってくるから言うのを我慢してたけどさ、ハヤテって奴、クズ中のクズじゃねえか」

「俺もそう思った」

 バルサがズズズ……とスープを啜りながら俺に同意した。

「それでも『お兄ちゃん』って心配してるマヤちゃんが可哀想だわ」

 ニーナもスープカップを手に、複雑な表情をする。


「だが、感情論で語ってもどうにもならん。マヤを助けるには、バカ兄貴を止めなきゃならん」

「それ、なんだけどさ……」


 俺はスープをゴクリと飲んで真顔になる。

「フォートリオンの設定通りに動くとしたら、あれ、ヤバい性能を持ってるぜ」

「どんな?」

「音速で走れるし、背中のブーストを使えば光速で飛べる」

「…………」

「戦闘装備だと、ビームソードにポジトロン誘導砲、あとマキシマスキャノンが標準装備で、宇宙空間でも活動できる。一昨日出て行ったんだろ? 地球を三周して、月にまで行ってそうな気がするんだが……」

「性能についてはよく分からないけど、それはないと思うよ」


 声に目を向けると、ファイが起き上がっていた。

「大丈夫?」

「だいぶスッキリしたよ。心配してくれてありがとう」

 ファイはそう言って焚き火の前にくると、チョーさんにスープをもらって一口飲んだ。


 そして、味には何も言わずに説明する。

「まず、それだけの大きさのロボットをどうやって動かすかを考えた場合……」


 すでに状況を把握済み、という話し方だ。寝ていても、会話の内容は聞いていたのだろう。


「この世界での主なエネルギー源は、薪。いくら蒸気機関を使ったとしても、二十五メートルもの高さの鋼鉄の巨体を動かすのは、並大抵の事じゃない。じゃあ他に方法はあるのか。例えば、原子力機関……そんなものがこの世界にあるとするのは、さすがに無理がある。だとすれば……」

 ファイは胸に手を当て、ギュッと握った。


「僕の超能力(サイコキネシス)に近いものが、彼にあるんじゃないかって」


 俺たち三人は、目を丸くしてファイを見た。

 熱くオタク語りしてた俺とは全然違う。巨大ロボという非現実的な武器に対して、「動力」という極めて現実的な観点から見るファイに、バルサもニーナも感心する。


「もしそうだとすると、鋼鉄の巨体を動かすのには、とてつもなくたくさんの体力を消費する――つまり、一日で移動できる距離は限られてる」


「すげーよファイ! さすがだな!」

 俺が肩を叩くと、ファイは照れたように目を細めた。

「そう考えると、一度に動ける距離はせいぜい一キロ程度じゃないかな? パイロットの彼が僕より体力があったとしても、一日で進めるのは、せいぜい数キロ。となれば、僕たちでも十分に追い付ける」


 希望が見えてきた。

 明るい表情でうなずき合う俺とバルサとニーナに対し、だがファイは顔を曇らせた。


「――ただし、それだけの体力を消費するのは、確実に、それも急速に寿命を縮める行為だ。早くしないと、彼は死んでしまうかもしれない」


 ……エドとアニが鳥や野草を持ち帰り、夕食は唐揚げの香味野菜あんかけ。

 どんな材料も美味しい料理にしてしまうチョーさんは、本当に天才だ。


 食事をしながら、俺はエドに聞いてみた。

「チョーさんって、どうして死んだの?」

「お仕事……もちろん料理人よ、その最中にガス爆発事故があって、それで」


「ワタシの美味しい料理、お客さんに食べさせられなかったアルよ。だから、もっともっと料理を作るネ!」

 聞こえていたのか、チョーさんが返事をした。

 プロ中のプロだ。


 食事の後、デザートの梨をかじりながら、俺はみんなに言った。


「ファイの言う通りなら、すぐにハヤテに追い付くと思う。だから、今夜はしっかり休んで、明日の朝出発という事で」


 病み上がりのファイと、看病役のニーナ、お守りのチョーさんとヤクは、この洞窟で待機。

 俺とバルサとエドとアニ……とファルコンで、ハヤテを追う。


「説得できればいいが、戦闘になった場合、どうする?」


 ……そこが一番の問題だった。

 もし、俺が言ったようなスペックが、ハヤテのフォートリオンにあった場合、剣や弓じゃ勝負にならない。


「実物を見てから考えるさ」

 俺は余裕のあるフリをして、ポケットの原稿用紙をポンと叩いた。

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